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スペイン語、ポルトガル語、フランス語にみる「過去形」の違い

母語話者および学習者が多いことから、比較的「メジャーな」言語として知られているスペイン語、フランス語、ポルトガル語の3言語。いずれもラテン語から派生したものであることから、文法構造や語形などをはじめとした様々な面で共通点が多くみられる。ここで取り上げる、日本語で「過去形」と名の付いている形もまた、お互いに比較的似ていると言っていいだろう。しかし、単純に名前が似ているからと言って、その使い方まで全く同じであるというわけでは必ずしもない。

*それぞれの呼称についてはいくつか異なるものが存在しますが、ここでは全て「TUFS言語モジュール」の表記に従っています。また、以下に示す例文及び説明もこちらから引用、または参照しています。

スペイン語

点過去"pretérito indefinido"

その長さにかかわらず、過去の「完結した」出来事を表すのがスペイン語の「点過去」である。

Estudié español cuatro años en la universidad.
(私は大学で4年間スペイン語を勉強した.)

線過去 "pretérito imperfecto"

一方、線過去は過去のある時点における状態や習慣などを表す。下の例文では、「誰もいなかった」という状態が線過去(había)で示されている。

Cuando entré en el aula, no había nadie.
(私が教室に入ったときには,誰もいなかった)

点過去との最大の違いは、「完了」しているか「未完了」であるかという点。上の例文において、「入った」が点過去(entré)で示されているのはそのためである。

ポルトガル語

完了過去 "pretérito perfeito simples"

ポルトガル語の完了過去は、「発話時点より前に起きた事象を,現在に視点を置いて,完了したものとして示す時制」である。

Um dia, acidentalmente, na rua, voltei a encontrar o Álvaro.
(ある日,たまたま,私は道でアルバロに再び出会った)

半過去(不完全過去)“pretérito imperfeito"

不完全過去は、「過去のある事象を展開中の一局面でとらえて表現する」もの。下の例文では、「行かなかった」が完了過去(não fui)で表されているのに対し、「行かないつもりだった」は不完全過去(Pensava em não ir)で示されている。

Pensava em não ir à tropa, e não fui.
(私は軍隊に行かないつもりだったし,実際に行かなかった)

フランス語

複合過去 "Passé composé"

フランス語の複合過去形は、スペイン語の点過去やポルトガル語の完了過去と作り方がやや異なり、「avoir + 分詞」もしくは「 être+分詞」で表される(どちらになるのかは動詞の種類によって決まる)。

この形では、過去における事態の完了が示される。

- Qu'est-ce que tu as mangé ce matin ?
(今朝は何を食べましたか?)

また、「現在における結果」を示す用法もある。これは、今の時点から見て過去にどうだったかを表すもので、「結果どうなっているか」の方により重点が置かれる。英語の現在完了形にも似たような使い方があるため、比較的理解しやすいと言えるかもしれない。

- Non, ça va : j'ai déjà pris ma douche.
(いいえ、大丈夫です。もうシャワーを浴びましたので)

半過去 "Passé imparfait"

半過去形は、「未完了の行為」や「状態」を表すのに用いられる。このケースにおいては、「出かけようとしている」という行為が半過去形(allais)で表されている。逆に、「電話をかけてきた」は「すでに完了している行為」であるため、複合過去(a téléphoné)で表されている。

J'allais sortir, lorsqu'il m'a téléphoné.
(出かけようとしていると、彼が電話をかけてきた)

それぞれの比較(対照)

上記の例文では複合過去形が「今朝」という語と共に使われているが、これはスペイン語の点過去には無い用法だ。スペイン語においてこのようなケースで使われる形は「現在完了形」であり、点過去ではない。スペイン語では「現在を含めた期間内(今日、今世紀など)」をあらわす際は現在完了形を使用することが原則で、その形は「haber+分詞」となる。

Esta mañana he ido al dentista. (今朝歯医者に行ってきた)

スペイン語とポルトガル語における完了過去と点過去もまた、必ずしも一致するわけではない。前段で見た複合過去の用法はスペイン語における点過去にはないが、ポルトガル語の完了過去には存在するようだ。

Fui ao dentista esta manhã.(今朝歯医者に行ってきた:ポルトガル語)

また、ブラジルのポルトガル語における完了過去は、スペイン語における現在完了(pretérito perfecto)と点過去の両方の用法を含んでいる(Cagnoni 2010)。さらに言えば、スペイン語自体もアメリカ地域で話されているもの、スペインで話されているものとの間で過去形の用法における比較的大きな地域差があり、一概に明確な区別をすることはできない。

ただ、完了アスペクトを示す用法が主である(ある行為・現象の始まりから終わりまでを一かたまりとして表している)という点は、スペイン語の点過去、ポルトガル語の完了過去、フランス語の複合過去の全てに共通している。逆に、pretérito imperfecto(線過去)、pretérito imperfeito(半過去)、Passé imparfait(半過去)はいずれもある時点での状態や継続している行為などを示す(未完了アスペクト)。

*他にも過去時制を表す形はあるものの、ここでは日本語で「完了」形と呼ばれているものについては扱っていません(あくまで「過去」形と一般に呼ばれているものの中での比較を行っています)。

終わりに

このテーマに関してきちんとした答えを出すには、論文レベルの分量とエネルギーが必要になると思われる。そのため、本文中ではあくまで入り口としての簡単な紹介にとどめさせてもらった。自分もまだまだ学んでいる途中であり、より正確な比較及び使い分けができるよう、これからも努力していきたい。

その他、間違い等ありましたらぜひ教えていただきたいです!

参考

TUFS言語モジュール(東京外国語大学21世紀COEプログラム「言語運用を基盤とする言語情報学拠点」)

高垣敏博 他 『スペイン語学概論、くろしお出版、2015, p.61-63

Paula Cristina Cagnon "Los pretéritos perfecto e indefinido en español y su correspondencia con el uso de los pretéritos en portugués", 2010. 7




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