3. 「街とその不確かな壁」村上春樹
こんにちは!更新が遅れてしまいましたが、今回は前にXで話題になっていた村上春樹さんの新刊、『街とその不確かな壁』について書いていきます。
1、2回目とは違って先行する資料は無しで、自分の考えだけを書きます。違う感想があったり、この文を読んで興味を持ったりしたら、ぜひコメントで教えてください。
この本は、「現実」の話と「街」の話が交互に少しずつ進んでいき、読み進めるとともにその二つの世界の壁が溶けていき、混ざりあっていくような話です。これは村上春樹さんが得意としている手法です。
村上春樹さんの本は、誰が読んでも不思議で独特な雰囲気を放っていると感じると思うのですが、この本も例外ではないです。
この本によく似ているのが、『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』という本です。作中に出てくる「街」の構成がほぼ同じ作りになっています。また、現実と街の二つの話が独立しているところから次第に混ざり合っていくのも同じで、これが何かを意味するのかは分かりませんが、なんとなく私は『世界の終わり〜』を読んでいたために、それが予習になっていた感じがしてとても読みやすかったです。
初めて村上春樹さんの本を読む人は世界観を新鮮に感じワクワクすると思いますし、『世界の終わり〜』などを読んだことがある人は、どこまで「街」が同じ作りになっているのか、どこから前作品と変わっていくのかといったところに興味を持って読めると思います。
どちらにせよ、読んだ人はこの不思議な世界観にいつの間にか引き込まれ、中盤から話が繋がり点と点が繋がってくると、ある種の高揚感を感じられると思います。
村上春樹さんは小説の意味を解説されるのがあまり好きではないと、どこかに書いてあった覚えがありますが、今回はあえて、私が読んで意味を持たせてみたいと思った、キーポイントになっていそうなものの意味を考察していきたいと思います。
本を読んでないと何を言ってるのか分からないかもしれませんがよろしくお願いします。
最初に「街」が出てくるのは第一部の一、「現実」の話の中です。現実とはいってもしばらくは主人公の若い頃の回想シーンになります。
ここで、主人公が想いを寄せている女の子が主人公に「街」の話をします。つまり、「街」は女の子が自分の頭の中で作り上げたものなのです。高い壁に囲まれ、川が流れ、図書館を持つ。そして、時間は意味を成さず、人々は共同住宅に住み、単角獣が暮らす。
第一部の五から主人公の「街」での物語が始まります。街の中で、彼は図書館で「夢読み」という仕事を与えられます。いびつな卵型の「古い夢」を読んでいくのです。
そこでは人は影を切り離されずには存在できず、影は閉じ込められ、本人が暮らすにつれて、衰弱していくことになります。そこで、「影」は「街」から二人で脱出することを提案するのですが、本人は断ります。
そして、「影」は脱出すると、「現実」に戻っています。
「現実」の主人公は、田舎の図書館で働き始めます。「街」の主人公と似たように。そして、その図書館に通う、おそらく自閉症やサヴァン症候群の少年と出逢います。その少年は「街」のことを知ると、主人公にその街の壁は終わらない疫病(魂にとっての疫病)を排除するためにあり、その街に行かなくてはならないと伝えます。
ここで「街」と「影」について考察することができます。
「街」は主人公が昔想いを寄せた女の子が作りあげました。女の子は精神的に不安定なところがあり、長い手紙を最後に連絡が取れなくなりました。そして、「街」の中の人々は「影」を持たず、また主人公以外の人々は古い記憶や感情も持たず、淡々と生きています。ここから、「街」は女の子がそうであってほしいと願った、精神病理的なものがない世界、「影」は基本的には人間の感情の部分なのではないかと考えます。「影」が引き剥がされ、それが衰弱して死んでしまうと、人は完全に「街」の住人になり、記憶や感情をもたなくなってしまうのです。主人公の「影」は衰弱したものの、死ぬ前に壁の外へ出ることができたために、現実の暮らしをすることができました。
前述した少年は、何らかの方法で「街」の中へ入ります。そして主人公は影をのこして少年によってもう一度「街」へ入らされます。そして、最後には少年は「街」に残り、主人公は外にいる「影」を信じて、壁の外へ出ます。
文にするのが難しいので整理すると、
街→感情を排除した人工的な世界(感情を排除することは元来不可能なため、綻びがある)
壁→「街」の中の人に応じて形を変える、綻びを繋ぎ合わせるためのもの、心の殻
影→人間の感情の部分
古い夢→人々の心
主人公→長い間女の子を失った現実を受け入れられ無かったが、受け入れられるようになり、壁の外へ出られる(心の殻を抜け出す)
女の子→現実逃避の手段として「街」を作った、本物は「街」で暮らしている、現実を受け入れられなかった(壁の外へ出られなかった)
少年→感情を持たないため、現実に適応できず、「街」には適応できた
キーポイントは上に挙げたものになると思います。村上春樹さんはあまり意味を持たせずに書いたかもしれませんが、それでも考察の余地がありそうだったので考察してみました。
辞書のように分厚い本ですが、とても読みやすい文で、描写が綺麗なので是非読んでみてください。※ただし、男性性的な描写が苦手な人は注意です。
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