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フィアットに乗って

暇な瞬間な人生の中でいくらでもあるけれど、どこかもったいない暇な時間というものがある。それは長い旅行中に非日常にいるはずなのに日常に近い過ごし方をしている時や、気力はあるけど素敵なことが思いついていない時など、不完全燃焼感を感じている時である。
そして、そんな時にアイデアが降りてくると、持て余していた暇な時間が瞬く間に千載一遇のチャンスに成り代わる。

家族で連れてこられたギリシャ旅行、もう何日サントリーニ島にいるのだろうか。マンスリーマンションを借りていたので、文句は何もないけれど海と夕陽しかないこの島で一ヶ月近く過ごすのは時間を持て余してしまう。
人間というものは、置かれた環境の上にあぐらをかいてしまう生き物なのだ。誰もが羨む島の中で暇だなあと思っているのだから。

そんなときに、そういえば一度でいいから海外で運転してみたかったなと思い出した。そうすると、芋づる式に外車を運転してみたいという関連するアイデアも自分の奥底から引っ張り出すことが出来た。
素晴らしいことにサントリーニ島はいつだって晴れていてドライブ日和なので、フィアットを借りて運転することにした。

サントリーニ島は観光の島である一方で、そこまで大きくないので交通網は発達していない。タクシーもあまり走っていないし、バスは本数が少ない。
そしてヨーロッパ人が調子に乗ってノーヘルでバギーを乗り回しているので、町全体がマリオカートのようになっている。
そんな環境だったので自分で車を運転するなんて夢にも思ったことがなかったけれど、やってみればそこまで大変なことではなかった。
不慣れな左ハンドルと右側走行をしていると教習所時代を思い出したが、それなりに街に迷惑をかけることなく運転が出来た。運転スキルは世界共通だ。念のため国際免許を取っておいてよかった。

ひとたび車に乗ると、サントリーニ島の海と夕陽以外の面を知ることになる。最寄り駅のいつもの通りを一本入ると、見たことがない店、そしてその店の中に知らない世界が広がっているような感覚だった。
ワイナリーはほぼ展望台のように島中が見渡せたし、レッドビーチは赤いというより紅の色だと思った。ただレッドビーチはすごく狭かったので遠くから見るに限る。ここが目的地ではなく、車の寄り道だったことで楽しめた場所かもしれない。

そんな中で、殊更気に入ったのはメガロチョリという小さな街だった。ロータリーを中心に少しだけ店があって、昼から酒を飲んでいる人が少しだけいる。坂を上っていく一本道がメインの通りなのか、三軒に一軒くらいの割合で店が開いている。きっとサントリーニで住むならこの街なのだろうと直感した。

そして、特にどの店にも入らないまま坂道を登っていくと、坂の上から馬に乗った人が下って来た。フィラの港と街を繋ぐポニーのような商業的な香りは一切せず、メガロチョリという街に馴染んていた。

残りの期間はメガロチョリで馬に乗って過ごすのもいいかもしれない。
いいアイデアは、さらにいいアイデアや新しい世界を生んでくれる。

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Haru
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