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ララへ!2-サイレント・ネオ-boy meets girl-

ゴサクの家から丘を降るさなか、後ろを振り向くとオネもゴサクもずっと手を振って、いつまでも家に戻るそぶりはみせなかった。
「ゴサクさん、オネさん、ありがとう。決して2人の事をわすれないわ!」
胸いっぱいにせまるものがあった、テディ・Dは思わず叫んだ。
振り返るたび2人の姿は小さくなっていった。しかし、いつまでもいつまでも二人並んで、子供たちが去っていくのを見守っていた。
オジャムもサシャもテディ・Dも心からゴサクの家に来れて良かったと思った。

2

ゴサクの家につながる長い坂道を下り、東の原っぱに向かうと、トレーラーの横でムサシが待っていた。
ムサシとテディ・Dのなまなましい激闘の後が残っており、草が黒焦げになっている場所やらクレーターができている穴ぼこやらがあちこちにあった。
昨日死闘を繰り広げた2人が、これから共に旅をする……オジャムはちょっと心配になった。

ムサシが借りたトレーラーはさいわい、2機のCAを搭載できる大型ものだった。サイレント・ネオと実験機を後ろのコンテナに収容すると
「ゴサクさんとオネさんとの挨拶はすんだのか?」
珍しくムサシが気を使ってサシャに話しかけた。
「うん…」
「元気出せよ、今度は本当のじいちゃんに会えるんだからよ」
ムサシは泣きべそをかいているサシャのくせっ毛の頭をくしゃっとなでた。
「オジャムも準備はしてきたか?」
「大丈夫だよ」
パンパンのリュックサックを背負ったオジャムが得意気にうなずいた。
「あと、そっちの…」
ムサシはテディ・Dの青い瞳をみつめた。テディ・Dは思わず瞳の中を大きくする。テディ・Dはなぜか肩を怒らせ、ムサシの前に一歩出ると、
「そういえばお互い自己紹介もまだだったわね。私はテディ・Dよ……あなたは?」
と、ぶっきらぼうに言った。
「……俺はムサシだ」
「ムサシね…ところで、あなたは軍人なの?」
「いや、軍人ではない」
しかし、ムサシは即答してからちょっと考え込んで、
「いや、そうだな……軍人になったつもりはないが……大きな戦争を一度、経験しているよ」
ムサシは地球とコロニーの激烈を極めた苦い経験を思いだし、一瞬だけ顔をわずかにゆがめた。その戦争でムサシは百機墜としを達成して、地球の世界政府から英雄認定を受け、スーパーエースの称号を得ている。
「そう、じゃあ、軍人みたいなものね」
「そうかもしれないが、それが何か?」
ムサシはテディ・Dの意図をはかりかねて、少し苛立ちながら言った。
「今の世の中、戦いたくなくても、戦わなくてはいけないときもあるだろう?」
と、口には出さなかったが、内心で思った。
「私はね、この世で軍人っていうのが一番嫌いなの。でも、ララまでの旅では、喧嘩はしないように気を付けるわ!」
テディ・Dはそういいながらも、そっぽを向いて早々にトレーラーの助手席に残りこんでしまった。
「のっけから、なんだあいつは…」
ムサシと目が合ったオジャムは肩をすぼめた。
「ムサシ君、テディ・Dはちょっと変わっているだけなんだ。悪気はないから、気にしないで…」
「わかってるよ、ララまではうまくやるつもりだ。それより、やっかいごとがなければいいな、お前と会うとやっかいごとばかりだからな」
オジャムは申し訳なさそうに頭をぽりぽりかいた。しかし、ムサシが仲間に加わったことは本当に心強かった。
あまり素性をよくしらないけれど、悪い奴ではないのは確かだし、何よりこんな凄いCAパイロットに会ったことはめったになかった。
「ムサシ君、よろしく!」
オジャムが差し出した手を、ムサシはぱんとたたくと、「さてと、ララに向けて出発だ!」ムサシは威勢よく言ってから運転席に、オジャムとサシャは後部座席に乗り込んだ。
トレーラーのエンジンが起動し、アイドリングをはじめる。
快晴の空に浮かぶ太陽に照らされ、白い光沢のトレーラーが銀のように輝いた。こうして一行はララに向けて出発することになった。

サイレント・ネオ-boy meets girl-(ララへ!/先行配信中)

BGM

-登場人物-

テディ・D:ゴスロリの格好をし、腕には9.8と数字をほり自死がんぼうがある少女。
オジャム:お飾りの提督をしていたが、父親をころされたあげく、砂漠に追放された。命からがら助かり、ゴサクの家で豚小屋などを掃除して糧を得ている。心優しい少年。
サシャ:誘拐船でオジャムと出会った6歳の女の子。勘が鋭く、ゴサクに気に入られている。その正体は…!?

ムサシ:地球(テラ)・ネオ東京出身の19歳の青年。愛機サイレント・ネオをあやつり、第5次地球・コロニー戦争において100機墜としを達成、英雄認定及びスーパーエースの称号を得た。地球のCAリーグにも参加している人気パイロットでもある。しかし、戦う意味を見失い、月歌に放浪の旅に出る。

ソック:ムーンキングダム・斥候隊副隊長。ボーナスをなくしてしまい、恐妻トド子に家を追い出された悲しき中年男性。

シャギ:極悪非道の仮面騎士と呼ばれる男。若いころは、義侠を持ち黄金のシャギと呼ばれていた。青年時代に地元の若者たちと悪党を結成、砂漠地帯で暴れまわったが、ゲンバ提督の娘に手を出したことで怒りをかってしまう。顔を切り刻まれ、腕と足を切り落とされたあげく、投獄された。しかし、復活後は人が代ったように残酷になり、シャギ党を結成して、ついにはカイバの提督の座を強奪するに至った。

ムドー:月歌だけでなく、コロニー連合などで十数年の間、傭兵として戦場をわたりあるいてきた猛将。残酷な攻撃をすることもあるが、騎士道と義理を尊ぶ武人。シュトライツァー党では義兄弟のシュトライツァーの副将として活躍、北国随一の武将とまで呼ばれるにいたった。ダークブルーのパンツァーを愛機としており、精鋭の青備え50機を率いる。

マギー教授(おねえ)とみなみちゃん(アイドル):一年前に地球(テラ)から月歌に向けて出発したが、未だに到着せず。
かつてスーパーエースだったマギーは戦闘での怪我のため、現役を引退して士官学校で教授をしている。裏の顔はおねえである。



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