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『ぼくのまつり縫い』あとがき(裏)―作家としての幅を広げてくれた作品

9/29に完結巻の3巻が発売となった『ぼくのまつり縫い』シリーズのあとがき(裏)です。こちらでは作品の中身についてではなく、この作品が私にとってどんな作品であったか、至極個人的なことを書きます。
作品の内容に関するあとがきについては(表)をどうぞ↓

色んな「初めて」の作品

今作は、私にとって様々な「初めて」を経験させてくれた作品でした。

●新人賞経由ではない版元さんからの初めての作品
●初めての単行本
●初めての書店での大展開・書店巡り
●初めてのサイン本
●初めての地元の図書館訪問
●初めての新聞広告・様々な媒体での紹介
●初めての課題図書
●初めての男の子主人公

そして初めてではないのですが、「恋愛要素なし」の作品です。

「恋愛もの」だけへの不安

デビュー作こそ青春部活ものでしたが、以降、『ぼくのまつり縫い』までに出た自著はすべて、恋愛が主軸となったお話でした。
その理由は、私の作風に合っていること、そして「恋愛ものを」という版元からの強い要望があったからです。デビュー後に縁があったのがエンタメレーベルゆえ、恋愛ものの方が売りやすい・売れ線だから。
かつ、女子向けの恋愛ものだったので、主人公は基本的に女子限定。

アマチュア時代も恋愛要素のあるものは書いていましたが、それでも50%に満たないくらい。なので、こんなに恋愛ものばかり書くようになったのは、実は商業デビューしてからということになります。

先に断っておきますが、恋愛ものは嫌いではないのです。書いていて楽しいとも思います。胸キュンは好物です。
でも、それだけでいいのか、という不安がずっとありました。
なんせ、それ以外のものも、もともとはたくさん書いていたのです。デビュー以降、それだけになってしまっているのが、もうとんでもなく不安でした。ほかのこともやりたいという気持ちもさることながら、ほかのものを書けなくなってしまうのではという恐怖心みたいなものが常にありました。

そんなとき、偕成社さんとお仕事をするきっかけをもらえたのです。

あえて選んだ「恋愛もの」以外

偕成社の担当さんとの最初の打ち合わせで、こんな要望を伝えました。
「恋愛もの以外、かつ男子主人公の作品がやりたい」

どうかなーと思ってたんですが、あっさり希望を聞いてもらえて、いやもう本当にありがたいことでした。

こうして話を進め、このとき企画書の一番目に書いた案が『ぼくのまつり縫い』。なお、企画時からこのタイトルでした。

恋愛以外でも通じるのか

こうして何度か直しを経て原稿も完成。初回の打ち合わせからちょうど1年ほどでの出版となりました。

念願の男子主人公だし、そのほかのキャラクターも自分の好きな要素をたくさん詰め込みました。メガネ女子の糸井さんとか、内気なサンカク先パイとか、どのキャラもみんなお気に入りです。
そして、舞台は私の実家近く。色んな意味で思い入れのある作品になりました。井田さんのイラストも本当に素敵でいい本になった実感はありました。

でも、発売になるまで本当に不安だったんですよね。
恋愛要素がないから売れないんじゃないかと。

思うんですけど、右も左もわからない状態のデビュー前後で教えられたことって、すごく強く刻まれるんですよ。もちろんあの頃に教えていただいたことあっての今の自分なのです。が、すべてではないにしろ、それが特定のジャンルに特化した話であるかどうかということは、よそに出てみないとわからないことです。
なので、今は児童文学とエンタメじゃ畑も読者層も違うと実感としてわかるんですが。あの頃は本当に通用するのか、まったくわかりませんでした。

そして、結果はというと。
『ぼくのまつり縫い』は本当に多くの人に受け入れてもらえ、販売部の方々のご尽力などもあり、ときわ書房の千城台店様や志津ステーションビル店様で大展開いただき、去年も今年も夏の課題図書にも選ばれました。

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図書館の所蔵も多く、体感として、私の作品の中ではもっとも読まれているのではないかと思っています。
恋愛じゃなくても、読んでもらえて、受け入れてもられるんだなっていうのは大きな自信になりました。

恋愛ものを書くのが前より楽しくなった

『ぼくのまつり縫い』を受け入れてもらえたこともあり、恋愛もの以外の作品も、最近は書く場をもらえるようになりました。
現在取りかかっている作品のうち、3~4割が恋愛メインではなかったり、恋愛要素があってもそれ以外に主要なテーマがあったりする感じです。

するとですね、前より恋愛ものを書くのが楽しくなったのです。

まじめな作品とラブコメ、まったく頭の使い方が違うので、交互に作業すると甘いとしょっぱいみたいな感じですごく案配がいい。どっちの作業をするときも新鮮に感じられます。
まじめモードからラブコメモードに切り替わったときには、「よーし、今日は胸キュンてんこ盛りしちゃうぞー」とよりテンションがめっちゃ上がるようになりました。すごく楽しいです。

また、『ぼくのまつり縫い』のおかげで、自分の好きなものやテーマにも自信が持てるようになりました。
テーマやモチーフとジャンルの相性って本当にあるのだと身に染みて思います。そのジャンルでカテゴリーエラーな題材をいくらいじくり回したって、企画は通らないのです。『ぼくのまつり縫い』のおかげでそれが理解できるようになりました。
そして、同じ恋愛ものでも、変化球を狙ったり、これまでやれてなかったことに挑戦しようという気持ちにもなれました。

「恋ポテ」シリーズのような、恋愛要素もありつつ、児童文学としてのテーマもふんだんに盛り込んだ作品を書けたのも、こんなプラスの影響のおかげもあるかなと思います。

作家としての幅を広げてくれた作品

そういうわけで、『ぼくのまつり縫い』は、私にとって本当に大きな転換点となった作品です。

3巻の後半で、ハリくんが『あの日のまつり縫いが、ぼくのいろんなものを変えた。』と一年生の頃のことをふり返るシーンがあります。
まさに私にとっても、今作が色んなものを変えてくれました。

「好きなものを大事にする」ということをテーマにしたことで、私自身がたくさん救われ、作品の幅を広げることができました。
ハリくんと出会えて、私も本当によかったです。

チャンスをくださった担当さんには、言い表せないくらい感謝しております。そして編集部や販売部などの偕成社のみなさま、素敵なイラストで強力なお力添えをしてくださった井田千秋様、応援してくださった書店様、作品を受け入れてくださったすべての読者さま。本当に感謝しています。

これからも書いていきます

偕成社さんとはすでに次の企画も進めていて、絶賛取りかかっている最中です。『ぼくのまつり縫い』と共通のテーマもありつつ、まったくテイストの異なるお話になる予定です。また、ほかの版元さんとも、様々な作品を進めているところです。新しいことにもたくさんチャレンジしていきたいです。

得意なラブコメも少しまじめなお話も、色々とお届けできるよう、引き続きがんばります。楽しく書いて、楽しく読んでもらえたら本当に嬉しいです。
楽しくて好きなものを大事にしたお仕事をたくさんしていきたいです。

「ぼくのまつり縫い」シリーズ、もし未読でしたら、この機会にぜひまとめてどうぞ!


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