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社内外の知を集結して新事業の種をそだてる ー ダイキン工業テクノロジー・イノベーションセンターCVC室

空調のグローバルリーディング・カンパニーとして、技術革新を重ね「空気」と「環境」の新しい価値を創造するダイキン工業株式会社(以下、ダイキン)。社内外の知恵・技術の融合に向けて、2019年には110億円の出資枠を設け、スタートアップ企業との協業を推進する組織として、テクノロジー・イノベーションセンター(以下、TIC)にCVC室を設立。2020年にPlug and Play Osakaのファウンディング・アンカーパートナーとして参画され、スタートアップとの協創を加速させるダイキンの取り組みについて、Plug and Play Osaka Championのお二人にお話を伺いました。

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岡田 光正(Mitsumasa Okada)氏(写真左)
空調営業本部、グローバル戦略本部、経営企画室を経て、2020年5月より現職。
木下 悠(Haruka Kinoshita)氏(写真右)
TIC、シリコンバレー拠点 Daikin Open Innovation Lab Silicon Valley(DSV)を経て、2020年8月より現職。

「さがす」「つなぐ」「そだてる」 ー 3つのステップによるCVC室の取り組み

ーーCVC室での活動内容についてお聞かせください。

岡田:CVC室ではスタートアップの探索、出資、事業部との協業検討のコーディネート、事業推進などの業務に携わりますが、大きくは「さがす」「つなぐ」「そだてる」という3つのステップがあると思います。

スタートアップをどのように「さがす」か

木下:事業部門から寄せられた現行の社内課題を解決するために、技術やソリューションの導入や共同開発が可能なスタートアップの探索を中心に活動していますが、想定外の新しいシナジーを見出せるような偶発的な出会いも大切にしています。

具体的には、Plug and Play JapanのDealFlow*を活用して、社内課題の解決に向けて必要な具体的技術・ソリューションを保有するスタートアップのソーシングを依頼しています。同時に、想定外の新しいシナジーを生むスタートアップとの出会いを求めてアクセラレータープログラム*や外部のイベントに参加したり、VCとイベントを共催したりしています。スタートアップとの出会いを促進するための様々な支援機関については、研究開発やディープテックに強みのあるLeave a Nestや、グローバルでのスタートアップ・ネットワークが豊富なPlug and Playなど、それぞれ得意領域の異なるプラットフォームを複数活用し、スタートアップの探索から新規事業の企画のブラッシュアップまで行います。また、東京大学との産学協創協定を締結しているので、大学発ベンチャーや技術シーズの情報も活用しています。

*DealFlowとは:企業パートナーの個社別ニーズに合わせ、Plug and Play がリサーチした複数のスタートアップを選出。選出したスタートアップと1on1のミーティングを実施。
*アクセラレータープログラムとは:大手企業や自治体がベンチャー、スタートアップ企業などの新興企業に出資や支援を行うことにより、事業共創を目指すプログラムです。 “Accelerator”は加速者という意味であり、新興企業の成長速度を加速させることが主な目的です。Plug and Play では大手企業と国内外のスタートアップの共創を支援するプログラムを9つの領域別に実施。

岡田:社内のネットワークという側面では、「aVentures」と呼ばれる社内有志によるベンチャー情報の共有のためのネットワークがあります。気軽にチャットができ、探しているスタートアップや技術などに関する意見交換・情報収集が出来ます。また、シリコンバレーにあるDSV(Daikin Open Innvation Lab Sillicon Valley)や深センなどの海外チームから情報を得ることもあります。

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写真:岡田さん(左)木下さん(右)。PCには"Plug and Play Osaka"と"aVentures"のステッカーが。"aVentures"のロゴデザインは、線と線が重なり合う部分の色を変えることで、人と人が重なりあい生まれる新領域や可能性を表しているそう。

スタートアップをどのように「つなぐ」か

ーー事業部門との情報連携はどのように行っていますか?

木下:営業、生産、物流、サービスなど、各事業部門へのヒアリングを行っています。基本的には2025年を目標年度とする中期経営計画「FUSION 25」で掲げている重点戦略9テーマに沿って、各事業部でスタートアップ連携の可能性がありそうな領域に向けた提案をおこないますが、この他にもデジタル化を必要としている事業部門にアプローチしたり、これまでに所属していた部署とのつながりを活かして情報収集したりすることもあります。

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戦略経営計画「FUSION 25」重点戦略9テーマ
(出典:ダイキン工業ウェブサイト

岡田:事業部と「つなぐ」という観点においては、CVC室が属するTICという技術開発のコア拠点が非常に重要な役割を果たしています。TICには空調だけでなく化学や情報通信分野の技術者が集まっており、日々連携することができます。もともと滋賀や大阪の堺など複数の拠点に分散していた技術者が集まるTICは技術のコントロールタワーとも呼ばれ、社内の知が集結しているのでオープンイノベーションを進めやすい環境だと感じています。

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オフィスの様子(出典:ダイキン工業株式会社 TICページ

木下:仕切りがなく風通しのよい空間設計など、オフィス環境としてハード面で話しやすい環境が用意されていることもそうですが、「TICに集まる人」というソフト面においても、環境が整っていると感じます。2015年の設立以降、TICで大手企業連携や大学連携を積極的に行っていたという背景もあり、外部の方と意見交換をすることに対してポジティブに捉えて受け入れてくださる方が多く、新しいことを始めることに抵抗がない人が多く集まっています。オープンイノベーションを推進する意義の説明や説得という必要がなく、スムーズな情報連携ができます。
TIC内での情報連携が円滑である一方で、事業成果に結びつけるためには、事業部門でのオープンイノベーションの風土作りも必要不可欠だと感じています。

岡田:社内の意識改革という観点では、COIN(Channel of Open Innovation News)と呼ばれる、オンライン配信を通してTICやCVC室での社内外協創をダイキン全社員向けに発信する活動をおこなっています。2ヶ月に1回程度のペースですが、役員も含め毎回100名以上の社員が参加していて、配信時の質疑応答やイベント後にメールをもらって、新たに事業部門の担当の方とつながることもあります。社内においても、CVC室がどんな活動をしているのかという見えづらさはあるので、ここではなるべく外部には出せないような実情にも触れるようにしています。例えば、CVC室主導で実証実験から出資を経て、アフリカでエアコンのサブスクを事業とする合弁会社Baridi Baridi株式会社の設立に至ったWASSHA株式会社との協業案件については、WASSHAとBaridi BaridiのCEOを招いてタンザニア現地でのリアルな事情などを伝えました。協業している関係者を講師にお招きすることもあるので、Plug and Play Japanを通した文化醸成*はここでもできそうですね。

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*Plug and Play Japanを通した文化醸成とは:オープンイノベーションを促進するための企業文化醸成に関する取り組み。オープンイノベーション講座や新規事業のアイディエーション、先端技術勉強会など、企業パートナーの社内ニーズに応じて個別開催している。Plug and Play Osakaとダイキンとの取り組みにおいては、2020年8月に「ヘルスケア領域における顧客課題を起点とする事業開発能力の向上」をテーマに課題発見思考法ワークショップを実施。

スタートアップだけではない「そだてる」という視座

岡田:中長期的な課題の中には、スタートアップとの個別の協業だけでなく、複数の大手企業やスタートアップと連携し解決していく必要があるものがあります。足元での困りごとを解決するための現業との取り組みと、CVC室が率先して進めていくべき中長期的課題のバランスを保ちながら、両輪で進めていきたいと考えています。

木下:カーボンニュートラルなどの環境領域は、経営層からもCVC室が積極的に探索・推進を進めていくべきという期待があります。コンソーシアム型の協業イメージを持ちながら、「そだてる」「一緒にそだつ」という意識を積み上げていきたいです。個人的には、この「そだてる」という取り組みが一番大事だと考えています。

ーー投資スキームや投資後のコミュニケーションについて教えてください。

木下:投資の判断基準は大きく2つに分かれていて、①スタートアップと既に協業が進んでいて、協業の加速を期待して出資をおこなう場合と、②将来的な事業シナジーへの期待による中長期的な目線で出資をおこなう場合があります。いずれにしても、どのようなシナジー効果が見込めるか、事業計画、出資の背景などは丁寧に報告するようにしています。CVC室設立から1年半で、10社以上に30億円を超える出資をしています。
例えば、①の協業加速の例としては空調事業の現場のDXで協業しているFairy Devices(フェアリーデバイセズ)社化学事業で協業しており先日出資したルクセンブルクOCSiAl(オクシアル)社などがあります。②の例としては、高精度の位置検知技術を有する米Locix(ロシックス)社などがあります。

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出資後のスタートアップとのコミュニケーションについては、協業案件のフォローに加えてダイキンのビジョンや中長期の戦略など自社のアップデートも共有するようにしています。また、最近は直接お会いする機会が減ってきているので、スタートアップの設立記念日や事業における節目でのお祝いをお贈りするなど、ソフトコミュニケーションを大切にしていきたいと考えています。

岡田:出資をしたことは始まりに過ぎないので、その後のマイルストーンをどのように設定・達成していくべきかという目標設定が重要だと考えています。

今後の展望

ーーこれまでのCVC室での活動を振り返り、今後はどのようなことに取り組まれたいですか?

木下:現在CVC室には4名在籍していますが、事業推進や海外担当、また環境技術など、それぞれの担当領域が自然に分かれてきている状況です。

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岡田:昨年は一通りの出資業務を経験しながら、事業部へのヒアリングを徹底していました。今年はこれまでに得た情報を活かしながら事業推進に注力していて、事業部の協業推進メンバーを増やしながらスタートアップとの新規事業をやりきるという目標を掲げています。

木下:私は海外スタートアップへの出資を主に担当していますが、中長期的に取り組む案件が多いため複数案件を並行して担当することが増えてきました。以前は出資前のFace to Faceの面談を必須としていましたが、コロナの影響でオンライン面談での出資検討が中心なので、スタートアップとは直接会えない分、できる限り社内の現場を見に行き、ニーズヒアリングを丁寧に行い、事業部部門との信頼関係が築きやすくなるようなサポートを心がけています。
事業部門に紹介するスタートアップについては、推薦する理由を丁寧に伝えることや、海外スタートアップの専門用語を自社にとってわかりやすい言葉に置き換えて説明するなど、コミュニケーション・サポートを大事にしています。その結果、事業部門から相談が寄せられたり、外部との打ち合わせに呼んでもらたりするなど、少しずつCVC室の認知や協力体制の向上を実感しています。今後も、丁寧なコミュニケーションを続けていくことで幅広い外部協創を促進するきっかけを作ることができればと考えています。

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