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生まれの名残り

愛のある家庭に生まれた人を羨んで、真似をした。あの時はこんな気持ちになれば良いのか、この時はこんなふうに笑えば良いのか。そしたら僕は大事にされるのか。心を弄って感情を操作した。表情を繕って心を支配した。 君が去った夜、僕は自分の醜い正体を知って泣いた。泣き続けて灰色の土地に来た。
灰色の土地には、一輪ずつの、色のついた花が咲いていた。水色と、黄色と、赤の花で、信号みたいだった。 僕の心が青だったので、僕は笑ってくれる黄色よりも、抱きしめてくれる赤を選んだ。選んだ後で、赤は危険の赤だと知って、次は黄色を選ぶと注意の黄色になった。そして青は安全の無関心だった。
色の中には答えがないと思って僕は透明を探した。そこなら誰にも襲われず、怖れることもないと思って。透明を見つけると、黒と白が立っていた。絶対白が良いと思い駆け寄ると、それは愚かな善意だった。落胆し、勇気を出して黒に触れると、黒は究極の黒だった。
その黒のシビアさに負けて、去った僕は明暗の世界にも居場所を見出せなかった。

やがて春が来て、風が吹いた。色もなく、明暗も無い、無機質な僕がいて、息をしていた。そして思った。君を探す他にないと。僕はゼロなのだから、一を探す他ないのだと。そして決心という名の心、即ち僕が生まれた。

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