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中国ドラマ「瓔珞(エイラク)」に見る仮面(ペルソナ)と本来の自分の相克

  先週の金曜日、柏モディの開運館 B&Bで華流ドラマ好きのリピーターさんから「瓔珞(エイラク)が木曜で終わったね」という話がでました。

 このドラマ、2018年度、中国で最大のヒット作だったそうです。「驚異の再生数180 億回超! 中国版エミー賞4冠! 2018 年世界で最もググられ、Variety 誌のベスト海外ドラマにも選ばれた世界レベルの話題作」とあります。制作費48億円を費やしており、衣装や舞台セットの豪華さには目をみはるものがあります。

清朝・乾隆帝の後宮を舞台にした2018年の大ヒットドラマ

 日本では「瓔珞(エイラク)~紫禁城に燃ゆる逆襲の王妃~」というタイトルですが、原題は「延禧攻略(えんぎこうりゃく)」です。モデルになったのは、清朝の第6代皇帝・乾隆帝の皇貴妃になった孝儀純皇后です。延禧宮に住んでいた彼女が陰謀うずまく後宮で敵を攻略し、昇つめていくさまを70話で描いています。

 ストーリーは下記のようなもので、瓔珞は姉を殺した人間と、自分に目をかけてくれた皇后・富察(フチャ)氏を自殺に追い込んだ人間たちに復讐していくんですね。だから、日本では「~紫禁城に燃ゆる逆襲の王妃~」というサブタイトルを付いているわけです。

 清の乾隆帝の時代、綉坊の女官として後宮に入った魏瓔珞(ぎえいらく)は、宮中で殺された姉の死の真相を突き止めるため、密かに犯人を捜し始める。そして姉の遺品に皇后の弟・富察傅恒(フチャふこう)の持ち物を見つけると、彼への疑いと復讐の炎を燃やす。そんな中、妃嬪たちの権力争いに首を突っ込んでしまった瓔珞は、類まれな聡明さを認められて皇后・富察(フチャ)氏の侍女として仕えることに。これを機に傅恒に接近する瓔珞だが、彼の清廉さに触れるにつれ、次第に2人は惹かれ合っていく。しかし、予期せず乾隆帝からも寵愛を受け…

 後宮というのは、たった一人の男・乾隆帝の寵を得て子を産むために何十人もの妃が暮らしているところです。彼女たちには一族が後ろに紐づいている(だから名前ではなく、○○氏と呼ぶ)ので、乾隆帝に愛されること=一族の繁栄ですから、「私はひっそり生きるわ」という選択肢がないんですね。善い人過ぎたり、男の子を産んで油断していると、すぐに足をすくわれてしまいます。

 第一話から「あ、柏妃は出てきたばっかりなのに、もう首を括ってしまったの!」みたいな展開で、どんどん脱落していくんですよ。思いっきり振り切れた苛烈な人間関係が展開していくので、爽快感すらあります。その一方、親子や兄弟姉妹の愛、師弟愛、友情、男女の愛など、様々な愛が描かれてもいて、その情愛の部分は万国共通だからほっこり出来るのです。

仮面を被って仮面に乗っ取られるか、自由を求めて自滅するか

 ヌメロロジスト(数秘術師)の観点から見ると、このドラマは非常に興味深いテーマを含んでいるんですね。つまり、数秘術の4つのコアナンバーのうちの2つ、社会的に形成されたパーソナリティ(「仮面(ペルソナ)」)と魂の欲求(本来の自分)の相克が描かれているのです。

 ドラマに登場するメインキャラクターは3種類にタイプ分けできます。

 ①仮面を被って周囲が期待する責務を果たしていたが、それで得るものがなく、本来の自分に戻るために破滅するタイプ
 
 ②本来の自分を守ろうと闘っていたが、それで得るものがなかったので、仮面を被り、やがてその仮面が自分になってしまうタイプ

 ③終始一貫、自分であることをやめようとせず、自分らしく生きるために終生闘い続けるタイプ

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 ①のタイプは慈悲深く、絶世の美人で善人の皇后・富察氏や親友を庇って自死した妃・柏氏、皇后・富察氏や瓔珞から受けた恩を返し、第五皇子を後宮において出家する愉妃になります。

 皇后・富察氏は嫁ぐ前は天真爛漫で舞や音曲を愛した少女でしたが、良き皇后になろうとして自分の感情を押し殺し、自分の産んだ皇子が早逝しても、身ごもった側室を嫉妬せず、守ってやるような善人で慈悲深い人です。

 富察皇后を演じた女優のチン・ランさんは品性のある絶世の美女なんですよ!! ですが、仮面をかぶり続けた彼女は、出産したばかりの第七皇子が陰謀で殺され、それ以上演じ続けることに耐えられなくなり、自由を求めて城の上から身を投げてしまいます。

 YOASOBIの楽曲「夜に駆ける」じゃないですが、皇后といえど、一度入った紫禁城から出ることは許されず、自由になりたければ暗闇に向かってダイブするしかないのです。華やかに見えて広い牢獄、それが紫禁城なんですね。

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②のタイプは後宮に入った当初は清廉潔白で徳の高かった嫻妃(かんひ)·輝発那拉(ホイファナラ)氏と嫁ぐ前から皇后・富察氏と親友で、その弟である富察傅恒(フチャふこう)を想い続ける純妃、そして富察氏から信頼の篤かった女官で、後に乾隆帝の命令で富察傅恒の妻となる爾晴(じせい)です。 

  三人とも当初は善良で徳が高く、人に対して公平寛大であろうとするのですが、「頑張ったのに損した感」が大きく、その反動で富と権力を求めて人格が豹変し、自滅していきます。

 特に爾晴の豹変と悪人ぶりは本当に怖かった。女官仲間の明玉が「人が変わった」と言うのを聞いて、瓔珞は「変わったんじゃない。本質が出ただけよ」と言うんですね。とても印象的なシーンです。

自分を貫き通す人間は他者からすると迷惑な存在だったりする

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 ③のタイプは登場人物の多い「瓔珞(エイラク)」で三人しかいません。気が強く正義感も強い主人公の瓔珞、何があろうと生涯瓔珞のみを愛し、守り抜いた富察傅恒、心底愛していた皇后・富察氏を失い、寵愛した妃や皇子たちが次々と離れていき、孤独を噛みしめながらも、政を第一とする紫禁城の主・皇帝であり続けた乾隆帝です。

 「瓔珞(エイラク)」は清朝が舞台ではありますが、よくよく考えてみると、登場人物一人ひとりの生き方や悩みは現代に通じるものがあり、「あなただったら、どう生きますか?」という問いを投げかけているように思います。

 例えば、「自分を曲げない」「本来の自分で居続ける」というのは、立派に聞こえますが、他の人からすると、迷惑な存在であったりするわけです。

 瓔珞の姉を陵辱した和親王 弘昼が父親に良いポジションの職を与え、姉を側室として墓に入れてやると提案しますが、瓔珞は彼も息子のために姉を殺した裕太妃も許すことができず、復讐します。第三者的には皇族である和親王はかなり譲歩しているし、それで矛をおさめれば、富察傅恒と結ばれた可能性だってありました。また、彼女が皇后のいる長春宮に留まっていれば、富察氏は二回目に身ごもった皇子を無事出産して、悲劇の皇后にならずにすんだかもしれなかったのです。

 そして王子様キャラである富察傅恒は瓔珞しか愛さず、愛せないために、正式に妻となった爾晴や彼の心情に寄り添ってくれた奴婢の青蓮を幸せに出来ません。

 乾隆帝は英明で皇后・富察氏が実は自由を愛する女性だと理解していながら、そして、最初の妻である彼女が自分にとって特別な女性だと自覚していながら、「皇后はこうあるべき」というステレオタイプを押し付け、永久に失ってしまいます。

 とはいえ、この三人は抜きんでて精神が強く、敵を倒していく智謀に恵まれていたから仮面を被らずに生きることができました。凡庸な人間はそうはいきません。

瓔珞の登場人物が抱える苦悩は現代にも通じるものがある

 現代は紫禁城とは環境が違うと思われるかもしれません。ですが、子供は親の庇護なしに生きられず、勉強や運動、芸能に優れていれば親や師匠・監督などの期待を背負います。能力が低ければ低いで、落胆した顔を見ながら生きなければなりません。成人前は学校の入学試験、学校を出れば就職、就職すれば会社や組織、結婚すればパートナーや子供など、次から次へと色々関門があり、様々な人と繋がり、他者の思惑の影響を受けずにはいられません。そして、家族は宝であると同時に一番の利害関係者でもあります。

 私たちも実は瓔珞のように、目の前に現れる敵を攻略し、壁を乗り越えていかなければ、サバイバル出来ない世界に生きているのです。それだからこそ、最後まで生き抜いて皇后に昇り詰めた瓔珞の生き様に喝采を送りたくなるのではないでしょうか。

 それにしても、中国ドラマ、恐るべしです。資金力はもちろん、女優は美女揃い、男優は長身でイケメンです。演技が下手な人は一人もいません。なにしろ、14億人から選び抜かれた人たちですからね。キャスティングされること自体が熾烈な競争を勝ち抜いてきた証なのでしょう。

 日本はこの大国とどう渡り合っていけば良いのだろう。ドラマを見ながらそんなことも考えさせられました。

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