見出し画像

腐敗

本当は、ずっと昔に気づいていた。

それはキッチンの奥で腐った鍋のようだった。

蓋をする。

見えないように。
腐っていく事実を認めたくなくて。
綺麗に片付ける自信もなくて、蓋をする。

だけどそれは、確実に腐敗をすすめる。

蓋の中で原型を無くし、異臭が蔓延し、
それでもどうしようもなく存在し続ける。

蓋をして見ないようにしても、
その事実は変わらない。

「運命じゃなかった」
その一言を飲み込むことが出来れば、
なんとも単純な話だった。

よくある恋愛の失敗
男女の仲違い
つまらない意地の張合いと
性欲や執着心が作り上げた関係

きっとどのウェブサイトを見ても
仲の良い友人に相談しても
すぐに答えが出るような初心者問題。

だけど

「運命だ」という無駄な勘違いが
その簡単な答えを遠ざけた。

都合の悪い事実に気づかないふりを重ね
都合の良い嘘にすがった。

私達はいつから間違っていて
いつどの瞬間が正しかったのだろう。

いや、むしろ正しい瞬間なんて
二人の間に存在したのだろうか。

甘くほどけたその時間は
私達が理想化していた関係を汚した。

綺麗だと思っていた世界にペンキがかかる。

これ以上腐敗が進んでしまう前に
これ以上世界に色が染みてしまう前に
私は鍋の蓋を開け、その中身を
認める必要がある。

私は彼に触れた日、
彼のいる世界を永遠に失ったのだ。

わたしたちは「運命」に等支配されていなかった。
ただの、「よくいる典型的な男女」だった。

ラブホテルの滑稽な光景
汚い街を別々に歩いた日
香水と下水の臭い
不安定な嘘と笑顔
安っぽい涙、合わない歩幅


鍋の蓋を開けると、刺激が目や鼻を衝く。

欲望に忠実な関係は悪くは無い。
でもそれは、気づかないふりをして
積み上げていく、つまらない虚像だ。

はるこ #エッセイ #コラム #写真 #腐敗公式 >

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?