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音楽の素人が語る歌い手・明日海りおの魅力

ミュージカル界のプリンス・井上芳雄さんのコンサートの抽選に外れたその日は、ゴールデンウイークに入る直前の土曜日だった。

宝塚歌劇団をいつか観てみたいと思っていた私は、『エリザベート TAKARAZUKA25周年スペシャル・ガラ・コンサート』をどうしても観たくなっていた。芳雄さんのコンサートが入っていない日を中心に何度もチケットを取ろうとした。しかし1枚もチケットが確保できず、仕方なくその日の配信チケットを購入したのだった。「14年花組フルコスチュームバージョン」と書かれたところで、その華やかさも素晴らしさも、当時の私は分かっていなかった。

「何度も」と言っているが、明日海りおさん主演ミュージカル『マドモアゼル・モーツァルト』の公演チケット争奪戦に参加した今なら、わかる。あの時の私はチケットを取ろうとしたものの、全然「執拗」ではなかった。むしろ「淡泊」なほうだよと、あの日の私に教えてやりたくなる。

とにかく井上芳雄さんのコンサートに行き損ねたこの日、私は『エリザベート』という作品と、ミュージカル俳優・明日海りおさんの抗いがたい魅惑の引力に、なすすべなくひれ伏した。以来、取り憑かれたように『エリザベート』について調べはじめた。皇妃エリザベートについて、ハプスブルク家について調べた。はたまたウィーン版のCDを買って聴いてみたり、東宝版の『エリザベート』のCDを買って聴いてみたりした。宝塚で公演された『エリザベート』のうち、2018年に上演されたものも観た。

『エリザベート』という作品の概要については、以下リンクの『エリザベート』という作品についてを参照していただきたい。

何度も何度も繰り返し『エリザベート』の楽曲を聴くうち、私の耳が明日海さんの声を欲するようになった。iTunes Storeで明日海さんのコンサート「恋するARENA」のライブ音源をダウンロードして聴いた。明日海さんの出演作・『春の雪』も、『ポーの一族』も楽曲をダウンロードして聴いた。

いったい明日海さんの歌の何に私は惹きつけられているのかを、自分なりに綴っていくことにする。

魅力その1:声に漂う色香と妖艶さ

私が明日海さんの歌う曲をいくつか聴いた中で、最も好きなものをいくつか挙げながら、魅力を紹介していくことにする。

【「最後のダンス」(『エリザベート』より)】
2014年、宝塚歌劇団花組が上演した『エリザベート』で、明日海りおさんはトート(死)の役を演じた。作品中、オーストリア皇帝フランツとの結婚を決めたエリザベートに対し、トートが妖しく歌い上げるのが「最後のダンス」である。

先日井上芳雄さんがNHKの番組『あさイチ』に出演された際、「最後のダンス」を歌っておられたので、曲自体はご存じの方も多いだろう。ちなみに私は、朝からなんちゅー歌を歌うんだと思わずテレビの前でツッコんでしまった。

あなたの愛をめぐって 皇帝陛下と争う
あなたは彼を選んだ 私から逃れて

二人の愛は見せかけ 陛下の腕に抱かれて
あなたはそっと私にも 微笑みかけている

(中略)

ハプスブルクは朽ち果て 広間の客は息を止め
お前と俺のデュエットを じっと待ち焦がれる

(中略)

闇の中から見つめている
最後に勝つのはこの俺さ

勝つのは 俺さ

とまあ、結婚を決めたばかりでラブラブなはずのエリザベートに対して、妖しく力強く迫るのである。歌詞も、最初はエリザベートを「あなた」、自分を「私」と呼んでいるが、トートのテンションが上がる曲の後半は、「おまえ」と「俺」になる。

そして明日海さん演じるトート、とんでもない美貌の持ち主である。観てるこちらがクラクラしてしまうほどだ。

・・・なぜ落ちないのだエリザベートよ。意志が強すぎるだろ。とツッコみたくなる。もし私が彼女なら、間違いなくホイホイトートの後をついていっているに違いない。あれほど美しく、一途に愛してくれる存在が側にあるのに拒絶するとは、なんたる贅沢だろう。

明日海さんのトートが歌うこの曲の好きなポイントはなんと言っても、「お前と俺のデュエットを じっと待ち焦がれる」の「る」の後の、吐息のような息遣いである。その前の「ハプスブルクは」あたりから効いているビブラートと合わさって、この「る」の後の妖しい息遣いが本当に黄泉の国からエリザベートを誘惑しに来たように思えて、何度聴いても震えてしまう。歌詞が表すトートの気持ちの昂りと同期していることをビシバシ感じて、心を持っていかれてしまう。

【「エドガーの狂気」(『ミュージカル・ゴシック ポーの一族』より)】

僕は狂っている 人間をやめたその時から
僕は狂っている 人間に戻りたいと思いつつ

冷たい手と 冷えた唇 人を見れば定める
白い首筋 エナジーのくぼみ 温かい命の流れ 

抑えきれなかった

ああ あの日 今日の光が一生続くと信じていたころ 
後ろを来る妹を 立ち止まり待っていたころ
すべて過去 二度と戻れない

狂った僕の行方を 誰が知っているだろう
狂った僕の心を 誰が癒せるのだろう

僕は狂っている もう後にはかえれない

「エドガーの狂気」は、明日海りおさん演じるエドガーが、大老ポーからエナジーを分け与えられ一族に加わった直後、あまりにあっさりと花売りの少女の命を奪ってしまった後に歌われる。「抑えきれなかった」のところを歌う時、エドガーの混乱と、抗えぬ習性への嫌悪が伝わってくる。「狂った僕の心を 誰が癒せるのだろう」に至っては、エドガーの悲痛な叫びにしか聞こえない。

混乱と哀しみに満ちた歌声は、『エリザベート』のトートの妖しいささやきとは全く違う。違うんだけれども、明日海さんの歌にはどの曲にも、妖艶さと色気がこれでもかと、ぶちまけられている。

彼女が舞台で役を生きる時、圧倒的な美貌から「美の暴力」と形容されることがある。私は、「美の暴力」はルックスだけではなくて声にもあるように思うのだ。ルックスより声の方が艶っぽくて、まるで匂い立つような美しさを放っているように感じられてならない。

魅力その2:男性J-POPアーティストの曲との相性の良さ

横浜アリーナで行われた明日海りおさんのコンサート、「恋するARENA」のライブ録音版などを聴くと、男性J-POPアーティストとの相性の良さに気づく。山崎まさよしさんの「One more time, One more chance」、浜田省吾さんの「さよならゲーム」、サスケさんの「青いベンチ」など名曲を艶っぽく歌い上げている。

ライブとは関係ないが、T.M.Revolutionさんの「HOT LIMIT」のカバーがカッコいい。声だけ聴いていると、あの華奢で可憐な明日海さんの姿をつい忘れてしまうほどだ。

いったい明日海さんのあの体のどこから、こんなパワーが出てくるのだろうといつも不思議に思っている。

声に衝撃を受けたアーティストと言えば・・・

一度も観たことのないドラマの主題歌に衝撃を受けて、翌日友達に訊きまくったのは、あれが最初で最後だった。

高校に入学する直前だった。それまでは、バンドブームに乗っかってガールズバンドの音楽を聴いていた。SHOW-YAもPRINCESS PRINCESSも聴く「節操なし派」の私の耳に飛び込んできたその声は、物語の事は全然覚えていないのに、私の脳の深いところに刺さって取れなかった。

思い切り 抱きしめたい
この腕を伸ばして

髪を上手に編めるようになって 
マニキュアだってうまく塗れるわ
もうあの頃の私じゃない 同じ笑顔はできなくても

手を伸ばす勇気に変えた ベクトルの行方は
あなただけに向かっている まっすぐに

たった一言が いつも言えなくて 
泣いてばかりの私を消した
何もなくしてなどいない 同じ笑顔はできなくても

きっと言える きっと届く
会いたい夜も 会えない夜も 超えて

 Dreams Come True 「笑顔の行方」

最初の「お~も~いきり~ だ~き~しめ~た~い~」の「た~」から「こ~の~うで~を~ のばして~ぇ~」の「ぇ~」の後の伸びに心を掴まれてしまった後、耳が逃れられなくなった。最後まで聴くしかなかった。ドラマの中で使われているのは、曲の一部でしかない。翌日片っ端からクラスメートを捕まえて訊きまくり(ちょうど受験期だったので、ドラマが終わりに近づくまで気が付かなかった)、Dreams Come Trueというグループの存在を知った。

あれから30年以上が経つけれど、私のそばには吉田美和さんと中村正人さんが今も居る。4年に1度のワンダーランドには必ず行くし、新曲が出れば買うし、配信ライブのお知らせも欠かさずチェックしている。好きになったアーティストはたくさんいるけれど、帰ってくるのはいつも、ドリカムのところなのだ。

同じものを、明日海りおさんにも感じている。理屈ではなくて、声を聴くだけで耳が喜ぶのだ。

今から30年、吉田美和さんと同じように彼女が舞台に立ち続けてくれるかどうかは、分からない。歌い続けてくれるかどうかも分からない。ただ、彼女が表舞台に立ち続けている間は、ずっと応援するだろう。

終わりに 

宝塚歌劇団には「歌が上手い」と言われているOGの方、現役の方がたくさんいらっしゃる。明日海さんの同期には「歌うま」望海風斗さん(元雪組トップスター)がいらっしゃるので、明日海さんの歌が「上手い」と言われることが、現役の時にどの程度あったのか、私は知らない。同期ということで比較されることも多かったのではないだろうか。私はお二人とも好きなのだけれど、なぜかたまらなく惹かれるのは明日海さんの声であり、歌なのである。

MISIAさんと吉田美和さんを両方聴いて、どちらも上手いけれどやっぱり吉田美和さんが好きだなと思ってしまうように、私の耳は明日海さんの声を欲しがってしまうのだ。

明日海さんの歌を毎日のように聴くようになって、その声が日常を彩りだした先週金曜日、仕事を終えてTwitterを覗いてみた。その日の朝、先日月組を退団した元トップスター珠城りょうさんの公式アカウントを見つけて、フォローしたばかりだった。

珠城りょうさんのアカウントから「明日海りおさんのコンサートにゲスト出演させていただくことになりました」とのお知らせが・・・

明日海さんのコンサート? コンサート?? こここここコンサート??

珠城りょうさんのアカウントがニセモノで、貼ってあったリンクがフィッシング詐欺サイトにつながるといけないので、取り急ぎ明日海さんのファンクラブのホームページを覗いてみた。

どうやら、コンサートが行われるのは本当らしい。

そして、最終日のゲストが珠城りょうさんであることも、事実のようだった。

声に魅了されている私は、コンサートが行われるというニュースを聞いて、飛び上がるほど嬉しかった。しかし会場は東京ドームではなく、東京国際フォーラムホールAである。キャパシティは5000人程度とのこと。チケットは取れるのだろうか。悩みは尽きない。

明日海さんの口から直接「良いお年を」と聞けることを祈っている。

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