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今週の読書録

こんにちは。
今週手にしたのは、平和な日常のありがたみを再認識できる5作品。
刺激のない日々、なんとなくスッキリしない、そんなモヤモヤを感じる方は試してみてはいかがでしょうか?

海神の子

『海神の子』は、直木賞受賞作家である川越宗一さんの作品です。
海賊の集団の中で、日本の戦でいえば一番槍にあたる役目を担っていた松。
恩人を騙して殺害した夫を誅殺し、とってかわるように一門を率いる立場になる。
媽祖という航海の女神の二つ名で呼ばれ、一門に慕われる松の息子・福松は、幼少時は日本の育ての親のもとで暮らすものの、やがては松とともに海を渡ることを決めます。

江戸時代初期の海賊という事件事故ともに死との距離が近い人々。
当然のように登場人物も次々に退場する中、主人公の松と息子・福松の二人は運命に導かれるように死線を潜り抜けます。

もし御曹司に鄭家を誤らせた責がおありなら、正されるべきです。ここで死ねば、それこそ逃げです。
悔やんで、生きられませ。せめて次こそは、同じ過ちをせぬように。
生きるために、いまは敵から逃げるのです。

二人に危機が訪れる都度、周囲からは「生き抜く」ことを強く説かれる場面が度々描かれます。
寄る辺ない人々の安心できる場所を求めた親子が迎える結末とは?
『国性爺合戦』のモデルとなった英雄・鄭成功とその母を主人公にした作品は、刺激のない日々に飽いているときにいかがでしょうか。


夢は捨てたと言わないで

安藤祐介さんの『夢は捨てたと言わないで』は、何だか最近おもしろいことがないなという日に読みたい本。

アラサーの元甲子園球児の主人公は、地元の期待を背負い、プロ野球選手になるも戦力外通告。
今ではスーパーで働く、どこにでもいる一般市民。
そんな彼に与えられた突然のミッションが「お笑い実業団」のプロデュース?!

スポーツの実業団はよく耳にするものの、お笑い?
今までエンターテイメントにさして興味もなかった主人公は、メンバーと協力しながら…という何となく結末は予測がつきそうなストーリーです。
ただし、途中での現実でも起こり得そうなハプニングと乗り越える過程、後半ではまさかの人物が一花咲かせてくれるシーンは爽快。


書店員の二つの罪

碧野圭さんの作品は、「書店ガール」、「菜の花食堂のささやかな事件簿」シリーズなど、頑張る主人公が周囲を巻き込んで前進する作品のイメージがありました。
しかし今作、『書店員の二つの罪』に登場するのは、割り切れぬ暗い過去、家庭の問題、ジェンダーや人種の悩み、ワーキングプアなど、何かを抱えた人々。

衝撃的な少年犯罪の関係者にとっては、何年経とうとも事件は完全なる過去のものにはなることはありません。
出版不況と言われる中で話題の作品であれば、倫理的な問題は考慮しないのか?という世間の声もある中で、かつて世間を騒がせた殺人犯の手記の発売。
作中のわずかな違和感から主人公がたどり着いた真実。

真実を知ることが必ずしも幸せとは限らない。
しかし、真実を知って乗り越えた先だからこそ見える景色もあるかもしれません。

妙に現実的な結末は、何でもない日常のありがたみを再認識できる作品かもしれません。


なんでも見つかる夜に、こころだけが見つからない

紀伊國屋じんぶん大賞受賞の臨床心理士・東畑 開人さんの『なんでも見つかる夜に、こころだけが見つからない』は、新感覚の"読むセラピー"といわれるだけあり、従来の自己啓発やお悩み解決本とは経路の違う内容です。

好みは分かれるスタイルかもしれませんが、よくある一問一答式のお悩み解決ジャンルの書籍と異なる切り口で、登場人物のいずれかに共感することもあるかもしれません。
なんとなくスッキリしないモヤモヤ感を抱える日には、お気に入りの入浴剤とともにバスタイムのおともによいかもしれません。

百年厨房

表紙に魅かれて手に取ったのは村崎なぎこさんの『百年厨房』。
毎回思わず手を伸ばしてしまう「日本おいしい小説大賞」大賞を受賞した作品です。
下地となった作品の構想から何と16年の歳月を経て、世に出た作品なのだとか。


村崎なぎこさんは「1000円で楽しめるグルメ」を求めて、47都道府県踏破終了した経験をお持ちのようで、さらりと作中の郷土料理や大正グルメを読み手に情景が浮かぶように紹介なさる手腕が素敵。
特に冷やしコーヒーは、紅茶派の私も飲んでみたくなるような印象的な描写でした。
武士飯も簡単そうですが、ひと手間かけた工程が興味深く、一度試してみたくなるメニュー。

以前ブログを拝見した際にも、チーズ好きを「チーズびよんを愛する私」という言葉のチョイスが絶妙で可愛いなと感じました。
美味しそうなものを実際にいただく時間はもちろん満たされますが、おいしい小説は味覚とはまた異なる感覚にも刺激を与えてくれます。
少し不思議なおいしい小説で、ひきこもりの休日が楽しい時間に変わるかもしれません。


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