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診断メーカーで出た探偵と助手でストーリーを作る

診断メーカー(https://shindanmaker.com/863134)で出た架空の探偵と架空の助手で一つお話を作るという遊びを仲間内でした時の作品です。

タイトル:歪


診断結果:事件に遭遇し過ぎて様子がおかしくなった殺意に満ちた探偵と過去に虐待されていたことがある指名手配されている助手


 しかしよ、金田一一や毛利小五郎はよくもまぁ行く先々で殺人事件に遭遇して正気を保っていられるもんだな。あれだけどこかに出掛ける度に殺人事件に遭遇してたんじゃ呪われていると思ってどこにも行けなくなったって不思議じゃないし、あんなにも日常的に殺人が起きてたんじゃ人間不信に陥って然るべきだよな? なぁ、そう思わないか、田埜倉君。俺だったら怖くて外に出られないし見る人間すべて殺人鬼じゃないかって疑心暗鬼になっちまうよ。俺がいるから殺人が起きるんじゃないかって思いもするだろうね。
 実際その通りですよね、彼らがいるから殺人が起こる。そうじゃなきゃお話しになりませんもん。漫画なんですから。でも実際に現実だったらどう感じるんでしょう。周りの人の方が死神扱いするようになるかもしれませんね。実際目暮警部なんかは死神扱いし始めてますよね。実は僕も薄々感じ始めてるんですよ、朝桐さん。あなたといると人の死を目にし過ぎるって。探偵事務所をやっているのとは関係なしに、あなたは死を呼び寄せている気がします。僕が旅館をやっていたら、まずあなたには泊まって欲しくないな。
 まったく人が気にしていることをこうもはっきり言うもんかね。おかげで俺は山に行くにも海に行くにも気兼ねしちまうよ。家出娘の捜索依頼や不倫調査だって俺の事務所が手掛けりゃ殺人事件になっちまう。呪われてんのかね。
 気にしてるんですか?
 気にしない奴がいるか? 申し訳ないが田埜倉君、俺は真面目に事務所を畳むべきか考えている。俺には君の次の就職先まで世話する器はないから、今からでも就活を始めることをお勧めするよ。俺は実際、今回の事件でかなり確信を得ているんだ。きっと俺は探偵になるべきじゃなかった。俺が探偵を始めるにあたって商売繁盛を祈願したあの神社、もう名前も忘れちまったけど、きっとあそこの神様は人が死ななきゃ事件じゃないし、殺人事件を解決してこその探偵だとでも思ってるんだろうな。漫画の読み過ぎだ。俺はもう人間の恐ろしさをこれ以上思い知りたくないんだ。少しでも俺に良心的常識の感性が残っているうちに探偵稼業を辞めたいのさ。
 僕は続けたいですけどね、この事務所。また就活するなんて嫌ですよ。ようやくまともな生活が出来るようになったのに。
何言ってんだ、君はまだ若いんだし、情報収集能力や事務能力だって高い、いくらだって就職先はあるよ。
 朝桐さんは僕のこと何も知らないからそんなことが言えるんですよ。僕みたいな人間が職を得るのなんか、殺人が起こるのと同じくらい滅多にないことなんです。
 なぁそれはどう受け取るべきなんだ? 俺たちは前回の事件で5回連続殺人事件の事情聴取を受けたところなんだぞ。忘れたのか?
 稀有なことですよ、むしろ才能じゃないですか、朝桐さん。警察からだって感謝されてる。
 同時に殺人教唆の疑いがかけられてもいるがな。
 事務所畳むなんてもったいないです。死体になっていたとはいえ家出娘だって探し出したし、さらに犯人逮捕に一役買った、それに不倫調査だって僕たちが調べなければ不倫相手の死体は軒下で腐ってましたよ。犯人が海外に高飛びするところでした。朝桐さんは調査依頼を全て完遂しているじゃないですか。たとえそれが依頼人の予期せぬ結末だったとしても。それってすごいことですよ。
 ……田埜倉君は平気なのか? こんな恐ろしいことが何度も続いているのにまだ続けたいなんてどうかしてる。前々から思っていたが、死体を発見した時の反応と言い、君はどこか普通じゃないな。どうしてこんなに非日常的なことが立て続けに起こっているのにそんなにも冷静でいられるんだ? こんなに精神的に弱っている自分が恥ずかしくなるほどだ。だけど俺がおかしいわけじゃない。俺たちは殺人事件を捜査する刑事じゃなく民間のしがない探偵事務所なんだ、つまりただの一般人だ。それなのにこんなに殺人事件に出くわすなんてどう考えても異常だ。偶然が重なり過ぎてる。俺は当然だが殺人事件に慣れてない。殺人だぞ、考えるだけでおぞましい。慣れるわけないじゃないか。精神を病んだって恥ずかしいことはないんだ、むしろ普通の反応じゃないか? 正直言うと死体が見つかる度に途中で手を引こうと毎回思った。だけどいつも君が犯人逮捕まで調査を続けましょうと言うから警察に届け出てからも調査協力し続けたんだ。君は死体を見ても冷静に分析していた。調査依頼を全て完遂しているのは実のところ俺ではなく君だ。すごいのは君だよ。ここを辞めて警察にでも入った方がよほど世のためだ。
 朝桐さん。何度も言わせないでください。僕は警察が大嫌いなんですよ。憎んですらいる。話すのだって嫌だし、姿を見るのも耐えられない。僕が警察に入る? 天地がひっくり返ってもありえない話です。
 分かってるよ、田埜倉君。だから毎回警察が臨場してから猫みたいになっちまう君の代わりに俺が人間の役をやっているわけだもんな。君の警察嫌いも筋金入りだな。同じ空気を吸っているだけでも耐えられないなんて極端すぎるぜ。生きづらいだろ、そんなんじゃ。いい加減教えてくれないか、なぜそんなに警察を毛嫌いする?
 役立たずのくせに正しい顔して権力を振りかざしているのが嫌いなんです。吐き気がする。
 何故役立たずだと?
 事件が起こってからしか動かないから。あいつらは、犠牲者が出てからしか動かない。罪人が生まれるのを待ってるんですよ。不幸が生まれてからじゃ何もかもが手遅れなのに。事件が起こる前じゃ、助けを求めても助けてくれない。役立たずでしょ。
 君がそんなに怒りを露わにするのは珍しいな。髪が逆立っているよ。田埜倉君には助けてほしかったことがあったのか?
 ……もうやめましょう、この話は。それより仕事をしないと。朝桐さんが依頼を片っ端から断り続けるから今月事務所の家賃を払えませんよ。何とかして家賃分だけでも稼がなきゃ。夏だし、試しに心霊調査とかも募集してみましょうか? もしかしたら需要あるかも。
 君は本当に怖いもの知らずだな。呪いとか祟りとか霊とか恐ろしくないのか?
 信じてませんね。もし霊や呪いが本当にあるとしたら僕はとっくに呪い殺されているはずだから。なまじ心霊現象があったとしても、人を病気にしたり殺したりする力はない。恐れるに足りませんよ。生きている人間の方がよっぽど恐ろしい。朝桐さんだってそう思うでしょ? 実際今朝桐さんを神経衰弱に陥らせているのは生きた人間のおぞましさじゃないですか。
 田埜倉君よ、君はたまに不穏なことを言うなぁ。俺は小心者だから、生きた人間も怖いし死んだ人間も怖いよ。人間恐怖症だな、最早。そうだ、事務所を畳んで田舎で畑でもやって自給自足で生きていこうかな。なるべく人と関わらないようにしてさ。ほんとによ、探偵事務所なんて始めるもんじゃなかったな、何も知らなかった頃に戻りたい。俺はボーダーラインを越えた人間を見過ぎたし、人間に深入りし過ぎた。隠された裏の顔なんて暴くもんじゃないな。人の残忍さと身勝手さにほとほと嫌気がさしてんだ。もう関わりたくない、あらゆる秘密ごとにね。つまり人間と。秘密の無い人間なんていないもんな。これも探偵を始めてつくづく思い知ったことだ。人間を知りたきゃ全員探偵稼業をやってみるといいんだ、知りたくないことまでよく知れる。
 朝桐さん、本気で事務所を畳む気ですか? もし本気で会社を清算するなら、退職金をいただきます。
 田埜倉君、この事務所の財政状況は君が一番知っているはずだろ? 今君が自分で言ったばかりじゃないか、今月の家賃も払えないって。退職金なんて払えないよ、申し訳ないけどね。だけど雇用保険は毎月ちゃんとかけてあるから、会社倒産のためってことで、長くもらえると思う。その間に就活を頑張ってくれ。
 そんなのあんまりですよ、朝桐さん。僕はただのスタッフじゃない、共同経営者と言っても過言じゃない働きをしています。さっき朝桐さんもそう言いましたよね? 事件を解決に導いたのは僕だって。それなのに一方的に事務所を畳もうとして、退職金も支払えないなんて。身勝手すぎます。もし朝桐さんが事務所を畳んで田舎で農業をやるっていうなら僕もついていきます。朝桐さんにはその責任がある。僕に退職金を支払えない以上、解雇出来ないはずだ。
 待て待て待て田埜倉君。論理が破綻してるよ。そもそも君は農業をやりたくてこの事務所に就職したわけじゃないだろ。田舎で農業を一から始めるリタイヤ目前のオヤジについていくよりも失業保険をもらいながらここで就活して次の就職先を見つける方がよっぽどまともな生活を送れる。それくらい分かるよな? 君はまだ20代だ、経理の仕事だって出来るしIT機器だって使える、それにプログラミングだって出来るときた、就職先なんかよりどりみどりだろ。君が就活生の時はそりゃ氷河期で苦労したかもしれんよ、それで就活したって就職先なんか無いって思いこんじまってるんだな。だけど今は景気が違うし君だって社会人としての経歴がある、新卒の時と比べたらよっぽど楽に良い会社に就職できるよ。退職金を支払えないのは俺の落ち度だが、借金取りみたいに俺についてきたって儲けはないぞ。こっちでまともな会社に就職した方がよっぽど儲けになる。
 ……朝桐さんも僕を捨てるんですか。ひどいじゃないですか。本当はお金の問題じゃないんです。誰にも必要とされていなかった僕を初めて必要としてくれた人が朝桐さんだったから、だから僕は朝桐さんについていきたいんです。初めて会った時、面接で言ったことは嘘です。別に探偵になりたかったわけじゃない。仕事は何でもいいからとにかく雇ってもらいたかった。体力に自信があるとか、忍耐強いとかは本当のことですけど。
 それは充分よく分かってるよ。
 朝桐さんだけだったんです、僕を必要としてそばに置き続けてくれたのは。
 田埜倉君、君は俺が思っていたよりもよっぽど狭い世界で生きてたんだな。まるで最初に見たものを親と思い込んでついていこうとするひな鳥みたいだ。けどな、君は嘘をついてるよな。演技だってことくらい分かるよ。君はそんなキャラじゃないだろ。なぜ俺に固執する? 農業がやりたいわけではもちろんないし、俺のことが大好きで離れたくないってわけでも当然ないよな。そういう論法だったのかもしれないが、俺は騙されんぞ。
 ……嘘はついてないですよ。今言ったことは全部本当のことです。
 たとえそうだったとしてもそれが全てではないんだろう。
 僕には朝桐さんが必要だから。
 何のために?
 朝桐さんは探偵を辞めたらもう僕を必要としてくれないんですか。僕は朝桐さんが何の仕事をしてても朝桐さんが必要なのに。
 おいおい、気持ち悪いこと言うのはよしてくれよ、まさか本気で言っているのか? そんなことないよな。これ以上俺を困惑させないでくれよ。俺は今人間不信なんだ。ちなみに愛憎アレルギーでもある。分かるだろ?
 分かりましたよ、もうやめます。ただし、事務所を畳むことについてはやはり納得できません。僕には必要なんです、この場所が。こういうのはどうです? 事務所はこのままにして、朝桐さんはしばらく活動休止する。その間僕が依頼をこなします。それで、朝桐さんの調子が良くなったら復帰する。これでいいじゃないですか。朝桐さんは今一時的にまいってるだけですよ、しばらくしたら呪いなんて思わなくなりますって。ただ偶然にも不幸が続いてしまっただけだって思えるようになりますよ。
 活動休止中俺は自分の食い扶持をどうすればいいんだ? 君が何もしてない俺の給料まで稼げるとは思えないな。
 それは頑張ります。
 全く現実的とは思えないな。それに俺はもうきっと戻れないよ。こんなこと本当は話したくなかったけどさ、俺が人と関わりたくないのは恐れているからさ。今までの人生で当然尊重されると思っていた人生や命が自己中心的なくだらない理由で容易く踏みにじられるのを何度も見てきて俺の中の不可侵領域が崩れつつある。俺は危機に瀕している。脅かされるのをひどく恐れるあまり自分が何をしてしまうか分からない。だってそうだろ? ルールを守らない相手にルールを守って応戦してやる必要はないよな。自分を守るためなら仕方ない。だけど俺は誰も傷つけたくはないんだ。もう誰の恨みも買いたくない。俺たちが捜査まがいのことをして捕まえた殺人犯ども、俺が生きている間に出てくる。そしたら俺のことを探し出して殺そうとするかもしれない。一度一線を越えた人間だ、心の底から悔い改める素質なんてそもそもないよ。それに俺はもう本当に人間てやつを信じられない。どの事件だって結局証拠が出たら俺たちが最初に聞き込みをした時に話したことは全部嘘だと分かったじゃないか。この世界では真実を話す人間のほうが珍しいんだ。俺は疑心暗鬼に陥って心に芽生えた狂気をなだめすかして人間に紛れて生きるよりは誰ともかかわらず静かにひっそりと畑でもやって生きていきたいんだよ。ミイラ取りミイラになるなんて御免だ。
 ……素質、か。朝桐さんはきっと愛されて大切にされて育ったんですね。(そして弱く脆い。)僕はこう思うんです。決して人を殺さない人間なんていないんじゃないかって。現代の日本に生きていたら多くの人は誰も手にかけることなく生涯を終えますが、それはたまたま人を殺さずに済む人生だったってだけだ。時代が時代なら、生まれた環境によっては、歩む人生によっては、誰かを殺さずして生涯を終えることがいかに難しいか。誰の命も奪わずに自分の命や尊厳、大切なものを守り通せることに感謝すべきだ。たまたま引いたカードが平和だったってだけだ。そいつらの素質なんかじゃない。僕らが見てきた殺人犯も僕もあなたも同じなんですよ、素質に差なんかない。僕は彼らのことを可哀想だとも思わなかったですが恐ろしいとも思いませんでした。あなたみたいに平和のカードを引くことが出来なかった人間だから。誰にでも起こりうることだって知っているから。そしていざとなれば相手を殺してでも自分が生き残る覚悟が僕にはある。誰しも人を殺す素質はあるんですよ、朝桐さん。
 俺はだんだん君のことも怖くなってきたよ、田埜倉君。君は出会った時から時折その目を見せたな。何もかもを諦めている瞳。冷徹なまなざし。君はここに辿り着くまでにその若さで一体何を見てきたんだろうと俺はよく考えたよ。俺はきっともう探偵には戻らない。君がこの事務所を続けたいなら全てを君に譲るから君の名義でやると良い。退職金代わりに法人を移譲する、これでどうだ?
 それで朝桐さんはどうするんですか。お金、ないですよね? 移住するにも農業を始めるにも金が要りますよ。田舎に家や土地を所有しているなんて話聞いたことないですけど。それに自給自足と言ったって自分で食べる分作るだけなら浮くのは食費だけだ。野菜だけ食べて生きていくわけにはいかないし。農業をやるにしてもそれで稼ぐ必要がある。ビジネスとしてやらないといけない。そうなったら人との関わりは避けられませんよ。それに田舎の方が近所づきあいとか人間関係濃いじゃないですか。人と関わらずに生きていくなんて現代人には無理ですよ。逃げ場はないんです。
 確かにそうかもしれないな。でも他人の生活や秘密を覗いたり暴いたりする仕事はもううんざりだ。最大の秘密を掘り当てすぎてしまって、疲れたんだよ。分かるだろ。俺にとって探偵をしていた時間はもう思い出したくない過去になりつつある。この事務所は君にやる。然るべき手続きをして君に引き継いだら俺はもうここには来ないし、その後の俺の生活を君が心配する義理はない。
 朝桐さんにとって僕もこの事務所と同じように思い出したくない過去になりつつあるんですね。悪いことが起こるとそれに関係する全てのものに対して悪いイメージを持ってしまう、そういうことなんですか? 弱すぎますよ、朝桐さん。いい歳してティーンみたいに繊細だな。
 やめてくれ。分かってるよ。俺は君とは違うんだ。田埜倉君は俺にどうして欲しいんだ? なぜそんなに攻撃的になる。
 そんなの……自分でも分かりませんよ。ただ……いつも朝桐さんがその椅子に座ってたから、そこに自分が座って、他に誰もいないこの事務所がうまく想像出来なくて……。僕だって自分が何を望んでいるのかよく分からない。ここまできたら何とかして生きていかなくちゃって気持ちと、でも何のためにそうまでして生きたいのか分からなくて、どうしたらいいか分からない、朝桐さんがいなくなるなんて言うから。僕はずっと昨日までの日々を続けていきたいだけなんだ、朝出勤したら事務所に朝桐さんがいて、コーヒーの匂いがして、調査をこなして、また次の依頼に取り掛かる。それでいいじゃないですか。そんな、辞めるなんて言わないでくださいよ、朝桐さん。
 ダメだ、田埜倉君。俺に執着しないでくれ。縋りつかれたら息が詰まる。俺はそういう感情が嫌いなんだよ、知ってるだろ? アレルギーなんだ。執着が最終的に対象者の身を亡ぼすと実地で学んできたばかりじゃないか。俺が参ってるのはそのことなんだ。俺をその感情に巻き込むな。ああ、待ってくれ、やめろ、泣くな。俺が傷つけたみたいじゃないか。俺は誰も傷つけたくないんだよ。さっきからそう言ってるだろ。
 身勝手すぎるよ、朝桐さん。僕はあなたの言葉で泣いてるんだ。
 田埜倉君は、泣くと幼くなるな。(どこかでこの顔を見た気がする。)待てよ、君はもしかして

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