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春の陽気と青い空と墓石と

浄土真宗のお経って、なんだか変わっているよなあ。

母の納骨のために訪れた寺の本堂で、読経を聞きながら思っていた。読経の最中、背後で賽銭箱らしきものに小銭を投げ入れる音がした。ここは寺なのか神社なのか、一瞬分からなくなる。

遺影をぼんやり眺めながら、
冷たくなった手の感触に驚いたことを思い出した。
骨壺を抱えて外に出ると、亡くなった日と同じ抜けるような青空が広がっている。
どうやら母はもう、この世には微塵も未練が無いらしい。
ならばあっさりと見送ろう。

それにしても、昨日は雪だったのにこの陽気はなんなのか。まるで春だ。雪国出身で、特に寒がりだったわけではないはずなのに。もしかしたら見送るわたしたちへの、母なりの気遣いなのかもしれない。

しばらく来ていなかった都会の寺のまわりはすっかり変わっていて、背の高い建物が立ち並ぶ。黒い墓石に新しく刻まれた母の法名に目をやると、視界の端にマンションのベランダと洗濯物と、青い空が目に入る。

なにげない日々の営みの中に、母はもういない。
けれども、案外まだ近くに居るのかもしれない。

一通り納骨にともなうあれこれが終わると、なんだかお腹が空いてくる。
墓石と法名と青い空。温かな日差しに目を細めながら、伸びをする。
何を食べようかなと思いながら、ゆっくり寺を後にした。

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