これからのスマブラSPプレイヤーランキング、世界大会、シーディング

要約

  • プレイヤーランキングが持っていた「プレイヤーと大会運営を動かす力」が無くなった

  • 本来あるべき「世界一を決める場としての世界大会」の存在が危うい

  • 一方でシーディングは、実感はしずらいけれど全体として良い方向に進んでいる

アルゼンチンとブラジル、笑っているのはどっち?

今年のサッカーワールドカップ、めちゃくちゃ面白かったですね。日本の活躍もさることながら、決勝戦はにわかファンの私から見ても本当に歴史に残る1戦だったと思います。

現時点でのFIFAランキングを見てみると、1位はブラジル、2位はアルゼンチンだそうです。ブラジルはW杯ではTop8に終わったものの、今までに貯めた「貯金」のおかげでランキングでは1位にとどまった、と言ったところでしょうか。

この結果を見て、ブラジルの選手や国民はどう思っているでしょうか。「Top8に終わったけどランキングは1位か。よかったよかった」と思っているでしょうか。実際にブラジル人に聞いたわけではありませんが、そんなことを思っている国民はほとんどいないはずです。

逆にアルゼンチン人も(これも直接聞いたわけではないですが)、「W杯は優勝したけど、ランキングは2位か。くっそー」と思ってはいないでしょう。彼らはW杯を制したことで自分たちが世界一の国だと自負しているはずですし、全世界がそう思っているはずです。

言い換えれば、サッカー界ではランキングの数字よりも、W杯での勝利のほうがはるかに重要であり、ランキングは「二の次」扱いです。これはサッカーに限らず、基本的のどの競技でも同じだと思います。世界一を決める場は競技によってそれぞれですが、オリンピック、世界選手権、4大大会での勝利が真の目的であり、ランキング上の数字はそれに付随する過程、結果でしかありません。

スマブラSPにおけるランキングの力

前作スマブラ4と、それと地続きでつながるスマブラSPの競技シーンでは、2016年にPanda Global Rankings(PGR)が発表されて以来ランキングの力が強く、ランキングポイントを稼ぐために積極的に大会に参加するプレイヤーがいたり、ランキングシステムにおけるTier(大会格付け)を高めるために広い会場確保や上位プレイヤー集めに奔走する大会運営者がいるような状況でした。ランキングは単なる「大会結果に付随する過程、結果」ではなく、大会そのものと同程度の力を持っており、「人を動かす」存在でした。

客観的な根拠はありませんが、ランキングが持っていた人を動かす力が2020年以降衰えていき、他の競技と同様に「付随する過程、結果」になったと感じます。単純に考えれば、その原因はコロナ禍によってPGR、JPRを始めとする「事実上の標準的なランキング」(スマブラ界には公式ランキングがありません)が止まったからだと思われるかもしれませんが、私の見方は少し違います。コロナに関わらず、競技シーンが成長すれば遅かれ早かれ「ランキングの時代」が終わるのは避けられなかった、と思っています。

歴史の転換点となったEVO Japan 2020とGENESIS 7の同日開催

私の勝手な歴史観になりますが、2020年1月24日から26日までの3日間に同時に開かれたEVO Japan 2020とGENESIS 7が、世界ランキングの力を衰えさせることとなった象徴的な出来事だったと思います。SmashWikiによると、EVO Japan 2020の参加者が1819人、GENESIS 7の1694人と、共に世界最大規模で、大会のレベルの高さを見てもどちらも世界大会クラス(SmashWikiの表現を借りれば、Supermajor)の大会でした。

しかし冷静になって考えてみると、世界大会クラスの大会が同時開催されるというのは、世界一のプレイヤーを決める場としての「世界大会」という言葉と矛盾しています。単純にEVO Japanを日本大会、GENESISを(日本抜きの)世界大会とみなすことも出来ますが、それでもやはりこれだけ大きな大会が同時に開催されるというのは異常事態です。サッカーで言えば、世界一を決めるワールドカップと南米一を決めるコパ・アメリカが同時に開かれるようなものです。このような状態では、計算上の世界ランキングは作れても、それが大きな意味を持つことは難しいでしょう。

クソコラ

さすがにEVO Japan 2020とGENESIS 7ほどの規模の大会が同日に開催されたことはこれ以降ありませんが、先月も約600人規模のPort Priority 7とUltimate Fighting Arena 2022がそれぞれワシントンとフランスで開かれ、それぞれの大会に日本の上位プレイヤーが分かれて遠征することもありました。このように、コロナ禍が収まるにつれて、大会数は増え、プレイヤーは数ある大会の中から出場する大会を「選べる」ようになりました。

プレイヤーが大会を選び、大会がプレイヤーを選ぶ

ランキングの力を衰えさせることとなった直接的な原因は、コロナウィルスではなく、大会数の増加によるプレイヤーの「分散」だと筆者は考えています。

2019年以前は、単純に言えば、世界ランキング上位になりたければEVOやGENESISで、日本ランキング上位になりたければウメブラやスマバトで結果を残すことがすべてのプレイヤーにとっての共通認識でしたし、ランキングシステムもおおよそそのとおりに設計されていました。しかし、EVO Japan 2020とGENESIS 7の同日開催に象徴されるように、大会が増え、プレイヤーが大会を選べるようになるとプレイヤーが分散し、多くの人が思い浮かべる「この大会に勝てば一番」という存在がなくなりました(言うまでもないですが、「大会が多すぎるので減らしましょう」という主張ではないです。大会はなんぼあってもいい)。また、大会側も「招待」という形でプレイヤーを選ぶようになり、最上位プレイヤーに限って言えば「プレイヤーが大会を選び、大会がプレイヤーを選ぶ」状態になっていると言えます。

絶対的世界大会の不在

先程、「多くの競技では世界大会で勝つことがプレイヤーの真の目的で、ランキングは二の次」と書きました。このことと照らし合わせれば、スマブラSP競技シーンにおけるランキングの衰退はある意味必然で、他の競技と同様に「世界大会」を制することが「真の目的」となっていくように見えます。しかし、現実にスマブラSPの競技シーンで起きているのは、「絶対的世界大会の不在」です。

大きな痛手だったのがEVOとSmash World Tour(SWT)の消失です。ご存知の通り、EVOは色々あってスマブラ部門が消失、SWTは超色々あって開催1週間前に中止となりました。これら2つはまさに「絶対的世界大会」と呼ぶにふさわしい権威、規模感だったため、この2大事件がスマブラシーンに与えた影響は大きいです。

EVOとSWT無き今、最も世界大会に近い位置にあるのがSuper Smash Con(SSC)シリーズとGENESISシリーズだと思います。SSC 2022は参加人数2388人と規模的には世界大会クラスでしたが、SSCは例年日本からの参加が少なく、2022年も日本からの参加者はほぼ0でした。GENESISはというと、コロナがまだ予断を許さない状況だった2022年4月のGENESIS 8は例外としても、来月開かれるGENESIS 9の現時点での登録者数が1000人間際、日本最上位の参加者もいまいち伸びず、少し心配な規模感となっています。2つとも世界クラスの超でかい大会であることは間違いないですが、EVOやSWTのような絶対性があと1歩足りないという印象です。

(参加人数だけでは伝わらないと思いますが、スマブラDXとスマブラSPにおいてはGENESISの方が若干格上というぼんやりとした空気があります。ですがスマブラ64ではSSCが上っぽいので、同じスマブラシーンでも違った空気感があり、把握がむずかしいです。)

2017年に開かれた2GGC: Civil Warは、当時の世界ランキング上位50人のうち47人が参加した非常に密度の高い(Stackedな)大会でしたが、大会数増加によるプレイヤーの分散が、Civil Warに匹敵する密度の高い大会の再現を難しくしています。

近年流行っている(?)招待制大会にも触れておきます。スマブラシーンは長らく、だれでも参加できるオープントーナメントが中心ですが、今年は招待制大会の代表的存在であるSmash Summitに加えて、The Gimvitational、Ludwig Smash Invitationalなど、招待制大会が存在感を示した年であり、密度だけで言えばLudwig Smash Invitationalが全大会中最も高かったと言えるでしょう。しかし、何かしらの招待制大会が「絶対的世界大会」の座に君臨できるかと言うと、ちょっと難しいかなという予想です。招待制なだけあって大会の密度は非常に高いものの、大会規模的に32人ほどでは「絶対的世界大会」としては物足りない点、それと招待制であるがゆえにどうしても運営側の一存で参加者が決まってしまう不公平感があり、非オープントーナメントが絶対性を帯びることはないんじゃないかというのが筆者の予想です。とは言え、スマブラSPの兄貴分であるスマブラDX(Melee)においては、招待制であるSmash Summitが良い具合に世界一を決める場として機能しているような感じがする(専門外なので雰囲気だけですが)ので、スマブラSPにおいても今後どんなポジションに収まるのか楽しみです。Ludwigはすごい。

(余談ですが、デカい/レベルの高いトーナメントをざっくり把握したいときは、SmashWikiのこちらのページが便利です。太字になっているのが特にすごい大会(supermajor)、らしいです。)

それでもランキングを作ることには価値がある

大会と同様に、ランキングの世界も今や群雄割拠で、多く人が独自にランキングを作成しており、あまりにもランキングが多すぎて複数のランキングを基に新たなランキングを作る人まで現れています。ランキングの数が増えた事実そのものが、ランキングの力(絶対性=唯一の答え感)が落ちている証、とも言えるかもしれません。

しかし私は、ここ最近のランキングの群雄割拠状態をむしろ希望的に捉えています。ここまでランキングのことを「衰えてきた」とか「人を動かす力がなくなった」とか散々言っておいて何ですが、始めに言ったように別にランキングがオワコンとかそういう話ではなく、「これがランキング本来の姿」であり、むしろ2019年以前の「ランキング中心の世界」が異常だったと思います。

新しく出てきたランキングの中でも特に注目しているものが、ここ最近流行っている(?)統計的な手法によるランキングです。2019年以前はデータ量が少なすぎて統計的な手法は使いづらく、結果として「有識者の投票制による直感」か「職人の手による温かみのある計算式」に頼らざるを得ない状態でしたが、大会数が増えたおかげでデータ量が増し、「細かいことは考えずに統計でバシっと答えを出す」というやり方が通用するようになってきましたと感じます(まぁこれはまさにAIを中心に各分野で起こっていることですが)。

一貫して言っているように、計算式等の改善でランキングが以前のような「人を動かす」存在になるかは疑問ですが、何より嬉しいのが、ランキング作成のノウハウはそのままシーディングに応用できることです。プレイヤー目線で言えば、極論を言えばただの数にすぎないランキングよりも、「誰と対戦するか」に直接影響するシーディングの方がより重要とも言えますし、各大会運営者にとっても、シーディングは時間がかかる上に批判に晒されやすく、悩みの種だと思います。シーディングという分野においては、ランキング同士の競争によって、プレイヤー目線でも運営者目線でもかなり良くなるのではないかと予想しています。シーディングの良し悪しを測るための手法も提案されたりしていますが、ランキングと世界大会はともかく、シーディングはかなり明るい未来が見えつつあります。特にシーディングでお悩みの大会運営の方々は、つい最近できたばかりの「スマブラアナリスト窓」というアカウントに聞いてみるといいかもしれません(私はもう観戦勢としても引退しつつあるので、実務は活発な方々に丸投げ)。

おわりに

雑に言えば、今のスマブラシーンは「大小さまざまなたくさんの大会が繋がりなくバラバラに開かれている」状態です。コミュニティ主導で進んできた競技スマブラシーンの宿命と言えばそれまでですが、それでもやはりSWTの中止は衝撃的でした。個人の感想ですが、EVOからスマブラが外されると聞いたときは「EVOに頼らなくても、スマブラ界はもう自給自足で世界大会を開けるぜ!」くらいのテンションで勝手にモニタの前で1人息巻いていたのですが、SWTが無くなった今では「ああ神よ、世界大会を返してください」という気持ちでいっぱいです。

最後に、最初に載せた要約に一言付け加えたものを再掲します。

  • プレイヤーランキングが持っていた「プレイヤーと大会運営を動かす力」が無くなった

    • → 他の競技を見てみれば、むしろこれが普通。強いて言うなら、スマブラ外部の人に勢力図を教えたいときに「このランキングを見せればオッケー」みたいなのが欲しい。

  • 本来あるべき「世界一を決める場としての世界大会」の存在が危うい

    • → EVOとSWTが抜けた穴はデカい。ここは将来どうなるか全く予想できない。「日本一を決める場」は2023年中にも出てくるかもしれない。

  • 一方でシーディングは、実感はしずらいけれど全体として良い方向に進んでいる

    • → ランキング同士の競争で出来たノウハウに助けられる。

2022年は色々あった年でしたが、2023年も同じくらい色々ありそうな予感がします。それでも私は競技スマブラシーンに対しては楽観的で、まだまだ成長して新しい景色を見せ続けてくれると確信しています。来年は、祈る時間を増やしましょう🙏


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