短編小説:焦がすのは?

 女子大生がだらだら愚痴ったり諭されたりする話。約1100字。

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「毎度毎度愚痴るくらいなら、すぱっと別れてほかの人探した方がいいって」

 冷静な親友の言葉に、カシスオレンジのグラスを勢いよく空けたばかりの私は「そうはいっても……」と途端に言葉の勢いをなくし、目の前のもんじゃ焼きをヘラでつついた。

 来週にはバイトのシフトがわかるって言ってた彼氏から、もう三週間まともな連絡がない、と愚痴ったのは私だ。

「LINEの返事はあるの?」

「一応あるけど」

 しびれを切らして『シフトどうだった?』ってLINEで訊いたのが昨日のこと、『ゼミが急に忙しくなって全然時間がなくってさ』って言い訳された。だったら最初に言った期限にそう連絡してこいと思う。

「約束とか期限を守れって思うのおかしい? 期限が守れないならひと言連絡してって思うのおかしい? どういうことなのかちゃんと説明してって思うのおかしい?」

 もういっそ好意なんてないって言ってほしいって思うのおかしい? という言葉だけは浮かんだけど口にしないで吞み込んでおく。

「別におかしくないでしょ」

 麻奈果の同意に、でしょ? でしょ? と私は空のグラスを両手で包む。

「約束は守りましょうって小学生でも習うでしょ? 私はただ人として最低限の対応をしてもらいたいだけなのに!」

 勢いを取り戻した私にじと目を向けつつ、麻奈果は自分の分のもんじゃ焼きを皿に取る。鉄板から直接食べない派らしい。

「そういう普通の対応を毎度毎度してくれない彼氏なんて、こっちから別れてやれって言ってんの。LINEも既読スルーでデートもずっとしてないんでしょ? 世の中ほかにもっといい人いるって」

「そんないい人なんて私ごときじゃ無理」

「いい人っていうか『普通の人』だけどね」

 私は目の前のもんじゃ焼きをヘラでのばし、お焦げ作りにチャレンジしつつ応える。

「普通の人が私に興味を持つなんて思えない」

「なんでそんな自己評価低いの?」

「麻奈果みたいにモテないし。モテない人生史上初めてできた彼氏だし」

「合コンでもなんでも行こうよ。大学生活あと一年半だよ? もうすぐ就活も本格的になるしさー。そもそももうそれ自然消滅してるって」

「いやでも、たまになんでもない風でLINE来るし、会えば普通だし……」

 ヘラでもんじゃ焼きを押し潰し、まだまだ鉄板に押しつける。

「こっちを大事にしてくれない人のことを大事に思ったって疲れるだけだよ」

「でもさー……」

「それでも切らないなら、もう何も期待しないことだね」

 ヘラをそっと持ち上げる。いい感じにでき上がったお焦げを口に放り込み、舌をやけどして涙目になった。

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 自分を守るためには期待しないのも一手だなーと思った九月。約束を守るのって当たり前だと思ってたけど、意外とそうじゃない世界も世の中にはあるんだよなぁ。

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