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キッチンの音と匂いが紡ぐ笑顔

土曜。家族でスーパーに行く。
「今日はハンバーグにするね」と言うと、娘が嬉しそうに笑った。

夕食を作るのは何日ぶりになるだろうか。日曜日に作ってから少なくとも、平日は作った記憶がない。

キャベツを千切りにする。5日ぶりに聞くまな板と包丁が奏でる音が、心地よい。付け合わせにトマトも加え、メインのハンバーグを焼く。フライパンの上で肉の油が爆ぜるのを聞きながら、ひっくり返すタイミングをうかがう。裏返すのに苦労するほど巨大なのは、子どもたち用。年々大きくしているが、食べ残しが出たことはない。

味噌汁も作った。買い替えたばかりの炊飯器から、白く蒸気が立ち上る。ご飯が炊ける直前の匂いに、思わず笑みがこぼれる。

「今日はハンバーグにするね」
弾ける笑顔が、また浮かぶ。
娘の喜ぶ顔を見たのもまた、5日ぶりだったと気づく。

仕事で毎日深夜帰宅が続いていた。1週間「ただいま」「おかえり」以外の会話が、ほぼ記憶にない。通勤時間にスマホで観られたドラマの数だけが、増えていく。違う、違う。そうじゃないのに。

凝った料理は作れないし、それほど上手くもない。
それでも我が家のキッチンにわたしがいるだけで、子どもたちの笑顔が見られる。本音を言えば笑顔だけじゃなくて、泣き顔も、ほっとした顔も、何かに困った顔も、怒った顔も、そばで見守りたい。

早く帰るのが難しいので、朝食を作って一緒に食べる時間がとても愛おしい。もっとも、子どもたちは朝だとボンヤリしていて、あまり会話にもならないのだけれど。

夕方から夜だけ、別なわたしが存在してそれぞれ別なことを出来たらいいのに。かなわぬ妄想もむなしく、また月曜日はやってくる。

だけど、とにかく今日と明日だけは。
子どもたちの心も、わたしの心も栄養たっぷりにして、また1週間を乗り切るための元気をチャージしておこう。

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