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コンクリオン家の悲劇2 サイレント ネオ-ムーン ソング

カイバに招かれたシャギ党は家臣、市民の心配を裏腹に、とても礼儀正しくふるまい、最前線で良く働いたのである。
砂漠地帯で多くの戦闘を経験しているシャギ党は強く、北閥の強兵とも互角に戦った。
ついにレプザはシャギ党を信用し、1年後には将の位を与えたのだった。
しかし、シャギ党の連中は猫の皮をかぶっていただけなのである。
つまり、羊の皮をかぶった狼だった。

レプザは間もなく病気が重くなり、あっというまに瀕死の状態になった。
家臣の気がかりは、後継を誰にするかだった。
レプザは雷雨激しい夜、寿命を悟り、重要な家臣5人を呼び寄せた・・・すなわち、レッカ、ソデ、シャギ、エブデン(外務卿)、ワーム(将軍)の5人である。
しかし、タイミング悪くレッカ・コンクリオンは郊外にある野盗退治に出ていた。
レッカがレプザの屋敷にたどり着いたのは、招集されてから2時間がたっていた。
この時、レプザの寝室では恐るべきことが起きていたのである。

何重もの黒い隈を宿すレプザ、その瞳はすでに混濁としており、この世界から片足を離しているようであった。
息は荒く、宙を見る瞳は定まらなかった。レプザの周りにはかけつけた家臣たちもさすがに動揺を隠せなかった。
いや巨躯であるシャギだけは、マユひとつ動かさなかった。
レプザは荒い息で語りかけた。しかし、それはとても小さく、聞き取りにくかった。
レプザは確かに「レッカ」と口にしたのである。
すると顔色を変えたソデが、レプザの口元まで慌てて耳を近づけた。
さらに、レプザは何かを囁いた。外では稲光が部屋を不気味に照らす。
雷鳴にかき消され、はっきりと聞こえないレプザの声。
しかし、ソデは叫んだ。
「レプザ提督は、後継に我が息子、オジャムをご指名された!」
「ご英断である!」
シャギがすかさず声を上げた。
「お待ちくだされ、私には閣下の声が雷鳴にかき消され聞こえなかった」
「同じく」
ワームとエブデンが異を唱える。
「何をおっしゃるか、確かに今、私は提督から拝聴した!」
慌てるソデに対し、武骨な軍人であるワームは譲ることはなかった。
「閣下はレッカ殿も招聘されている。レッカ殿が到着するまで後継を指名されることがあろうか!」
「何を言う。提督のご容体は急を要している。さらに、このような折に遅刻するレッカ殿の忠節を疑うわ!」
と両者がやりあっていた。
「口論はおやめなされ! 提督が…」
エブデンが言うそばで、レプザの呼吸はいよいよ荒くなった。
そして、目をかっと開くと
「レッカはまだ来ぬのか…私はやはり間違っていた。シャギ党を呼び寄せたのは大きな誤りであった。後継はレ…」
レプザは最後まで言葉を口にすることができず、ついに息絶えたのである。

この頃、レッカは息子であるエピ・コンクリオンと配下数名と共に、レプザの屋敷にかけつけていた。
しかし、屋敷の入り口にはシャギ党のうち10将とその配下がものものしく武装して、入り口を見張っていたのである。
レッカが押し通ろうとするも、行く手を阻まれた。
シャギ党の参謀であるマーバイムは「レッカ殿とあろうものが錯乱され申したか!? 今は非常事態ぞ、いかがされた」
と立ちふさがった。
「いかがも何もあるか。私は提督に至急かけつけるようにおおせつかった。貴様らこそ武装して謀反でもたくらむ気か!」
両陣営の神経が高ぶり、緊張感が走った。
特にカイバの猛将と言われるレッカに睨まれると、恐れ知らずの10将もさすがに気圧されて後ずさりした。
「と、ともかくしばし、待たれよ。確認してくる…」
策士であるマーバイムはそういいながら時間稼ぎをした。
そして、その押し問答が3度繰り返されたのである。
そうこうするうちに、レプザは息絶えてしまった。
レッカが寝室に到着した時には、口きかぬ提督の姿があった。
レッカは膝をつき慟哭した。
しばらくしてレッカが落ち着きを取り戻すと、ソデが口を開いた。
「さすがはレッカ殿、真の忠臣。我が兄にきっと貴君の忠誠は届いているであろう。これからは、我が息子オジャムを支えていただきたい」
レッカはそれを聞くと太い眉を大きく動かし、怒りをあらわにした。
「なんですと! 私はそんなことは聞いてござらん。ソデ殿の御子息が後継ですと。あなたはオジャム殿が提督の器とお思いなのか!?」
レッカの迫力にソデは言葉を失う。しかし、脇にいたシャギはレッカの前に立つと言い放った。
「レッカ殿、いかにあなたが信厚き忠臣であろうと、その物言い、無礼ではござらぬか!?」
「いや、私は閣下の御遺言を聞いておらぬ。確かにオジャム殿をご指名されたというのか!?」
レッカが問うと、ワームが口を開いた。
「それがしも、このご指名に納得いかぬ。実際、雷鳴がとどろき閣下の声は聞こえなかった。いや、正直申せば、息絶える寸前、閣下が口にしたのはレッカど殿…」
ワームがここまで言った時である。
シャギは腰の刀を抜くと、ワームを切り捨ててしまった。シャギが猫の皮をぬいだ瞬間だった。
あまりのことに、文官であるソデとエプデンは腰を抜かした。
ワームの血しぶきが、シャギの仮面を赤く染める。
「提督の御遺言を汚したため、無礼打ちいたした。確かに閣下はソデ様のご子息オジャム様を後継に任命されたはずである。そうであろう、エプデン殿!」
「そ、そうだ」
エプデンは蛇ににらまれたカエルだった。シャギの恫喝を否定する気力はなかったのである。
「聞いたであろう、レッカ殿。証人は私、ソデ様、エプデン殿の3人のみ。大事な時に遅れた貴君が今、何かいうべきであろうか!?」
「う、うむ…」
レッカは怒りとやりこめられたという悔しさのあまり、言葉を失った。
内心は入り口でシャギ党を切り捨ててでも、急いで駆け付けるべきだったと後悔した。
ソデとシャギ党は前から念入りに計画を立てていたのだ。
「異論はござらぬな!?」
「何!…」
レッカの念押しにレッカの血が沸騰してにらみ合う。レッカの右手も帯刀に手がかかった。
すかさず、ソデが間に入った。
「両者ともやめられい! これからはお二人の力があってこそカイバも安泰。シャギ殿も刀をしまいなされ」
シャギはソデの言葉に素直に従う。
「そ、そうですとも。提督が亡くなった今、御2人が争い喜ぶのは北閥だけです」
エプデンが言うと、レッカは何も言わずに部屋を出た。

屋敷の前で待っていた息子のエピ・コンクリオンを連れて帰路につくレッカ。
レッカは起きたことを話すと、エピは「すぐさま逆臣を討ち果たしましょう!」と叫ぶ。
しかし、レッカは自分にいうように諭した。
「あの二人は前々から計画を練っていた。用意周到だ。シャギ党は武辺だけの荒くれ者と思っていたが、どうしてずいぶんの曲者である。あの仮面の男はただ粗暴なだけではない。ソデは金に汚い佞臣で、その息子は愚かなだけ。我々はいずれ閣下の無念を晴らさねばならぬ。しかし、それは今ではない。この決定に不服の者は多いはずである。我々は忠臣たちと連絡を取り、機会を待つべきである」

つづく…


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