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【読書メモ】5まで数える(松崎有理著)

 今日はネタバレを含む読書メモを書きます。
 今日読んだのは「5まで数える」松崎有理著です。話は少し逸れますが、こんなにピッタリのサムネイルが見つかるとは。そして、タイトルは「5まで」数えるですが、英訳すると I can't count five になるようです。

 松崎有理先生はHPも充実しています。公式サイトはこちら

以下ネタバレを含むので、読んでいない方はぜひ作品を御覧ください。

 この作品は、主人公は5以上の数が数えられない男の子ですが、量の概念がわからないことをむしろ生かして、数を一般化して文字で表す考え方は得意であることを知り数学の楽しさに目覚めていったというストーリー。数学と医学が融合した小説でとても興味深かったです。松崎先生は医学系研究に従事されていたこともあるそうで、その知見が生きています。5以上の数を数えられない障害がどのようなものか想像しにくい人も、その他の(比較的割合の多い)障害のある人の様子に絡めて伝えており、主人公の抱える困難を想像しやすくなっています。非当事者に困難を想像してもらう手法として大変参考になります。
 数学の内容については、等差数列の和の公式を使った数学者の逸話や大学で学ぶような写像の話があり、数学を本格的に学び始めた人が読んでも楽しいように思いました。これら、具体的な数学の内容についても丁寧に説明していて、SF作品でもこのように数学の解説をしっかり行ってもいい(しかも短編集の表題作になっている)というのが驚きでした。
 解説は丁寧でありながら、数学そのものを伝えるというよりは、量の概念を理解できない障害を抱えながら生きる人に寄り添った作品であり、この点がとても勇気づけられるものになっていました。
 数学の小説では、異常に察しのよい学生・生徒が出てくることがほぼお約束になっていて数学専攻の学生でもしばしば意気消沈してしまうこともあります。だからこそ計算だけでない数学の魅力を伝える切り口や苦手意識のある人に寄り添っている作品は珍しく、とても意義があるものだと思いました。そして、それを効果的に伝えるためには、数学そのものだけではなく、様々な人の目線を知ることが必要そうです。このような種類の小説がもっと増えるといいなと思いますし、自分も何か書くならこの切り口に挑戦してみようかな……と思いました。これからも長く想い出に残る作品になりそうです!


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