Meviyが日本の製造業に与える影響
この記事を見ているという事は、既にMeviyのサービスはご存じかと思われますので内容の説明は省きます。
Meviyは日本の製造業にどのような影響をもたらすのか。
私自身はライトユーザーですが調達にも携わっていたので、通常の加工工場に頼んだ場合との比較も盛り込みつつ考えを綴ります。
(あくまで個人的な感想です)
1.Meviyを使うメリット
・製造プロセスの効率化
meviyのプラットフォームで製造を一元管理する事により、部品調達が簡素化&高速化されます。部品の検索、比較も容易になり、在庫管理もスムーズに行えます。
製造プロセスが効率化されるという事は設計開発のサイクルが短縮されるということでもあり、生産計画も最適化されるでしょう。(たぶん)
・品質の保証
MISUMI側で工場の品質管理を行っているので、こちらが多数の工場の品質のバラツキに危惧する必要がありません。
自社検査の必要性については何とも言えませんが、私はまだ不具合品に遭遇しておりません。(母数が少ないのであまり参考になりませんが)
・時間の削減
価格比較は後述しますが、工数削減や作業効率アップにより時間のコストは大幅に削減できると思われます。
とにかく見積が一瞬でできるのは大きなメリットです。
材質比較や表面処理の有無の価格比較も一瞬でできるのはかなり有用に感じました。
自分が見積する側の時に「SUSとアルミの場合で見積してください」と言われると正直面倒ですからね、、笑(^~^)
・設計のセオリーが学べる
meviyで見積をする際、「穴は端面から○mm離してください」「この形状の場合、曲げの型が干渉します」といったtipsを貰えます。
無茶な設計をしていた場合、不可理由と改善策を具体的に教えてくれるので自身の学びにもなります。
ただし、meviyで対応不可=物理的に加工できないという訳ではないので注意が必要です。他の加工屋さんで普通に作ってもらえるパターンはいくらでもあります。
あくまで、meviy側も品質を一定に保つためにリスクヘッジをかけているという事を念頭に置きましょう。
2.Meviyを使うデメリット
デメリットと言ってますが、その限りではありません。
不安視される部分やリスク面についても話しております。
・コスト面の問題と3DCAD導入の必要性
meviy自体の利用は現時点で無料ですが、とにかく3DCADがなければ始まりません。3DCADがない会社はソフト導入コストや学習コストが大きなハードルとなるでしょう。(meviy自体のデメリットではないが)
私自身、catia v5, solid works, Fusion360を触った事がありますが、meviyで発注する分にはFusion360があれば何の問題もありません。そもそも3Dを使った事がないような会社がいきなり数百~数千万のコストをかけて上位CADを導入したところで使いこなせるわけがないので、安価なFusion360を数ライセンス導入して試してみればいいのです。
Fusionは大規模アセンブリはできませんが、標準機能で一般的な部品の99%はモデリングできます。(個人的な感想)
価格は年間7万ぽっちです。これを"投資"ではなく"コスト"としてしか見れず導入を渋るようでしたら一生3DCADなんて導入できません。
1年間運用してみてから、辞めるか、継続するか、上位CADに乗り換えるか考えればいいのです。
パソコンに慣れている人だったら1ヵ月で「既存部品のモデリング→発注」ぐらいできるようになります。
・1社依存→サービス終了のリスク
1社に依存するという事は、同社のサービスが終了した時のリスクも考えなければなりません。ミスミは潤沢な資本もある世界的グループであり、会社自体が傾くという事は非常に考えにくいです。しかし"サービス"が終了してしまうという事はもちろんあり得ます。
(工場にしろ、1社に依存すると倒産した時のリスクはあるんですが)
実際にラピッドプロトタイピング(RP)については、業務提携していたプロトラブズが価格納期問題により日本から撤退し、急にサービスを終了しています。
(別会社の話ではありますがcaddiのAI LabでK氏が脱退した記事を見た時も、自動見積というシステム自体に一抹の不安を覚えました)
これがmeviyの調達サイクルにおいても発生しないとは言い切れません。
協力工場が価格納期に耐えきれずサービスの提供が困難になるという不安は拭いきれないです。
逆に、この供給サイクルを安定させるには駿河生産Pと子会社の海外工場の設備を拡大する他ないと思います。(そうなればますますMISUMI一強になってしまい別の問題が発生する)
・meviyとそれ以外で発注管理が2重に?
meviyを使う事で一元管理が可能に~と言ったものの、当然meviy以外に発注するケースはいくらでもあると思います。それらの管理方法をどうするのか、結局の所は"meviyとそれ以外"で2パターンの管理方法を運用しなければならないのではないかという問題があります。
・自動見積の限界
いくらAIが進化しようと、アルゴリズムを調整しようと、自動見積には限界があると考えています。簡単な部品であれば自動見積の範疇でカバーできるものの、綿密な打ち合わせを要する部品まで自動で見積りするのは不可能です。
(専用治具は必要か、熱処理の歪みを考慮できるか、形状差によって発生するめっき膜厚を考慮できるか、など)
当然、こういったものは"担当者見積"となるわけですが、担当者見積を使うぐらいなら従来の加工工場に見積した方が話も早いですし、品質や加工方法も定まっているので安心できるのです。
また、ちょっとした設変でも急激に値段が上がる場合もあります(その逆もしかり)
「上手な設計でコストを削減する」なのか「アルゴリズムの隙をついて安くなるパターンを探す」なのか、実質的にわからないです。
3.中小工場に直接頼んだ場合との比較
・価格面
価格はもちろん種類や形状によって異なりますし、振れ幅も大きいです。
以下、通常の国内工場と比較した場合
○板金で0.8倍~1.1倍程度
○角、丸物で1.3~2倍程度
まあ国内と言っても千差万別なのでなんとも言えませんが。
(関西や東北地方の町工場と比べると高いものの、他と比べればそんなに変わらない、といったような)
ただ普段から海外工場を使っているところからすれば、角・丸物は圧倒的に高いと感じるでしょう。
板金はQCD全て高い水準で、使用メリットが一番あると思います。
塗装もしてくれますし、溶接にも今後対応するとの事ですし。
海外使用勢も板金は国内の方がコストメリット大きいですし取り込める気がします。
仮にmeviyがこれ以上安くなってしまうと価格競争も激化して全員共倒れになりそうなのでこのぐらいの金額が丁度いい気もしますね。
※これはあくまで"価格だけ"の比較ですので、機会費用や労働時間の短縮などを考慮すれば、実際のコストメリットはもっと大きいでしょう。
・見積スピード
当然ですが、meviyの方が圧倒的に早いですね。条件設定に多少時間はかかりますが、メールやFAXで工場に見積を送ってから返信に1日~数日待つのに比べると革新的です。
ただ、現状は"対応不可"や"担当者見積"になるパターンも多いので、あくまでシンプルな加工に限りますね。
複雑な加工ですと、対応できる形への設変や条件調整などで余計に時間がかかってしまう場合もあります。
ただ、見積もりで重要なのはスピードだけではなく「擦り合わせ力」や「代替案の有無」などでもあるので、何でもかんでも自動見積に依頼しとけばいいってもんでもないと思います。
・心理的ハードル
工場に見積を送る場合、「何度も設変すると申し訳ない」「受注する可能性が低いので申し訳ない」「どうしても相見積もりしないといけないので申し訳ない」といった心理が働く事があります。こういった心理的なハードルや躊躇から逃れる事ができます( )
下手な設計でも「作れるわけねぇだろ!」と怒鳴られる事もないですしね。
私も無知で職人さんに怒られた事は何度もあります。トホホ
・カバーしている領域の違い
現段階、ある程度棲み分けは出来ているのかと思います。
板金部品は対応可能領域が結構被っていますが、その他機械加工部品についてはまだまだmeviy側でカバーできない部品が多いと感じます。
あくまでシンプルな形状、限られた材質の範囲でやりくりする程度にとどまっている感じは否めないです。
複雑形状、特殊形状、工程が複数に渡るもの(付加価値の高いもの)などは加工工場に直接頼んで、シンプルな部品はmeviyに頼むといった使い方が適している気がします。
なので、私自身は町工場の脅威になるとはそこまで考えていません。
4.今後の予測
順当にいけば今後も"持ち前のスピード感"でサービスを拡大して右肩上がりになっていくと予想されます。
一方でmeviyが拡大していけば、半端な専門商社も不要になっていくのではないかと思います。
つまり従来の多重下請け構造ではなく、A社→MISUMI→加工工場といったシンプルで無駄のない下請け構造が増えていく可能性があります。
(一強になるのも怖いですけど)
半端な商社が消滅すれば不要なマージンも省かれ、町工場も余計な相見積もりから解放され付加価値の高い加工に集中できるのではないでしょうか。
そういった意味ではmeviyの台頭も中小工場にとっては悪い話ではなく、むしろwin-winな部分もあるはずです。