見出し画像

はるから日誌_11 来年、介護の本屋はじめます。

こんにちは。はるから店主です。
今年も残すところあと数日となりました。下北沢・BOOKSHOP TRAVELLERは27日(火)まで、府中・LIGHT UP LOBBYは28日(水)までの営業です。

2022年は1周年の初インスタライブに始まり、春の「はるから読書会」、夏の「食の本ブックフェア」、秋のイベント出店と、お客さまと直接つながる機会の多い1年でした。

さて、今日は今年最後のはるから日誌なので、来年の試みについて書いてみたいと思います。

1.ケアする人をケアしたい

たくさんの方と出会った1年でしたが、どうしても、なかなか会えなかった人達がいます。それははるから書店にとってどうしてもつながりたい人。介護をしている人たちです。

もともと、はるから書店は「ケアする人をケアしたい」という思いで2021年に出発しました。子育てや介護、誰かのケアする人たちに本を届けたい。いつか、そんな人達がそっと立ち寄れる休憩所のような本屋を作りたい。その思いは、私自身の経験に基づいてます。

私は20代の後半から約6年半、母の介護をしていました。仕事もプライベートも楽しみたい年頃に突如としてはじまった介護は、常に埋めようもない不安や孤独との背中合わせでした。忙しい毎日の中で、入院中の母の枕もとで、病院の待合席で、1日が終わった夜の布団で、読書をする時間は私にとって、どこか遠い場所へ意識を飛ばしてくれるリラックスタイムでした。

楽しいことも沢山あったけれど、無意識に感情を押し殺すことも多かったあの頃、本の世界の中で出会う喜怒哀楽につられて、笑ったり泣いたり怒ったりする時間は、心が自由に動く瞬間でもありました。そうしているそばから、何かの動作に不自由を感じた母からお呼びがかかることはしばしばでしたが、そんなときもそっと、しおりを挟んで置いておけば、本はその世界の時間を進めずに、私が帰ってくるのを待っていてくれました。

結婚、出産、異動、昇進、転職、周りの人達がそれぞれの人生の時間をどんどん前に進めていくのに対し、ずっと同じ場所で立ち止まり続ける自分を、本は何食わぬ顔でいつも待ち続けてくれました。何度、本の中の言葉に励まされ、本の中の言葉に勇気をもらったことでしょう。

解決ってほんとうに面白くて、ちょうど「これはもうだめかも」と思った頃に必ず訪れる。「絶対になんとかなるだろう」と思うことをやめず、工夫し続ければ、なんだか全然別のところからふと、ばかみたいな形でやってくるものみたいだ。

――よしもとばなな『海のふた』

読書は自分への言葉かけ。「心をマッサージするような一冊を届けたい」そう思うようになったのは、この頃の経験があるからです。

2.介護の本が見つからない

もう一つ、介護をしていた頃の私が感じていたことがあります。それは「介護の本が見つからない」ということです。私が介護を始めたのは今から約10年前、2011年だったのですが、当時は介護について書かれた本がとても少なかったと思います。理学療法士や介護福祉士など「仕事として介護する人」に向けた本はあっても、家族が介護をしている場合に役立つ実用書は殆ど見かけませんでした。

また、エッセイについては(これは闘病記にも言えることなのですが)、介護を題材に書かれた本はとても見つけづらいのです。最近は少し大きめの書店に行くと「介護」や「健康」などの見出しのもとに介護の実体験を綴ったエッセイが置かれているケースもありますが、大抵はエッセイとして文芸書の棚に(著者が芸能人だったりすると芸能の棚に)置かれていることが多いと思います。これは図書館でも同じで、913.6(小説)、914.6(エッセイ)などの棚に埋もれてしまい、なかなか見つからない(著者が芸能人の場合は7類の芸術の分野のどこかへ)。しかもタイトルに「介護」というワードや病名が入っていないことが多いので、単純な書名検索には引っかかってこないのです。

当時図書館で働いていた私は、仕事帰りにこまめに書棚をチェックし、書名だけではなく、内容紹介にも検索をかけては、介護の情報を欲して本を探していました。

平川克美『俺に似たひと』

実は最近、こんな事があったのです。文筆家・平川克美さんが店主をつとめるカフェ「隣町珈琲」へ、ケアをテーマとしたトークイベントを聞きに行きました。感想を伝える際、自分の介護経験について少し触れたところ、イベント終了後に平川さんが声をかけてくださいました。「僕もね、親父の介護をしていたんだ」と。そして一冊のご著書を手渡してくださったのです。

それは『俺に似たひと』というタイトルで、お父さまの介護をされた経験を書かれたエッセイでした。2012年の出版当時話題になり(おそらく)、その後映画の原案にもなり(おそらく)、非常に有名な本(おそらく)だったにもかかわらず、お恥ずかしいことに私はまったく知らなかったのです。
「私、この本初めて知りました」(そわそわする私)
「結構話題になったんだけどなぁ……」(にこにこする優しい平川さん)

図書館司書としていかに当時の感度が低かったか、アンテナを張っていなかったか、反省すべきところは多くあるのですが、知りたい情報や読みたい本にたどり着くのって、本当にめぐりあわせのような出来事なのです。全国出版協会・出版科学研究所「出版指標年報」によると、令和2年に出版された本は年間で68,608点。もちろんインターネットからもたくさんの情報は得られますが、もっと深度のある話を聞きたいと思ったとき、やはり人は本を手に取るのではないでしょうか。しかし思った以上に本の海は広く、私たちは読みたい本から遠いところを彷徨っているのかもしれません。

3.介護の本屋を作りたい

当時、「読みたい本がない」と書架の前で途方に暮れることさえあった私ですが、ここ10年のあいだに介護者のための本は確実に増えてきたと感じています。また以前は、介護と言えばだいたい50代以上の人の出来事として想定されていたと思いますが、ヤングケアラー、若者ケアラーという言葉を耳にするようになったり、SNSで自ら発信する20代、30代の働き盛りの介護者の姿も目にするようになってきました。昨年は、同年代の介護エッセイにも出会い、私は仲間を見つけたような気持ちで本当にうれしくなりました。

今なら、当時の私が読みたかった本をたくさん読むことができる。そして、その本を必要とする誰かに届けることができる。そんな確信が持てるようになってきました。

では、どうやって届ければよいのでしょうか?前段でも書いた通り、お店に足を運ぶことはなかなかできない人たちです。今年、なかなかお会いすることはできなかった人たちです。

4.ネット書店をはじめます

来年、はるから書店はネット書店をはじめます。介護をしている人たちにとって役に立つ本、そしてもちろん「心をマッサージするような一冊」を届けるために。

下北沢や府中で借りている棚とは違い、完全に、はるから書店だけでの運営です。果たしてどうなるか……?不安もありますが、それ以上にどんな出会いが待っているかが楽しみです。年明けから本格的に準備をスタートさせ、春頃にはオープンする予定。こちらでもその準備の様子をご報告していきたいと思います。今はひたすら情報収集の日々で、ECサイトとしてどのプラットフォームを使おうかと悩み中。そのお話は、また今度。

岸田奈美さんの本は、必ずラインナップに入れるって決めています。読んだら元気になる本ばかりだもの。


最後になりましたが、今年1年、はるから書店を応援してくださったみなさま、どうもありがとうございました!来年も様々な場所で本をお届けできればと思っています。寒い季節ですが、どうぞよいお年をお迎えください。

【これからのはるから!】
・1月 イベント出店予定
はるから書店のInstagramでお知らせします!→ @harukara_reading

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?