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春は、ほろ苦い。~吉本ばなな「キッチン」~

3月5日は、二十四節気の「啓蟄(けいちつ)」。
大地が温まり、冬眠をしていた地中の虫が春の陽気に誘われて穴から出てくる頃とされている。

気が付けばもう3月。春が近づいている。

旬のものをたべたい、と思った。
いつもの通りスマホで調べると、3月に旬の物は、ニラ、菜の花、フキノトウ、カブなどが出てきた。

季節の変わり目で、心身の体調が崩れやすいときに、この時期旬の苦いもの、香りの強いものは心を落ち着かせてくれるのだという。

言われてみれば、昨日から少し調子が悪かった。

季節性のものだと知って、少しほっとした。
昨日買っていた春菊を夕飯に使うことにしよう。

今日は外に出られず、気分もなんだか落ち着かなかった。
部屋着のまま、何とか台所へと向かう。

ぼんやりとした頭のまま、春菊をそのまま茹でた。
ぐつぐつと湯気のあがる鍋からはすき焼きを思い出す、少し苦い香り。


昨年は私にとっても冬眠の一年だった。

楽しいことは何もなかった気がする。
生産的なことも、有意義なことも何もできなかった。

全力で頑張ることだけが自分の取り柄だと思っていたのに、
それすらもなくなったような気がしていた。

けれど、自分自身のことで発見もあった。

誰といる自分が好きなのか、
自分は何を大事にしたいのか。
あまり考えたこともなかったことにじっくりと向き合った。

その中で傷つくこともあったけれど、自分で自分を好きになっていくために、自分を受け入れていくためには必要な痛みだったのだと思う。

吉本ばななの「キッチン」にこんな言葉がある。

「人生は本当にいっぺん絶望しないと、
 そこで本当に捨てられないのは自分のどこなのかをわかんないと、
 本当に楽しいことがなにかわかんないうちに
 おっきくなっちゃうと思うの」

「キッチン」より

休職してよかったとは思わない。
けれども、自分が自分として生きていくために、必要な時間だったのかもしれない。


水にさらした春菊を、一口大に切り、梅に和える。
夕飯にはまだ早いが、一口食べてみる。

鼻を抜ける、春菊の苦みと梅の酸味。
ぼんやりとしていた頭が覚めるようだった。

この苦みは、冬の間にため込まれた老廃物を排出するのに一役買っているという。

春を告げるのは、満開の桜や、温かな陽気だけではないようだ。

夕飯のおかずを作る力がわいてきた。


冬眠してても、時にはだらけていてもいい。

このほろ苦さから、また春は始まっていく。

















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