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ハロー、世界

ハローハロー世界
元気ですか
僕は元気です

今日僕の街にミサイルが落ちました
けたたましい携帯のアラームの音で目が覚めて
起き上がるとサイレンの音が鳴り響いていました
初めて聞いた国民保護のサイレンにドラマの中みたいだ
と思いながら時計を見ると
まだ午前6時で
もう少し寝ていられると思ってもう一度身体を横に倒したけれど
はっとしてまた慌てて起き上がりました
何か異常事態が起きているらしい
二度寝している場合ではないのかもしれない

1階に降りるともうパパもママも起きていて
テレビの前に並んで真剣な顔で画面を見つめていました
3つ下の妹は眠そうに目を閉じて椅子で船を漕いでました
いつも一緒に寝ている抱き枕のテディベアがつぶらな瞳を僕に向けました

なにがおきてるの?

ママとパパの真剣な顔つきとテレビのアナウンサーの固い声に僕は俄然不安になりました

ミサイルが発射されたらしい

テレビから目を話さずパパが言いました
パパの身体はテレビの前で固まっていました

ぼくたちどうなっちゃうの?

分からない、まだ何も分かってないんだ
ミサイルが発射されたこと以外は何も

パパとママが縋りつくように見つめているテレビはただ同じことを繰り返しているだけです

ミサイル発射
ミサイル発射
北朝鮮からミサイルが発射された模様です
頑丈な建物や地下に避難してください
対象地域 北海道 青森 岩手 宮城 秋田 山形 福島 茨城 栃木 群馬 新潟 長野

僕はパパとママを見ました
パパは時間が止まったみたいに固まったままです
ママはそわそわしだしてガスの元栓を気にしたりスマホをいじったりしました
開け放たれた窓から早朝の冷たい風が吹き込んで火照った僕の身体を撫でていきました
とても気持ちが良かったです
僕は妹を見ました
妹は座ったまま寝ていて、テディベアの頭に顎からよだれが垂れていましたそのよだれは透明で綺麗でした

ママが見ていたスマホのアラームが大きな音で鳴り響き
テレビのアナウンスが変わりました
パパの身体がびくりと動きました
パパとママと僕は窓の外を見ました
強烈な光で何も見えませんでした
世界が真っ白に消滅したかと思ったら次の瞬間真っ黒になりました
窓が弾け飛びました
とてつもなく熱くて黒い煙が一斉にキッチンに入ってきて
僕たちはみんな叫びました
熱くて怖くて苦しくて叫びました
僕は妹がいた方向を見ましたが
煙が視界を遮って何も見えませんでした
とにかく身体中が熱くて痛くて喉も目も指も足も関節も
もう何がどれでどうなっているのか何も分からなくなりました
次第にパパとママの声も聞こえなくなり
僕は自分が全く動けないのだということに気がつきました
身体中が焼けてあまりの痛さに叫ぶけれど痛くて声が出ません

僕は何が起こったのかまるで分かりませんでした
ミサイルが……ミサイルが……ミサイルが……
テレビのアナウンサーの声がかろうじて聞こえるけれど
テレビが無事なのか
僕の耳はちゃんと聞こえるはずの音を聞いているのか
ミサイルがどうなったのか
僕には何も分かりません
妹はどうなったんだろう

僕はこれが夢ならいいのにと祈りました
頼むから目覚めて
僕は床に這いつくばってあらん限りの念を込めてそう願いました






ハローハロー世界
元気ですか
僕はなんとか
どうにかこうにか今日もこうして元気です
今日僕の街をミサイルが通過しました
けたたましい携帯のアラームの音で目が覚めて
起き上がるとサイレンの音が鳴り響いていました
初めて聞いた国民保護のサイレンにドラマの中みたいだ
と思いながら時計を見るとまだ午前6時で
もう少し寝ていられると思ってもう一度眠りました
だけどとてもつらい夢を見て
起きた時僕は泣いていました
顔を洗って1階に降りるとキッチンからは良い匂いがして
フライパンを持ったママがおはようと僕に笑いかけました
妹はもう着替えていて、行儀よくテーブルについています
僕はママにおはようを返して妹の隣に座りました
ママが僕と妹のお皿に焼き立てのウインナーを順番によそっていきます
ママが目の前でフライパンを傾けたとき、フライパンから立ち込めた美味しい匂いの白い煙が僕の顔を撫でました
僕はふいに、涙が出ました
ママはどうしたのとかがみこんで僕の顔を見つめたけれど
自分でもどうしちゃったのか分からなかったから
煙が目に染みただけと答えました
本当にそれだけだったのかもしれません
パパが慌ただしくキッチンに入って来てママからお弁当をもらうと
僕と妹の頭を雑に撫でてばたばたと出て行きました
靴を履きながら
ミサイルが通過しても会社は休みにならないらしい
と言うパパに
当たり前でしょと
優しく返すママの声が玄関からしました

そうだミサイルだ

パパの見送りから戻って来たママが
それにしてもすごい大きい音でサイレンが鳴ってたのに
あんたはよく眠れたわね
と僕を笑いました

ハローハロー世界
元気ですか
僕は元気です

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