見出し画像

豪雨の収穫から、初めてのワインができるまで

大阪・東京での試飲会を終えて

4月中旬に、SHINDO WINESの初リリースを行いました。
同時期に、大阪と東京で開催される業務用試飲会にお声がけをいただき、造り手として参加しました。

山形「グレープリパブリック」の矢野醸造長とご一緒した、ウィルトスワイン神宮前での試飲会

初めての試飲会ということもあり、なにをどのように説明すれば良いのかわからず、正直不安でした。

しかし、熱心に耳を傾けてくださるお客様と向き合うことで、私たちの想いを直接伝えることができ、ワインができ上がるまでの裏側に関心を持っていただけました。

ワインの評価は想像していたよりも良く、料理との相性や最適なシチュエーションなどをご提案いただき、とても勉強になりました。

試飲会の参加者の方からワインの発注をいただいたり、実際にお店で提供されている様子などをSNS上で見かけるたびに「ワインを造ってよかった!」と、この上ない幸せを感じます。

この場を通してお会いできた皆様のおかげで、徐々にではありますが、SHINDO WINESは全国に広まりつつあります。

当ワイナリーで使用するブドウの産地、福岡県うきは市の重松副市長にも多くのご協力をいただきました


2021年、豪雨まっただなかの収穫

さて、今回リリースした3種類のワインについて、これから3回の記事にわけて、ひとつずつ詳しくご紹介していきたいと思います。

今回は、ファースト・ヴィンテージの年に産まれた「UKIHA BUBBLES 2021」について、ワインが完成するまでの経緯をお話します。

2021年は、私たちにとって初めてのワイン造りとなりました。

春から夏にかけて、福岡県うきは市のブドウ農家さんのもとを訪れ、お取引のお願いを続けてきました。
無事に調達の見込みが立ち、あとは8~9月の収穫・集果を待つタイミングまでこぎ着きました。

しかし、ブドウの収穫を数日後に控えていたある日。
突如として九州地方が大雨に見舞われ、2週間も途切れず降り続きました。

長雨の影響で、園地のブドウは実割れを起こしていました。

実割れとは上の写真のように、ブドウの皮が破れて果汁がしみ出している状態です。
高温多湿の福岡ではこの果汁がカビの原因になるため、ワインの仕込みには使用できません。

雨のなかの収穫作業は、避けるのが普通です。
しかし、こうなってしまっては1日の猶予もありません。

名乗りを上げてくださった多くのボランティアの方々の協力を得て、豪雨のなかでブドウの収穫を決行しました。

収穫後はワイナリーに戻り、休む間もなく、ブドウの選果作業を皆様と一緒に行いました。

一房ずつ、実割れした果実を弾いて選りすぐっていきます。
途方もなく時間がかかる作業でしたが、おかげさまできれいなブドウだけを仕込むことができました。


自然のままの、ワインの造り方とは

いよいよ、ここからが醸造作業のスタートです。

UKIHA BUBBLES 2021に使用したメインのぶどうは、キャンベルアーリーです。
選果したブドウを破砕したあと、果皮と果汁を一緒に漬け込んでスキンコンタクトを行いました。
こうすることで果皮の成分が抽出され、果汁がより濃厚になります。

スキンコンタクトが終わったら、バスケットプレスと呼ばれる搾汁用の機械でゆっくりと優しくプレスを行い、果汁を抽出していきます。

その後、アンフォラという素焼きの陶器に果汁を移し、発酵・貯蔵を行います。
アンフォラはステンレス製のタンクとは異なり、温度のコントロールができないため、自然発酵させました。

発酵には培養酵母を使用せず、ブドウの皮の表面に棲む野生酵母のみを使用しています。
また補糖・補酸も行っておりません。

アンフォラは、紀元前6000年頃といわれる、最古のワイン造りにも使用されていました

通常のワイン造りでは、醸造中の細菌管理や酸化防止のために亜硫酸塩を投入します。
しかし、亜硫酸塩は殺菌効果が強いため、ブドウの繊細な風味に影響を与えると私たちは考え、醸造期間中には使用していません。

そのかわり、発酵開始時から適切にアルコール発酵が進むように、ある工夫をしています。

発酵中のタンクの様子

アルコール発酵を促す酵母は、「サッカロマイセス・セレビシエ」(以下、セレビシエ)と呼ばれます。

この酵母の数が少ないと、オフフレーバーと呼ばれる、ワインが不自然に酸っぱくなったり不快な香りを放つ要因につながります。

そこで、セレビシエの数を増やす目的で、「スターター」と呼ばれるもろみを仕込んで使用しています。
聞き慣れない言葉かもしれませんが、スターターとは、いわば清酒造りにおける「酒母」と同じ役割を果たすものです。

日本酒もワインも同じ醸造酒ですから、アルコール度数を上げることで発酵を促し、オフフレーバーをコントロールするために、ワインではこの手法を用いることがあります。

このキャンベルアーリーの発酵終了後、すぐに熟成を開始しました。
通常はここで、ワインを清澄化させるために滓引き(おりびき)という作業を行うのですが、ワインの味わいに「深み」をつけるために、あえて省略しています。

そして、キャンベルアーリーの熟成がある程度進んだ段階で、別のタンクに仕込んでおいた巨峰のワインを加えてブレンドしました。

さらに、搾汁後に冷凍していた別の巨峰果汁をタンクに加え、すぐに瓶詰め作業に移りました。
最後に微発泡性のワインに仕上げるため、瓶内ニ次発酵を行っています。

瓶詰めを終えてから1年半の熟成期間を経て、ようやく完成。

2023年4月に、SHINDO WINESの第1号として「UKIHA BUBBLES 2021」をリリースすることができました。


UKIHA BUBBLES 2021

ぶどうは、キャンベルアーリーと巨峰(共に福岡県うきは市産)を使用しています

初めてのワインは、刺激的でパワフルな酸が特徴的な1本に仕上がりました。

まるでトマトジュースのような濃厚なコクがあり、梅干しや都こんぶのような旨味と酸味が交互に押し寄せて、食欲をそそります。
たとえ満腹のときに飲んでも、コッテリとした揚げ物を欲してしまうワインです。

シチュエーションとしては、暑い日にキンキンに冷やして、BBQやキャンプなどのアウトドアの場で、おつまみと一緒に召し上がっていただくのがベストです。
サウナの後のととのい時間にも、スカッとして最適だと思います。

香味は野生的で主張の強い味わいですが、造りはデリケートなため、抜栓後はすぐにお飲みください。

また、ラベルのイラストは福岡県在住のアーティスト、WOK22さんに描いていただきました。
このイラストでは、福岡県うきは市の魅力を表現しています。
うきはの自然(耳納連山・筑後川・太陽)、うきはのヒトのエネルギーやクリエイティビティを、感じていただければ幸いです。


リリースを振り返って

ワイナリーの立ち上げから、約2年。
ようやく、初めてのワインをリリースすることができました。

雷鳴がとどろくなかの大雨の収穫から始まり、一粒ずつの選果、初めて使った醸造機器の数々や、手の込んだ製造工程……。

これまでの作業を振り返ると、想像以上に手間と時間のかかるプロセスであったと実感しています。

雨に濡れながらも、収穫をお手伝いいただいた皆様。
ワイナリーで、長時間にわたってお手伝いをいただいた皆様。

おかげさまで、おいしいワインができました。
心の底より、感謝を申し上げます。

《求人》
SHINDO WINESで一緒にワインを造りませんか?

SHINDO WINESでは、私たちと一緒にワインを造ってくれる仲間を探しております。
園地でのブドウ栽培、ワインの醸造・販売にご興味がある方は、下記までお気軽にご連絡下さい。
よろしくお願いいたします。

連絡先:
株式会社篠崎  SHINDO WINES  阪本開
h.sakamoto@shindo-lab.jp


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?