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【駄文】脳裏に浮かぶトモの笑顔とジャンバラヤ 『わたしを離さないで』番外編

突然だが、ジャンバラヤを作ることになった。
私が選んだのは以下のレシピ。

ジャンバラヤは、アメリカ・ルイジアナ州の郷土料理だそうだ。最近でこそファミレス等で見かけるようになったけれど、日本人になじみがあるとは言い切れない。むしろ、同じ米料理ならパエリアのほうがなじみ深い。

別に、「ジャンバラヤの素」とかも売っているので、それを買って作ってもよかったのだけど、なんとなく素を使いたくなくて、レシピにしたがって作ってみた。チリパウダーを使うと書いてあったけど、家になかったので一味唐辛子を代わりに使った。

キッチンに漂う炒めたにんにくの香りに誘われて、夫と娘が寄ってきた。食欲が刺激されたのかもしれない。見慣れないものを作っている私の手元を覗き込む夫と娘の目に、ちょっとした期待が見え隠れする。

作ってみて思ったのは、あまり日本人の普通の家庭にはない調味料を使うけど、簡単だなということだ。食材を炒めて、パエリアと同じように蒸らす。スパイシーなこの米料理はなかなか美味しくて、家に材料さえあれば何度でも作ってみたい気にさせる。

食べながら、三浦春馬さんの出演ドラマ『わたしを離さないで』で、春馬さん演じるトモが、ジャンバラヤを頼むシーンを思い出していた。陽光学苑を出た後、初めてみんなでファミレスに入って、右も左もわからない中でメニューを手渡された一行は、悩んだ結果、トモ以外全員カレーを注文するのだ。

ドラマ『わたしを離さないで』についてはこちらに感想を綴ってある。

笑顔で「ジャンバラヤにする!」だったか「これにする!」だったか忘れたけれど、思い切り良くピュアに注文するものを決めて、「みんながカレーならやっぱり俺もカレーにしようかな」とならず、揺るがなかったトモに、トモがトモであることに心が動いたのを思い出した。

重たいドラマだった。提供者の立場である恭子も美和もトモも、自分の身体や気持ちは、やがて誰かのものになってしまうものであって、自分のものではない。いわば期間限定で自分に与えられた身体と意識を、提供が始まるまでの間は十分に堪能しようと思ったのかもしれないと、トモの思いをぼんやり想像しながら、おいしくいただいた。

ジャンバラヤはシンプルな料理だ。味付けはコンソメとパプリカパウダーとチリパウダーと塩とカレー粉。調味料があまり日本人の家庭に常備されているものではないだけだ。スパイシーなアメリカの炊き込みご飯は、ただのカレーピラフとは違う味わいになっている。

ところで、トモはあの時なんでジャンバラヤにしたんだろう。

なんとなく名前のインパクトもあるし、わあ、面白そう。おいしそう。そんな感じのセレクトだったのではないだろうか。変わった名前を目にしてトモがした、少しの冒険に「トモらしさ」を感じて、やっぱり三浦春馬ってすごいなと感じたことを思い出す。

ジャンバラヤを食べてトモが浮かんだからと言って、この過酷でシビアなドラマをまた観なおそうという気持ちは起こらなかった。観なおすにはそれなりの覚悟が必要な作品である。
簡単に観なおそうという気は起こらないのだけれど、三浦春馬という表現者を見つめるとき、私はこの作品を避けては通れない。脚本家・森下佳子さんと表現者・三浦春馬さんの組み合わせは、私の中ではかなり作品として存在感も、インパクトも強い。

いつかまた、『わたしを離さないで』を振り返るときには、ジャンバラヤを用意してから観ようかなと、ぼんやり思うのだった。


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