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【続ける】という選択

多分、私は『飽きっぽい』と思う。
実はこれまで自分の性分について余り深く考えておらず、何なら自分自身を『真面目だし、大抵のことなら最後までやり遂げられる』性格だと信じてきた。
だがしかし、振り返れば中途半端でやり残したものは数知れず、面倒になって放置してそのまま忘れてしまう事ばかりだった。

 そんな自分の人生を振り返り、初めて長続きしたと言えるものは、新社会人となった最初の会社だった。

面接日の朝の事は、今でも覚えている。雪まつり終了直後で、雪像が壊されている横を通りながら、会社まで小走りで行った。暦は春間近だけど、空気はキンと冷えていた。
ガチガチに緊張して挑んだ面接の結果は、
見事『合格』!!
俄かに信じられない程の喜びと、これから社会人になる不安と進路が決まった安堵の気持ちがごちゃ混ぜになって過ごした春だった。

こうして期待の『新生活』がスタートしたのだが、徐々に生来の性格が顔を出し、ルーティンの仕事そのものが詰まらなく思え、また業種が建築関係であった為、男社会で荒っぽい言葉が飛び交う日常に嫌気がさしていた。
夏を迎える頃、ストレスで胃潰瘍になった。会社を休んで病院に行った帰り道、軽く食事をしようと喫茶店に入ったら、高校の時のクラスメイトに会った。
聞けば向こうも病院帰りで、付き添いの母親と一緒にいた。
『見て、こんなんなっちゃった…』と差し出された腕には酷い湿疹が出ていた。
彼女は美容師志望で、春から美容関係の専門学校に通っていたが、パーマ液が体に合わなかったのか、全身に皮膚疹が出た為しばらく休んでいるという事だった。
いろいろ考えたけど、学校はもうすぐ辞めるつもりだと言った。

その後、しばらく気持ちが揺れていた。
このまま今の仕事を続けるかどうか?
電話口で怒鳴られたり、細かい事で逐一注意されたりして毎日が辛い、逃げたい!
せっかく入った会社だけど、胃潰瘍になってまで続ける意味あるんだろうか?
もういっその事、この際思い切ってしまおうか…
といった所で、姉に相談してみた。
開口一番『辞めるのはいつでも出来るよ!』と彼女は言った。
大体、アンタはいっつも堪え性がなくて、何か嫌なことがあったら、すぐ辞めるすぐ辞めるって、辞めたってアンタの年数じゃこれ以上の条件のトコでなんて働けないんだから!大体さ、辞めてどうすんの?すぐ決まるならいいけど、決まらなかったらどうすんの⁈ずっと家に居んのかい⁈周りを説得出来んのかい⁈
…以上のようなことを一気に言われた。

確かにそのとおりだった。
当時、女性の花形職業の事務職で正社員・かつ市内中心部のビル内・駅近物件にある事務所で同条件で働ける所なんてそうそうある訳じゃない。
ましてや、今の自分のキャリアじゃ到底無理だろう。でも、でも…。
『あのね、仕事って一度辞めたら次はグレードが下がるの。給料も人間関係も前よりも下がるの。何故かしらそういう風になるの。アンタはそれに耐えられる?辛くても我慢出来る?』
姉は続けて言った。
アンタの気持ちも解るよ。
今辛く当たってくる人だって、ずっと永遠に居る訳じゃないんだから。この先どうなるかなんて、誰も分かんないんだしさ。さっきも言ったけど、辞めるなんて何時でも出来るんだから。もう少し続けてみたら?
今だって仕事を頼まれたり、頑張ってって言ってくれる人だっているんでしょ?と。

結局その後、会社には通算12年間勤務した。事務所内では女性社員の最長勤務年数だったらしい。
自分でも驚きである。

これまでに何度も辞めようと思う度『辞めるのは何時でも出来る』と頭に浮かび、何とか踏ん張れた。
善い意味で開き直り、どんなに辛くても乗り越えてこられた。
一つの仕事を【続ける】という選択をしたお陰で今がある。
姉にはとても感謝している。

#あの選択をしたから


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