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14夜◇いかばかり嬉しからまし秋の夜の~西行法師

いかばかり 嬉しからまし 秋の夜の
月澄む空に 雲なかりせば


(意訳:どんなに嬉しいだろう。秋の夜、月が澄んだ空に、雲がなかったならば。)

西行法師 山家集

今夜は十五夜。
一年で最も月が美しく見えるという、特別な夜。

曇りなく中秋の名月を愛でられたら、どんなに嬉しいだろう。わたしも、そして月を待つ方ならば皆、同じ気持ちですよね。

西行法師。
花を見ては苦しみ、月を見ては涙した歌人でした。生涯、迷いを捨てず、矛盾を見つめ続けて生きた人。「喜びの深きとき、憂いいよいよ深く..」という明暗の表裏を、まさに体現しているよう。

そんな西行も今宵ばかりは、無上の喜びをもって、空を見上げたのでしょう。

口ずさむほど、一途な嬉しさが込み上げてくる。この歌が放つ純粋な輝きは、円熟して澄み切った、十五夜の月の光そのもののように感じられる。

技巧と憂いの和歌がもてはやされた時代、名月の夜を前に、この歌を詠める人が他にいたでしょうか。

今年の十五夜には、わたしはこの歌を一番に掲げたいと思う。幾世はなれようとも、同じ十五夜の月を見上げるならば、心は一つになれると信じて。