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2月観劇記録 『テラヤマキャバレー』

そういえば、香取慎吾さんのお芝居は観たことがない。『テラヤマキャバレー』の上演が発表された時真っ先に浮かんだのは、果たしてチケットが取れるのか?ということ。共演の成河さん、伊礼彼方さん、凪七瑠海さんの名前を見て、チケットが取れたら取ろうと思い立ち、抽選申込。運良く2階のセンターブロックの席をいただき、今年2度目の日生劇場へ。


観劇日・キャスト


2024年2月23日(金・祝)マチネ
場所:日生劇場

キャスト(敬称略)は以下の通り

寺山修司  香取慎吾
白粥    成河
蚊     伊礼彼方
アパート  村川絵梨
暴言    平間壮一
舌ちょんぎり 木村風太
ミッキー  福田えり
青肺    横山賀三
死     凪七瑠海(宝塚歌劇団)

テラヤマキャバレー 公式ホームページより

あらすじ

寺山修司(香取慎吾さん)は焦っていた。思うように芝居の稽古が進まない。劇団員はみんな、寺山の言葉を待っている。

と、そこへ「死」(凪七瑠海さん)が現れる。「迎えにきた」と。寺山修司は芝居が完成しない、行けないと言う。死は夜明けまで待つ代わりに、面白いものを見せてくれという。

そう。これは今際の際の寺山修司の夢の中のお話。

感想

けっこうちゃんと舞台役者・香取慎吾さん

2階席から観ていたので、まずは第一声がちゃんと届くのか?という最低限のことが気になっていた。杞憂だった。

スキルフルなミュージカル俳優ほど声の幅があるわけでは無いし、熟練のシェイクスピア役者ほど滑舌が良いわけではない。だけど台詞はきちんと聞き取れるし、ちゃんと寺山修司として苛立ちつつも板の上に存在していた。

きちんと寺山修司を見届けなくては。わたしのスイッチが入る。

アホみたいな身体能力・平間壮一さん

そもそも平間壮一さんの身体能力については、色々観たので知っていたわけだけども…それにしたって、ダンサーか?ダンサーなのか?とつい声をかけたくなるほどのびのびと、まるで舞台の上は狭すぎる!とでもいうかのように動き回る。じつに自由だ。

三島由紀夫でいる瞬間が多い(というか、寺山の脳内で彼に三島由紀夫役をやらされている)。寺山修司の敬愛する作家であり、「言葉を愛し、誰かに届けたいと渇望した」ひと。「動」の役者である平間壮一さんに言葉を託す演出が、おもしろい。

「蚊」って!のびのびし過ぎな伊礼彼方さん

配役が発表になった時、「蚊・・・?蚊ってどういうこと・・・?」と若干混乱したけれど、そもそも他の人も「アパート」だとか「白粥」だとか「死」だとかいうネーミングなので、劇場に行くまでそんなに気にしていなかった。

しかし、蚊だった。見事に蚊だった。

伊礼彼方さんは昨年1月の『キング・アーサー』以来。あの時はこんな声欲出るなというくらいのハイトーンをファルセット無しで出してただけでもビックリだったけど、蚊って! あの駄菓子屋で売ってる、息を吹き込んで伸ばして、縮むとクルクルするやつをもって、ちょっとオネエふうにクネクネしていた。

登場人物全員が寺山修司の夢の中の存在なので、どこかみんな「寺山修司が作り出したもの」感があるのだが、蚊だけは少し違っていて、「もう1人の寺山修司自身」に見える。もっともこれは「死」も同じで、寺山自身が3人に分裂したような感じだった。

全体的に

「墓はいらない。言葉があればいい」と語る寺山修司にとって、言葉とはなんだったのだろう。演劇、詩、文学。さまざまな形で言葉と対峙した彼の言葉は、寺山修司そのものだったのでは無いだろうか。

寺山修司の話だと聞いて連想していたのは、もっと真ん中に座る香取慎吾さんを中心とした演出だった。だがまったくそんなことはなくて、むしろ周囲に目がいく。ある意味他の役者さんたちが寺山修司を体現しているところが、面白かった。

終わりに

香取慎吾さんは知名度もあるし、舞台の世界ではそこそこ名の通った役者さんが揃っていた。そのわりに、すんなり複数枚のチケットが取れた。舞台を観に行く層は、限られているんだと実感させられてしまう。

いろんなところでチケット代の高騰問題については触れられている。気楽に誘えないことは確かだ。配信や映像化を含めた版権について検討するのは、難しいことなのだろうか。

舞台を直に観たいと思ってくれる人を増やすための活動も、必要なんじゃないかなと思う。新感線のやってるゲキシネみたいに。

演劇もミュージカルも、裾野が広がってやりたいと思う人が増えれば、役者さんの層が厚くなる。そうすれば、日本で上演できる演目が増える。そういうポジティブなスパイラルができてくれることを祈っている。

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