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会っちゃったね ― 春馬くんとの3年

あの日、見たのは夜のニュース番組だった。
有名人のようだけど知らなかった。だから衝撃は受けなかった。
でも、あれ? もしかしたらあの番組の人かな、とうっすらした思いが頭に浮かび調べてみたらそうだった。
『世界はほしいモノにあふれてる』MC、俳優三浦春馬。
この番組は部分的にだが何度か見たことがある。木曜のその時間はいつも別の番組を見ていて、テーマに興味がないときだけチャンネル間をあてもなくさまよい、たまたま止まったところでちょこっと見たというだけだった。
なんかきれいな男の人がいるなと認識したような気はするが、だからと言って次からはこっちを見ようということにはならなかった。ひと目見たとき雷に打たれたようになっていれば違った話になるのだが、まったく見る目がなかった。
その後に放送された4回は全て見た。楽しくてステキな番組だった。
でも一度も録画はしなかった。

『太陽の子』友人からのメール
2020年7月、世はコロナ禍真っ只中。未知の災禍になんとか抵抗しようと、連日コロナの記事ばかり検索していたので、PCに表示されるのはコロナ関連だらけ。細々と続けてきた仕事も辞めて出かける必要もなく、ほぼ引きこもり状態になっていた。敵は憎きコロナだった。
そんなある日、友人からメールがきた。春馬くん出演のドラマが8月15日に放送される。重いテーマだが彼が一生懸命演じた作品なので観てほしいという内容だった。友人は春馬くんと同じ事務所の俳優。自身もひどく動揺していて周囲は大混乱だという。
ドラマのタイトルは『太陽の子』。原爆開発の話らしい。その時間に観るのは無理そうなのでとりあえず録画した。だが、それを観ることはなかなかできず時は過ぎていった。「三浦春馬」を詳しく知ろうという考えは、特に浮かばなかった。

それはいつ頃だっただろう。所属事務所や交友関係、そして最後のドラマを叩く声が聞こえてきた。
撮影途中だったドラマのあそこが変、これはおかしい、いじめがあったんじゃないか…。韓国に関する本が机に置いてあるのがいやがらせって、なんでやねん? 無性に腹が立ち、これは観なきゃならんとなぜだか思った。
9月、『おカネの切れ目が恋のはじまり』第1回を観て驚いた。イケメンイケメンと評判の人がこんな役で、こんなに面白く弾けて動き回ってるって、なんなん? この人…。
このときはあまりイケメンに見えなかったけど、男30歳は顔付きが変わる時期だからなあ、小栗旬だってちょっと前、顔が変わっちゃったなあと思ってて、きっとそれと同じだろうと感じた。
そして最終回。ああ、こういうふうに終わらせたんだ、共演者も制作陣もたいへんだっただろうとシミジミとはしたが涙は出なかった。そしてこれも録画しなかった。

ドラマと歌
ここウン十年、日本のドラマや映画はほとんど観てない。アンテナは立てていたが観たいと思うものは滅多になくて、映画もテレビもドキュメンタリー以外ほとんど観なかった。
だから若い俳優はまず知らない。だが小栗旬の名と顔は知っていた。舞台に出ていて新聞記事になることがあったせいだろうか。でも作品は観てない。芸人が大勢並ぶ番組に、佐藤健と神木隆之介がゲストで出ていたのはなぜだか覚えている。ああ、この人が佐藤健かと思ったんだ。映画かなにかで名が出ていたんだろう。仲のよさそうな二人は服を取り換えっこするとかいう話をしていた。
だけど三浦春馬という名を見たり聞いたりした記憶はない。「お~いお茶」のCMに出ていた市川海老蔵のことはよ~く覚えているが、三浦春馬は記憶にない。ほんとによくもこう出会わなかったものだ。

『おカネの切れ目が恋のはじまり』でちょっと興味がわき、なにか動画はないかと探してみると『サムライ ハイスクール』を見つけた。おバカなキャラとマジな侍の演じ分け、さらに殺陣姿が凛々しくてびっくりした。
続いて『14才の母』。こちらは至極真面目な話だった。戸惑い揺れ動き苦悩する少年の微妙な内面を、若いのにうまく表現してるなあと感心した。
志田未来は知っていた。子供のような彼女が赤ちゃんを産むという衝撃的な内容で評判になっていたのを何かで見た覚えがあるが、相手役のことは記憶にない。
こうしてドラマを3本観たのだが、そこには慶太と小太郎とキリちゃんというまったく異なる人物がそれぞれしっかりと存在していて、三浦春馬という役者をひとくくりで表現する言葉を見つけられなかった。
歌っている動画もあった。『白い恋人達』を初めて聴いたとき、声にはそれほど特徴はないと感じた。クセの強い声の歌い手が好きな自分にはマイルドな声と歌い方に聞こえたのだ。しかしどういうわけだか気になって仕方がない。どうしても出だしが合わせられなくて、何度も聴いているうちに頭から離れなくなった。
『白い恋人達』『春の花』『ホワイトセレナーデ』…。なぜだか止められず家事をしながら毎日何時間も繰り返し繰り返し聴いていた。鈍いわたしの心になにやら波風が立ち始めていたらしい。気づくと春馬くん関連の動画や記事を探すようになっていた。
映画やドラマシーン、バラエティ番組、インタビュー記事や写真をまとめた動画など、いくらでも出てくるので端から「お気に入り」に入れていた。
しばらくして、そのうちの一つを見ようとしたら表示されなかった。削除されていたのだ。そんなことも知らなくて、慌てて大容量のハードディスクを買ったが、あまりに数が多く整理して保存するだけで時間を取られていた。2020年12月頃のことである。

ネットの海
年が明けてからかなり経ち、捕獲した動画を少しずつ観始めた。だが役によって、いやシーンによって顔付きがうんとちがう。ものすごくきれいなときもあればそうでないときも多い。インタビューでニコリともせずぶっきらぼうに話しているかとおもえば、とても雄弁に楽しそうに話していることもあって三浦春馬像がひとつに結べない。いったいどういう人なんだ…?
ブログを探っていたある日「note」と巡り合う。以前からファンだった人、そうでもなかったのに好きになったという人たちが想いの丈をたっぷりと発信していた。作品内容や人柄、いろいろなエピソードをここで知り、どうしても書きたくなって人生初のコメントを送った。
そうだ、この頃はなんだか心がぐらぐら揺れていたんだ。誹謗中傷や憶測だらけの記事やコメントを目にすることが増えていたせいだろう。緊張して何度も書き直したコメントに「スキ♡」が付いて返信があって、ものすごくホッとしたのを覚えてる。そっか、誰にも言えない気持ちを初めて外に出すことができたんだ。
毎日、家事そっちのけで朝から晩まで作品を観て、歌を聴いて、記事やブログを読んだ。そしたら、いつの間にか涙を流している自分がいた。悲しいことでは滅多に泣かない強情な性格なのに、炊事中や風呂を洗うときにも泣いてた。布団に入るとまた泣けてきて声を殺して泣いた。どうやら深い沼にどっぷりと頭のてっぺんまでハマってしまったらしい。

2021年3月。毎年シーズンステイしているタイでもコロナ感染が広がり始め、チケットを買い直して急きょ帰国してから一年が経った。いつもならマンゴやタイ料理を満喫している時期なのに、今年はコロナ禍で身動きが取れない。
観れば観るほど魅力的で鬱屈した気分を晴らしてくれるのも春馬くんなら、知れば知るほど心を苦しめるのも春馬くんで、なんだかぐちゃぐちゃの泥沼にいるような気分だった。
5月、WOWOWの大きな新聞広告に『ダイイング・アイ』無料配信の文字。まだ知らないオトナ春馬くん…。恐るおそる無料トライアルを申し込む。
ドラマや映画をPCで観られる世の中になっていることを知り、これを皮切りに次々と申し込む。ほかでも春馬くん作品を繰り返し無料配信しているのを見つけては、どれも見逃すまいと朝から夜中まで作品を観続けた。
そのうち観るだけではなくあらすじを書き取り、春馬くんのセリフを抜き出し、感想や疑問を書き残すようになった。こうして何度も何度も観て、原作小説や関連の本を読み、わからないことを調べ、作品と春馬くんをなんとか理解しようとしていた。
そんなことを続けてたら 2021年も 2022年も過ぎて、なんと2023年の6月になっていた。その間、コロナは何度も大きな波を起こしては引いていくを繰り返し、世の中は以前を取り戻そうと必死にもがいている。
世間で春馬くんの名を目にすることはほとんどなくなり、note上でも同様だった。ネットの海を未だウロウロしている自分としてはさみしいが、3年近くが経てばそれも仕方ないのか。
多くの人は新たな贔屓を見つけ出したのだろう。春馬くんを忘れたわけではないが、別の何かに熱中でもしなければ身がもたないだろう。

おおいなる旅路
春馬くんを応援する人にはエンターテインメント好きが多いようだが自分はそうでもない。セリフを音にのせるタイプのミュージカルが苦手(よく言われるヤツね)。春馬くんがやりたがってた『アリージャンス』や『ディア エヴァン ハンセン』も観たけど、う~む、微妙…。ほかの人を追いかける気持ちも起きない。
美男子はダイスキだけど役者にそれは求めない。おいしいモノと好きなコトは自力で見つけ出すのが信条の頑固なへそ曲がり。群れるのが苦手。そんな自分が春馬沼でアップアップしてる。
涙を流すことは減ったけど、それでも悲しみは消えない。自分はいったい何がこんなに悲しいんだろう。
コロナ禍がなければこんなことにはならなかった。こんなことになってなければ、自分は一生春馬くんを知らなかった。いなくなったことで彼を知った。悲しみの原因はこれなのか。

「会わなきゃいけない人には絶対会えるんじゃない?」。拓人の言葉が胸に響く。
メグがつぶやく。「会っちゃったね…」
そうか、あのときわたしは春馬くんと巡り合ったんだ。会わなきゃいけない人にやっといま会えた。そう思えばいいのか。
知り合ってまだ3年。
春馬くんのこれまでの旅路とこれからの長い旅を応援していこう。
まだ会っていない人が春馬くんと出会えるように。世の中が春馬くんを忘れてしまわないように。そのきっかけになれるよう祈りを込めて。
怖れることは何もない。すべてはここからだ。
              ―harumanis@mango 自己紹介に代えて―


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