見出し画像

「休日にお金のための副業なんて意味がない」|東松寛文の提言その2

休日の有意義な過ごし方として、収入を増やす「副業」を考える人もいるだろう。しかし東松さんは、それでは意味がないという。東松さんが「お金のための副業は意味がない」と考えるのは何故なのか?そして、リーマントラベラーという「副業」で何が得られるのか?小誌編集長・島崎昭光との対談の中編。

※2020年3月掲載記事

大切なのは「自分の時間」。お金を稼ぐ、は本末転倒

ーー島崎:
リーマントラベラーって、サラリーマンであることに意味がありますよね。

東松:
当然です。

ーー島崎:
そこがいいと思うんです。最近「社畜のように働くのは良くないから独立して起業!」みたいな考え方がネットに溢れているじゃないですか。

東松:
ありますね。

ーー島崎:
その中で、東松さんはすごく現実的というか。仕事と仕事以外のバランスを説いているのであって、休日にスキルアップ!とかいうテンションでもないじゃないですか。

東松:
そういう人たちはお金で計りがちだと思うんです。僕のやっていることってある意味「副業」なんですが、副業をお金のためにやっていないから、人生が豊かになっていると思うんです。

ーー島崎:
なるほど。

東松:
副業をお金のためにやり出したら終わり、やりたくないことをやる時間が増えるだけ。そうではなくて、人生充実するようにしていくことが第一で、収入につながるのがその次。そこを履き違えている方が多い。もちろん、好きが仕事になることもあると思うんですけど。

ーー島崎:
いま、日本ではほとんど賃金が変わらないし、経済も緩く停滞している中で、お金を稼ぐだけが幸せじゃない、ということに皆が気付いている。お金を稼ぐ以外の時間の過ごし方を創意工夫していくのがベストなのに、「副業」と言った瞬間にFXやって何億円稼ぐとか。そういうことじゃないですよね。

画像1

東松:
だから僕は「休み方」を提案しないといけないと思っているんです。今の働き方改革の中で、休みができた時に、休んで何をしたらいいのか悩む人が多い。そういう人への提示が世の中少なすぎるんです。選択肢があることを知れるようにしたほうがいいなとは思います。

ーー島崎:
それがお金を稼ぐことでも、浪費することでもなく、何かあるはずなんですよね。

東松:
お金で語りがちな人は自分のことを分かっていない人だと思っていて。なぜならお金って物差しはすごい楽なんです。自分のことをわかっていなくても、お金が勝手に自分の線引きをしてくれるから。

ーー島崎:
昔、ある人に『ギャラって、あなたの評価だから』って言われたことがあるんですね。それはフリーランスのクリエーターとして高いギャラをもらう心構えとして言ってくれたんだと思うんですけど、素直に受けとめられなかったんです。沢山のお金をいただけるのは、そりゃ、嬉しいんですけど、それだけで自分の価値を決められるのって不本意だなってね。

東松:
そうなんですよ。そこが違うなって思ったらやっぱりお金とか給料とか、そういう基準以外のものを見つけるしかないと思うんですよ。

ーー島崎:
それは、何かを始めない限り見つからないし、見つけたら優先順位が変わるということですね。

東松:
そう、見つかるまでがしんどいんですけど、見つけて、やり始めたら最高だよって伝えたいです。

「サラリーマン」であること

ーー島崎:
東松さんさっき、「もったいない」が信条と言っていましたけど会社勤めは無駄が多いと感じていなかったんですか?

東松:
いや、会社員に対しては、全然疑問は持っていなかったですね。大学を出て新卒で社会人になるという選択肢以外考えてなかった。終身雇用、年功序列で死ぬものだと、いわゆる日本の教育で敷かれているレールの上にきれいに乗っかっていた。

ーー島崎:
意外。

東松:
その時は「自分」をもっていなかったってことなんですよ。

ーー島崎:
就職して会社組織に対する違和感もでてきて、何かを変えようと思い始めたわけですね。

東松:
はい。それでも僕はレールに乗っかっている中で、やりたいことに気付いて人生が変わった。こういうレールに乗っかりながらでもできることがあるってことを伝えたいんですね。僕はレールに片足突っ込んでいるからこそ、同じサラリーマンという環境で働いている人たちに伝えられることがあるんです。

ーー島崎:
それこそ考えなしに起業しようとか、リスクでしかないですもんね。

東松:
サイコーですよサラリーマン。

ーー島崎:
僕がサラリーマン時代に、会社に対して不満を持っていて、その時に尊敬する先輩から言われたことがあるんです。『サラリーマンにとっての仕事はゲームみたいなものだ』と。つまりゲームにはルールがある。そのルールに不満があるなら、例えば「なんで、サッカーでフィールドプレーヤーは手を使っちゃいけないんだ!」っていう不満と一緒だと。もし、サッカーのルールを変えたければ、それはサッカー協会なのかそういうところで働きかけていく、あるいは、自分の発言がルールを変えるくらいの影響力のある人間になるか、いずれにせよ、自分の一生分のキャリアをかけてやるくらいのことになる。それをおまえはやりたいのか、と。ルールを変えることにやっきになるんじゃなくて、そのルールの中でどれだけ自分を楽しめるかなんだと。

東松:
すごくよく分かります。

ーー島崎:
もちろんホントに不条理なルールは沢山あって、それを声に出していくことは大事です。言いたかったのは会社との距離の置き方で、一定のルールに従ってパフォーマンスをだすこと、それ以上でも以下でもないってスタンスが大事なんじゃないか。

東松:
だからこそ休日は仕事のことで時間を割かないで、自分のことに使うべきなんですよね。

「得るものがなかった」ことは、ひとつの経験

ーー島崎:
自分を変えようと思っていろんなチャレンジをすると、失敗したりもするじゃないですか。それでも何か得るものってあるんですか?

東松:
それを「一生やらなくていい」と決められたことが良かったと思っています。

ーー島崎:
全く意味がなかった、というわけではなかった?

東松:
意味がなかったものもあるんじゃないですか。でも、できないと分かったことに意味があると思っていて。僕は、死ぬ時に、やりたいことや可能性を100個残して死ぬより、1つの可能性がレベル100で死んだほうが、絶対幸せだと思っているんです。

ーー島崎:
可能性があるかないかは「できない」を分かって初めて判明するわけですね。

東松:
死ぬまでの作業って、自分の中の可能性を伸ばすことであり、可能性を消すことだと思っている。僕の中では可能性がないものをバシッとやめられたことは、将来の可能性を生むものを生むための時間ができてラッキー、みたいな感じです。

画像2

ーー島崎:
面白い!以前、夏木マリさんにインタビューをしたことがあるんですが、マリさんは「人生とはやりたくないことを見つける旅だ」と仰ってました。(夏木マリさんとの対談記事

東松:
深いですね。

ーー島崎:
マリさんは今でも「好きなことは何か?」と聞かれたら一つとは言わず、とにかく「今はできないことを探している過程だ」というそうです。人生なんてそんなものだと。

東松:
へえ。

ーー島崎:
まさに東松さんの言うように、できないかどうかを、とりあえずやってみて確認して、向いてないと思ったら次に行って、それを続けていくことで、いい意味で自分の可能性を消していく。夏木マリさんのような素晴らしいキャリアを積んで60代を生きる人でさえそうなのだから、僕等の世代はとにかくムダなことも含めて、いろんなことをやっていくべきなんだなあと。

東松:
そうなんです。なので、今の、「できないで得られたものがあるか?」の質問の意図がよくわからなかった。できないでいいじゃんって感じです。

ーー島崎:
っていうことですよね。

東松:
できないことがわかることが楽しい、結局それは自分を知ることだと思っていて。「これは事によってはできる」、「これはできない」と分かることは結果、自分がパワーアップすることにつながると思います。

第3回につづく)
写真:南方 篤

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?