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新年度

朝、電車に乗った時は陽射しに目を細めていた。重たい鞄をさげて、疲れた体を引きずりながら駅まで歩く。次の電車は21時40分。外はすっかり真っ暗だ。

パソコン画面の見過ぎか、スマホを見る目がしぱしぱする。字がよく見えないのは、疲れ目のせいか老眼のせいか、はたまた両方か。

家族のグループLINEにメッセージを送る。「お弁当箱を洗っておいてね」と。今日から始まった息子のお弁当作りは、あと3年。娘の時とはまた違う注文が出て来るだろう。もっと大きいのが良いとか、肉が足りないとか米が足りないとか、考えるだけでなんだか楽しくなる。

ほんとうは、「お弁当どうだった?」とか「学校どう?」とか、たわいもない会話をしたい。わたしが今日家に着くのは、23時を過ぎる。子どもたちが寝ているかどうかは微妙だけど、起きていたところでゆっくり話す時間はない。何せもう目はよく見えないし、明日のことを考えたら一刻も早く寝たい。

抱えられるだけ抱えてみるつもりで走り始めた。走ってるうちに、子どもは手が離れていった。どういうわけか仕事が増えた。

24時間は誰にとっても24時間。仕事が増えると、なにげない会話の時間は減る。大切な人とのなんでもない時間の積み重ねは、すぐそばにあるのにすごく遠い。「そこそこ使える会社員」であり続けるのは、なかなかに厳しい。

お気に入りのラジオを聴く。最近はタイムフリーで聴けて便利だ。終わったらリピート。何度でも。

声に癒されうとうとしていたら、いつの間にか息子が起きているうちに家に着いて、会話している自分がいた。

お弁当箱…と言いかけて目を開ける。

車窓の向こうは、相変わらず暗い。

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