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プロローグ2-3(ムサシ、月歌へ)-サイレント・ネオ-boy meets girl-

ムサシのセリフ3選・実際に声に出して読んでもらいました!

ムサシはニューデリーからネオ東京に戻ると、その足で郊外にある鳳崇寺をたずねた。
禅寺である鳳崇寺には本格的な畳敷きのドウジョーがあった。
つい少し前まではマスター・セッシュウサイ・スウゲンと共に座れるとあって、多くの在家信者が集まり、所狭しと壁にずらりと居並ぶその姿は壮観だった。

しかし、ムサシを始め多くの弟子はエレファンツに軍人として参加し、ドウジョー派を形成する一方、座禅の修業はおろそかになり、座禅会の参加者は大幅に減ってしまった。
寺の主、マスター・セッシュウサイ・スウゲンは直弟子を1人もとっておらず、跡取りがいないのも痛手だった。
高齢のスウゲンはついに病に倒れ、鳳崇寺の離れにある寝室で寝込んでしまったのだ。
こういった理由があり、盛況だった座禅会はあっという間に閑散としてしまったのである。
まるで火の気がないドウジョーのある禅寺は、主を失い寂しげであった。

セッシュウサイ・スウゲンが倒れたことを知らずにいたムサシは、寺に隣接する離れに向かった。
寝室で眠っているセッシュウサイの横には、在家の弟子が1人だけおり、つきっきりで身の回りの世話をしていた。
外では太陽の強い光をあびたクロマツが威厳をそなえて並んでおり、そこにいるせみたちがせわしなく鳴いている。
また庭園の池にしかけられたししおどしの竹筒に水が涼しげに注ぎ込む音がしたかと思うと、石をいきおいよく叩く音が響いた。

ムサシは部屋に入らず、ふすまを開けると廊下に正座をして一礼した。
「師匠、なかなかあいさつにこれずに申し訳ありませんでした。ムサシ、これより地球(テラ)をたち、月歌(げっか)に行ってまいります。そのご挨拶にうかがいました」
これを聞くと、セッシュウサイは目を閉じたまま、石のように微動だにせず、
「ムサシ、今のお主の心、ざわめき立っておるの。まるで嵐の中で赤子がわめいているようじゃ…ところで、座禅はしておるのか…?」
ムサシが答えをつまらせてうつむいているのを察し、
「その様子ではしておらんようだの、毎日5分は坐れと言っておるじゃろうが…。ところでムサシ、戦争に出てどうじゃった?」
「それが、その…」
ムサシはまるでムウ・メウにする態度とは違っており、子供のようになっていた。言葉がつまり、何も言い出せない。
「だから言ったじゃろうが、間違っても軍人などにはなるもんではないとな…いったい、いつまで人間は殺し合えば気が済むのじゃ…」
「…」
「それでムサシ、強さとは何かわかったか。今やお主は天下無双らしいじゃないか?」
「…」
ムサシは何も答えることができない。
それでも何とか言葉を見つけて、ふりしぼった。
「それを見つけに月歌に行ってみます…」
「ふーむ、月歌にのう…まあ、それもよかろう。かわいい子には旅をさせよとは、よく言ったものじゃ。
ムサシよ、不肖の弟子とはお前みたいなもののことをいうのだとつくづくわかった。されど、不肖の弟子ほど、いざいなくなってみるとかわいいもんだ。ムサシよ、生きるのをあまり急ぎすぎるな」
「…はい」
「ところでのう、わしの寿命もそろそろ尽きかけておるようだ…お主とも生きて会うのはこれが最後かもしれん…されど、わしとお前、湿っぽいのはなしじゃ。良い旅を…」
セッシュウサイはそう言い終えると、ふうと息をはいて眠ってしまった。
「師匠…ありがとうございました」
ムサシは深々と頭を下げ、心から言って別れを告げたのだった。
つづく

プロローグ2-1(ムサシ、月歌へ)

プロローグ2-2(ムサシ、月歌へ)

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※来週はプロローグにジャック・ソックが登場!

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