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15夜◇恋しさはおなじ心にあらずとも~源信明

恋しさは おなじ心に あらずとも
今宵の月を 君みざらめや


(意訳:恋しく思う気持ちは同じではないかもしれませんが、今夜の月をあなたも見ているでしょうか。)

源信明 拾遺和歌集

京都で暇をもて余していたある日、一枚の歌仙絵の前で立ちつくしてしまいました。京都国立博物館、分断された和歌の絵巻が100年ぶりに集うという、歴史的な展覧会でのことでした。

興奮に包まれた会場が息苦しく、私はふらふらと遠巻きに眺めていたのです。そんな中、この歌の前を通り過ぎたとき、唐突に、たしかに月が見えた。

息を呑んで引き返し、向き合ってみると、澄んだ月が浮かび上がり、涙がこぼれる思いがしました。

あの人も同じ月を見ているだろうか..。そう思うだけで、心はあたたかくもなるもの。同じ空の下に、大切な存在があるということ。これ以上のことなど、本来何もない。

「人を想う気持ち」この歌には、その根本的な心が、すべて込められているように感じました。

人は常に、これほど無垢な心でいることは、難しいかもしれない。それでも月を見て、この歌を思い出すたびに、人が人を慕う気持ちというものを、教えられるのです。