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愛する二人の歌の魅力を私的に考察する 三浦春馬さんと明日海りおさん

映像を中心として俳優活動をしていた、三浦春馬さん
宝塚歌劇団で舞台を中心に活動していた、明日海りおさん

お二人とも、とても歌が上手だ。

宝塚の元トップスターが歌上手いっていうのはわかるけど、三浦春馬さんが歌うところは、見たことがないなと思っている方もいらっしゃるかもしれない。

三浦春馬さんは、2019年に歌手デビューしている。

春馬さんのファンはご存知のことと思うが、2019年の主演ドラマ『TWO WEEKS』の主題歌を担当していたのは、他ならぬ主演の春馬さんご本人である。YouTubeにデビュー曲「Fight for your heart」のMVが載っているので、そちらへのリンクを貼っておく。

甘めの声。どこまでも伸びていきそうな美しい高音。これほど歌えるとご存じなかった方もいるかもしれない。実際、男性の曲としてはかなりキーが高い。

彼がミュージカル『キンキーブーツ』のローラとして日本初演の舞台に立ったのが、2016年。このシングル曲がリリースされたのは、『キンキーブーツ』再演の年と同じ2019年だ。歌う筋肉が出来ていたおかげでもあるだろう。翌2020年にはセカンドシングル『Night Diver』も発売されている。

こちらは、音の高さ云々よりリズムの変化に富んでいる。ファーストシングルもセカンドシングルも歌おうと思ったら、素人には大変な難曲だ。またセカンドシングルリリース時には、MVでしなやかなダンスも披露している。

一方、明日海りおさんである。

基本的に、宝塚歌劇団の元花組トップスターである彼女は、男役なので低い声で歌う。

で、宝塚歌劇団時代の映像でリンクを貼れるものが、YouTubeにあるにはあるのだが、あくまでミュージカルでの歌なので、今回ここで比較する対象としては不適切だろうと思う。

明日海さんがJ-POPを歌っているところは、彼女の横浜アリーナコンサートの映像で確認できるが、Amazonプライムでも有料になっていて簡単に観られるものが無い。動画へのリンクは貼らないが、私が以前書いた記事へのリンクを貼っておく。

確かにお二人ともお上手なのだが、二人の歌から感じられるものが違う。私が受け取っているものの違いについて、個人的に感じていることをこのnoteでは綴ることにする。

三浦春馬さんの歌声から感じるもの

三浦春馬さんは、メジャーなミュージカルとしては『キンキーブーツ』、『ホイッスル・ダウン・ザ・ウインド』に出演している。残念ながら私が拝見したのは『キンキーブーツ』だけで、あとはリリースされたシングル曲とそのカップリング曲を聴いているだけだ。

CDとしてリリースされているのは全5曲。そしてミュージカルソングとして春馬さんが歌うのを聴いているのが数曲。これは明日海りおさんに比べると、圧倒的に量が少ない。

量が少ないので判断できない部分はあれど、一つ確実に言えることがある。

三浦春馬さんの歌声からは、彼が持っている優しさがあふれ出ているのだ。

たとえばファーストシングル「Fight for your heart」のカップリング曲、「You」の歌詞はこうだ。

11 o'clock 汗ばむ部屋 息をひそめて
We cross the line
We cross the line

首筋 ささやくwords
高まってく熱とpulse
We cross the line
We cross the line

(中略)


You すべては消えて キミと僕だけ
叫ぶまでやめない
You 愛がほしいなら
Whatever you want I’ll give you
この夜は終わらせない

歌詞を見ただけでもエロティックさを感じる、大人の恋の歌であることはお分かりいただけるかと思う。「僕」の視点からの愛の歌だ。三浦春馬さんが歌うこの曲を聴くと、決して「僕」からの「押し付け愛」は感じない。それどころか、「僕」から優しく包み込むように抱きしめられたという錯覚にすら陥る。

歌う人が変わればエロティシズムしか出てこないようなこの曲を、三浦春馬さんは、のびやかな高音で甘く優しく歌い上げる。

まるで、彼自身の優しさが音ににじみ出るかのように。

明日海りおさんの歌声から感じるもの

「ミュージカル界のスター」と言われて、皆さんは誰を連想するだろうか。井上芳雄さん?山崎育三郎さん? 大御所という意味では市村正親さん?

女性は誰だろう。濱田めぐみさん?新妻聖子さん?神田沙也加さん? 大御所ということで涼風真世さん?

私は、彼らに共通することがあると思うのだ。それは、歌が上手いということだ。

は?何を当たり前のことを?と思われたに違いない。歌がセリフになっているミュージカルにおいて、歌えないミュージカル俳優なんて居るわけがない。少なくとも、ミュージカル俳優で居続けられるわけがない。その考え方は正しい。

現に、ミュージカル俳優は多くが音大で声楽を学んだとか、劇団四季で小さいころから舞台に立っているとか、声楽の基礎がしっかりできている人がほとんどだ。そして彼らの多くは、お芝居より歌の技術先行で、歌の技術をもって役の気持ちを表現することに長けている。

この文脈において、明日海りおさんは異色のミュージカル俳優だと思う。

確かに、中学卒業と同時に宝塚音楽学校に入学し、タカラジェンヌとなるべく研鑽を積み、5年半もトップスターを務めたのだから、あるメソドロジーに基づいた発声方法が、基礎からきちんと身についている方なのは間違いない。

だが、明日海さんは歌先行で役の気持ちを表さない。あくまでも芝居先行なのだ。私は、ここに彼女の特徴があるように思っている。

明日海さんの歌の奥には、いつも物語の主人公の姿と、周りの景色が浮かぶ

たとえば、彼女が横浜アリーナのコンサートで歌った、サスケさんの「青いベンチ」。歌詞はこうである。

君は来るだろうか 明日のクラス会に
半分に折り曲げた案内を もう一度見る

付き合ってた頃 僕ら手をつなぎながら
歩いた帰り道 たくさんの人がゆくよ

ああ いつも僕が待たせた
駅で待つはずない 君を探すけど

この声が枯れるくらいに 君に好きと言えばよかった
会いたくて仕方なかった どこにいても 何をしてても

(中略)

ああ 季節は思ったよりも進んでて
思いをかき消してく 気づかないほど遠く

この「ああ いつも僕が待たせた」あたりを彼女が歌う時、私の脳裏には駅でマフラーと手袋をして、寒そうに「僕」を待つ、制服姿の女の子が浮かぶのだ。「僕」の後悔の気持ちで、ちょっとだけ美化された女の子の姿が。

明日海さんの歌は、J-POPであれミュージカルの曲であれ、あくまでも芝居の一部なのだ。彼女の歌が連れてくるものは、役というか、その人にまつわる物語なのである。明日海りおさんが歌う時、私の脳裏に浮かぶものは単なる役の心情ではなく、役の人が見ている景色だったり、未来だったりする。

もちろんこれは、普段私が感じていることなので、みんなに当てはまるわけではない。だが誰かの歌声を聴いてこんな経験をしたのは初めてなので、少し戸惑ってはいる。

誰にでも納得がいくように、詳しく書けないことがもどかしい。

終わりに みんな違ってみんないい

三浦春馬さんの歌と、明日海りおさんの歌。

私の中に連れてきてくれるものは、それぞれ違う。春馬さんの歌は、彼の持つ優しさを。明日海さんの歌は、役の観ている景色を。どちらも、時に温かい気持ちにしてくれて、時に胸を締め付けてくる。歌という表現手段を使って、彼らが私に見せようとしてくれているものを、ちゃんと受け取れているのかどうかは分からないし、自信がない。

けれども、現時点で私が受け取れているものは何かといわれたら、今まで書いてきた通り、「優しさ」と「物語」なのだ。

もう少し年月を経たら、もしかして二人の歌から受け取れるものが、変わるかもしれない。全然違う他の人が見せてくれるものに、心を奪われているかもしれない。

それはそれで、ワクワクするほど楽しみだったりもするのである。

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