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豚提督オジャム9-最終話-サイレント ネオ-ムーン ソング

プレハブ小屋は、薄い布団と小さなテーブルだけが置かれた質素な建物だった。
それでも、泊まる場所もなかったオジャムたちには充分だった。

オジャムはその日から豚舎の掃除やえさやりが任された。
労働というのもの知らないオジャムだったが、とにかく一生懸命働くしかなかった。
というのも、さぼってしまえば、オジャムだけでなくサシャも追い出されてしまうからだ。
オジャムはサシャの分もと悪戦苦闘しながら、必死に働いたのだ。

労働の後の食事はとても粗末なもので、野菜くずの入ったスープと黒パン、ゴサクが飼育している山羊の乳だけだった。
1日2食で、バターやチーズがつくのはまれだった。
それでも、働いた後に食べる食事は、何とも言えぬおいしさだった。
月歌中(げっか じゅう)のおいしいものを食べまくっていたオジャムだったが、過去に食べたどんなものよりおいしいと思った。

カイバで好きなものを貪り食う日々は、虚しさや寂しさを何とか紛らわせようと誤魔化してきただけにすぎなかったのだ。
だから、どんなに食べても満たされなかったし、いつまでたっても足りなかった。
1人でむしゃむしゃ食べるオジャムを、周りの家来がうらやましそうに、また侮蔑した目で見ていた。
オジャムはそんな視線に気づくこともなかったし、家来のことを気にかけて分けてやることもなかったのだ。

しかし、プレハブ小屋ではサシャと一緒に食べることができた。
オジャムがあっというまに平らげた横で、サシャはまだ半分も食べていない。
オジャムはごくりと喉を鳴らしながらサシャの食事を見つめる。
今食べたばかりというのに、お腹の虫がもう鳴いている。
「どうしたの、オジャム?」
オジャムの視線に気づいてサシャが尋ねるが、
「う…ううん、何でもないよ、ゆっくり食べるんだよ!」
オジャムは自分のことを棚に置いて、そう注意しては「そういえば僕はすぐ食べちゃうな」と頭をかいた。
大食らいのオジャムにはとても足りない量だったが、オジャムは満足していた。
サシャが幸せそうに食べる姿を見ると、何とも心が満たされた気持ちになるのが不思議だった。

食事も終わり少したつと、サシャはいつものようにスヤスヤと寝息を立てる。
毎晩、サシャに布団をかけてやるのもオジャムの日課だ。
すると、サシャが寝言を言った。
「むにゃ、むにゃ、オジャム……けらいになって、いいことあったよ!」
オジャムはそれを聞くと、何とも幸せな気持ちになっていた。


そして、いつものように、オジャムは外に出て夜空を眺めた。
オジャムは何ともいえない表情…つまり、泣きそうな、悲しそうな、うれしそうな表情で、長い時は1時間も空を見ていた。
それから「ああ、明日も早く起きないといけない。寝坊したら親方にどやされる」と思いだし、そそくさと小屋に戻っていった。
小屋に戻るとサシャの布団を改めて直してあげてから、オジャムも布団に入って目を閉じるのだった。
こうしてオジャムは、新しい人生を見つけたのだ。小さな家来サシャと共に…。

豚提督オジャム編 終

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