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鳳凰の雛-サイレント ネオ-ムーン ソング

シャローン・メルセデウスは幼少より鳳凰の雛と呼ばれていた。
それは父であるエビル・メルセデウス17世が、しばしば鳳凰と呼ばれることに由来した。
鳳凰はメルセデウス家の紋章でもあった。
エビルは愛機のCA、エクスぺリオン・メルセデウス家専用機の左肩に鳳凰が飛翔する姿を刻んでいた。
これらのことから、エビルの娘であるシャローンは、"鳳凰の雛"ともてはやされたのである。

威厳と畏怖を併せ持つエビルは、人前でめったに表情を崩すことはなかった。
法に厳格、処罰は平等、泣く子も黙るエビル大都督が健在の間は、ムーンキングダムは安泰、いづれ天下統一は間違いなしと言われていた。
そんなエビルであったが、一人娘であるシャローンを非常にかわいがった。
エビルの妻…つまり、シャローンの母シータは、物心つく前に病気で死んでしまった。
月歌の名家と呼ばれるコンクエスト家から嫁いできた女性であったが、美人薄命とはその通りで、早死にしてしまったのである。
エビルだけではなく家臣たちの落胆は言うまでもなかった。
なぜなら、シャローンの母は美人というだけではなく、人柄良く謙虚、さらに慈愛に満ちた人だったからである。
エビルはシャローンに母親の面影を見たのだろうか、とにもかくにもかわいがっていた。

メルセデウス家の番頭格、屋敷の守備を任されている忠臣ミト・アシュトンは、しばしばシャローンの前で表情を崩すエビルを目撃したと言われる。
「はばかりながら…」ミトはそう断った上で、「エビル様も人の親なんだと。普段はまるで感情を表に出さず、家臣団から恐れられている存在ではあります。けれど、シャローン様の前では父親の表情をすることもしばしばでした」と回想している。
このように大事に育てられたシャローンは、すくすくと育ち、中央一の美君と呼ばれるように、母親に似た美貌の持ち主に成長した。

シャローンは母親に似て聡明であったが、必ずしも似ていなかった。
というのも、非常に活発でわんぱくなおてんば娘だったのである。
幼少の頃より、メルセデウス家3友と呼ばれる子弟を引き連れて、市民の子供らと喧嘩することもしばしばだった。
すなわち、シャルル・コンクエスト、ゼ・マリア、ホア・ギンナーら同世代の面々である。
この時期、シャローンは後に家臣の中枢となる家来と共に過ごしたことは、大きなプラスになった。
また、シャローンは意志が強く、やりたいと思ったことは決して曲げることはなく、父親譲りの側面も持っていった。

時は群雄割拠、誰もが明日をも知れない身であり、女性であろうと軍人になることは珍しくはない時代だった。
しかし、エビルはシャローンが武官になることを禁じた。
跡継ぎも一族から養子にエドガーを迎えて、世継ぎ問題もすでに解決済みであった。
シャローンの希望で士官学校にこそ入学できたが、エビルは文官にするつもりであった。
エビルの希望を理解していた聡明なシャローンは、自らも武官になるつもりはなく、一時は教師になろうと考えて時期もあったと言われる。

しかし、運命はあまりに残酷であった。
エビルを始め重要な家臣たちの多くが、”カフタス銀の夜事件”により、暗殺されてしまったのだ。
一挙に大黒柱を失ったムーンキングダムは、この世の終わりというような騒ぎになったのである。
まだ、士官学校で学んでいたシャローンであったが、文官になることも、教師になることも夢と消えた。
時代がシャローンに戦うことを求めたのである。
シャローンはメルセデウス18世として世に出ることを決意する。
世間は鳳凰の雛もまた鳳凰であるのか、固唾をのんで見守ったのだった。

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