小説 あべこべのカインとアベル②ー栞の独白

 私は一人っ子だって、水穂は思っているでしょう?


 確かに、両親が仕事で海外にいて、この丘の家に一六歳の女の子が一人、そんな状況で、私に兄がいたら、一度くらい話題に上ってもいいはずよね。


 でも、今まで話したことはなかった。だって、兄はもう、ここにはいない――私が殺したのだもの。


 そして、兄が存在していたことを知っているのも、おそらく私だけ――両親は、どうかしら。今でも私は、彼らの真意をはかりかねているわ。


 こう聞くと、たぶん、私をおかしい子だと思うでしょうね。


 でも、水穂には話したかったの。初めて会った時からずっと。だって、私たち、似ているのだもの。どこが、といわなくても、水穂にはわかっているはずよね。


 ――さて、私の兄のこと。彼が存在していたのは、六年前のひと夏きり。短かったけれど、私には十分な時間ではあった。


 彼は突然、ここの二階に現れたの――


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