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醤油蔵は小宇宙だ!小豆島醤油蔵巡りレポート<前編>正金醤油

10月の料理教室のテーマが「醤油」だったので、勉強のために小豆島へ醤油蔵巡りに行ってきました。初めての、念願の小豆島!

京都から小豆島まで、電車とバスと船を乗り継いで約6時間。
久しぶりのフェリー、お天気が良くて気持ちよかった!

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ところで、"醤油の生産地"というと、どの地域を思い浮かべますか?
生産量日本一は千葉県ですし、醤油発祥の地と言われているのは和歌山県(諸説あり)、兵庫県も名産地だったりなど…、様々な切り口から醤油の生産地を語ることができます。

そして、醤油を語る上で欠かせない地域がもうひとつあります。
それが小豆島です。

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小豆島は、木桶仕込みの醤油造りが多く残っている希少な地域であり、南東部の「醤の郷(ひしおのさと)」と呼ばれるエリアには、明治時代に建てられた醤油蔵が立ち並んでいます。
あちらこちらから醤油の香りが漂ってきて、いい香り。

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かつては製塩業が盛んだったという小豆島では、江戸時代後期から瀬戸内海で塩が生産過剰になったことから、醤油作りに方向転換したそうです。

小豆島は山がちのため農地面積が少なく、製塩業で栄えたため人口が多いわりに、それをカバーできるほどの食糧生産が難しかったこともあり、島外との交易によって島民の生活が成り立っていたことから、島外に売れるものを作り続ける必要があったのですね(シビア…!)。
もちろん、醤油の原料となる塩に恵まれていたことや、海上交通の要衝であったことから大豆や小麦を仕入れやすかったこと、発酵に適した気候など、他にも様々な理由があります。

一泊二日の小豆島旅でしたが、島の方はとても勤勉で真面目な印象で、丁寧にものづくりをされているのがよくわかりました。日本で最初にオリーブの栽培に成功したのも、島の方の努力が大きかったようで、ひたむきな島民性が伺えますね。

小豆島の醤油の歴史については、小豆島醤油協同組合さんのHPに詳しく記されています。

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そして、今回は醤油ソムリエールの黒島慶子さんに蔵をご案内いただきました!「醤油本」の著者でもあり、醤油業界で知らない人はいない、超有名な方です。

以前、岩木みさきさんの発酵イベントのスタッフをしていた時にお会いしたご縁で(黒島さんはゲストとしていらしていた)ご連絡をしてみたところ、なんと即座に蔵にアポを取ってくださり、アクセス方法やランチ情報まで教えてくださり…!なんて優しい(そして仕事ができる)方なのでしょう…!

運命の淡口醤油に出会う @正金醤油

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最初に伺ったのは、正金醤油さん。

「こんなに綺麗な醪(もろみ)は他では見られない!」と、黒島さん太鼓判のお蔵さんです。

うっかり、蔵元の藤井さんの写真を撮り忘れてしまったのですが、非常に謙虚で、優しくて穏やかな方でした。職人醤油さんのサイトを詳しくご紹介されていますので、詳しくはこちらを是非。

さてさて、噂の醪はというと…
わあ、これは壮観です!!

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醤油の醪の表面には産膜酵母(白いカビのような見た目の酵母)が張りやすいものなのですが、正金さんの醪は産膜酵母が全然張っておらず、とても綺麗。聞くところによると、櫂入れ(混ぜる)の際に桶の内側に飛び散った醪をこまめに拭いているそう。そして、蔵の中も非常に清潔にされています。

醤油は仕込み自体がシンプル(麹と塩水を混ぜる)な分、その後の管理次第で味が大きく変わってきます。正金さんでは、時期によって櫂入れの回数を変え、気候や醪の様子と睨めっこしながら発酵をコントロールしているそうです。

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そして、大豆を蒸したり小麦を炒ったりなど、原料処理と麹作りは協同組合の工場で行なっているそう。私、全然知らなかったのですが、自社で原料処理から醸造まで一貫製造をしている醤油蔵はかなり稀で(大手は別ですが)、小規模生産のお醤油蔵は数社で出資し合って共同の工場を持ち、機械を共用していることが多いそう。…そもそも、自社で醸造している蔵自体が少ないですもんね(生揚げ醤油を買ってきて混合している蔵も多い)。

このような協業が始まったのは、戦後の生産拡大に伴ってのことだそう。たしかに各社それぞれ機械を持ったら大変ですもんね(それまでは手仕事だったが、生産拡大のため機械が必要になった)。
醤油業界にシェアする文化が根付いているのは興味深いことです。

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そして、味噌や日本酒と違い、醤油は全量麹を使うため麹の量が半端じゃなく、自動製麴機で麹を作っている蔵が多いそうです。こちらの協同組合では通称「円盤」と呼ばれる機械を使っていました。

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発酵中の麹を味見させていただきました。こちらは脱脂加工大豆の麹(丸大豆の麹はもっとゴロゴロしています)。

きな粉のようなふわっとした香り!
米麹とは全然違いますが、少しだけ栗のような甘い香りもあります。

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蔵に戻り、お醤油を味見させていただきました。
「正金さんの淡口は本当に美味しいですよ!」と目を輝かせる黒島さん。

こ、これは…!!

今まで「これだ!」と思う淡口醤油に出会えず、ずっと探し求めていたのですが、ついに出会ってしまいました。これだ。

醤油の美味しさって、どう判断するかが難しいところなのですが、こと淡口醤油に関しては「素材の味を生かす」という点が何よりも重要なのではないかと。そのため、醤油の味が全面に出過ぎず、素材の味をぐっと引き出してくれるような淡口醤油を探していたのです。

正金さんの淡口醤油は香りが良く、上品な味わいで、塩味のカドも無く、これは間違いなく素材の美味しさを引き出してくれる醤油だと、味見した瞬間に感じました。

ということで、淡口醤油代表として、料理教室では「銀杏入りひろうすの炊いたん」に使わせていただきました。

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美味しいお豆腐で作るふわっふわのひろうす(がんもどき)の美味しさが、たまらない。その美味しさを下支えしてくれる正金醤油。色も綺麗に仕上がります。

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しかし、価格が良心的すぎていささか心配。
なんと、蔵出し価格だと500ml 350円(+税)なのです…!!

生徒さんに、「このお醤油いくらでしょう?」とクイズを出したら、みなさん「900円とか1000円くらい…?」と。ええ、私もそう思っていました。

藤井社長曰く、「大手の価格の2倍が上限だ」とお考えのよう。
いやあ、あんなに丁寧に作っていて、この美味しさなのに。本気で、もっと値上げしてください!!笑

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これまで酒蔵中心に訪問していましたが、醤油蔵は文化も違うし、求められるものも違う(嗜好品と調味料は目的が違う)し、また違った面白さがある。

思ったのは、日本酒は乳酸や酵母を添加するのが一般的ですが、醤油は乳酸菌も酵母も添加しないのが一般的(大手は違うかもしれませんが)。
だからこそ、その蔵に棲みつく菌の影響をもろに受けるし、菌の生態系には蔵元さんのお人柄や管理が影響してくる。

日本酒以上に、造り手の個性が現れるのではないかと。

…ということで、正金醤油さんの後は、藤井さんのお人柄とは正反対な、熱い情熱が燃えたぎるヤマロク醤油さんに伺いました。
これまた本当に面白かったので、後編もご期待ください!!

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