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孤月(こげつ)

(ノアの部屋にて。)
僕もだよ。キミの瞳は、まるで満月のように澄んで輝いていて、じっと見つめていると吸い込まれてしまいそう。ノア、好きだよ。
それ、本気で思ってる?永遠に?そっか、嬉しい。ノアがそう望んでくれるなら僕が叶えてあげる。
(ノア、少し怯えた素振り)怖がらないで。大丈夫。僕たちは何も悪いことなんてしていないんだから。二人の望みを叶えるだけだよ。
(主人公、ノアの血を吸い、ノアはぐったりする。血を吸いすぎて殺してしまう。)

ノア、さぁ起きて。一緒に外の空気でも吸いに行こう。
(ノアは目を覚まさない。)・・・ノア!起きてよノア!

(ノアを呼ぶ声とノックがドアの外から聞こえて焦る)
誰だろう、ノアのお母さんかな。・・・会いたくないな。(ドアの外に向かって)あ、ノアなら今外に行ってて・・・すぐ戻るって。
(ノアの母親がドアを開けようとする)駄目です!あ、えっと・・・、駄目だってば、開けるな!!
(ノアの母親、ドアを開けてしまう。悲鳴。)
違うんです。ノアは死んでなんかいない。もうすぐ目が覚めるはずなんです。
お医者様?医者なんて無意味ですよ。ノアはヴァンパイアとして、これからずっと僕と一緒に生きていくんです。ね、ノア。

 そう、僕はヴァンパイアだ。確かに人間の血の香りがふっと香っただけで、僕たちは欲求を抑えられない“血に飢えたけだもの”に成り下がる。血の味を少し思い浮かべるだけで、反射的に唾が溢れ出してくる。レモンを見て口の中が酸っぱくなるのと同じ。でも、ノアは特別だ。分かるでしょう?陶器のように滑らかな肌も、さくらんぼのような唇も、天使のような声もたまらなく美しい。ボッティチェリが描くヴィーナスも、ノアの美しさには叶わない。ノアの美しさが老いて失われていくなんて、僕には耐えられない。ねぇ、あなただってそう思うでしょう?だから僕は悪くないんだ。僕だけが、ノアに永遠の美しさを与えられた。ノアは美しい僕の隣で、永遠に生きていけるんだ。

  確かに少し目覚めるのが遅いな・・・。ねぇノア、いつまで寝たふりをしているんだい?いつもみたいに僕をからかって遊んでるの?・・・ノア?ねぇノア、返事をして。ノア!!・・・そんな。・・・違う、僕のせいじゃない。こんなことになってしまうなんて思ってなかったんだ。僕はただ、ノアに永遠をあげたかっただけなんだ。僕は悪くない。ノアだってそれを望んでいた。

 いや、知らなかったと思う。・・・言えなかったんだ。ずっと。僕の正体を知られたら、怖がられて拒絶されるんじゃなかって、好きになればなるほど怖くなって、余計に言えなくなってしまった。僕がヴァンパイアじゃなかったら、何にも知らない、無垢なキミの命を奪わずにすんだのかな。いや、待って・・・。本当にそうだろうか?キミの最期の表情、恐怖に歪んだその瞳の一番奥深くで、キミは泣いていた。あれは怖がっている目じゃない。僕を寂しそうだと言ったあの時と同じ目だった。憐れむような、愛おしむような、僕の全てを知っているような目だった。ノア・・・キミは僕がヴァンパイアだって気付いていたの?気付いていて、それでもいいって受け入れてくれていたの?キミが僕を呼ぶ、「アンバー」って声は、あったかくて、柔らかくて、居心地が良くて・・・。そうか・・・、
(ノアの母親、アンバーを抱きしめる。)
あったかい・・・。人間に戻りたい。・・・戻れないならせめて、キミの温もりは忘れたくないなぁ。永遠に。

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