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【小説】高嶺ときみ【4】

小さい頃からサッカーが好きだった。
暇があればボールで遊んでいたし
学校や勉強、友達よりと遊ぶよりも
サッカーを
優先してしまう程大好きだった。

たくさん練習して試合に出て
家族や友達が見に来てくれる中
ゴールを決められた瞬間は
今でも覚えている。

でも、成長するにつれて
【好きなこと】に苦しめられる時が来る
今までよりも上にいくためには
辛いことを乗り越えなければいけない。
頑張っても頑張っても
報われない日々がどんどん多くなる
プレッシャーもその分グンッと増える
俺はそれには耐えられなかった
好きなものを嫌いになるのが怖かった。

だから、高校生になったら
サッカーはしないと決めた。
授業の時だけワイワイとできるなら
それでよかった。

1年の入学当初から
サッカー部の顧問には誘われ続けている
1年経った今も、だ。
しつこいなあと思うが仕方ない。
小中でかなり良い成績を
残してしまったばかりにこんなことに
なっている。
あの時の自分を恨もうとも思うが
あの頃は必死に頑張ったのも覚えている
無下にはできない、そう思っている

1年の時、前の席に座ったのは
女子だった。
髪は黒のセミロングで眼鏡をかけている。
制服の袖から見える腕は
白くほっそりとしていて、華奢だ。
「ねえ、羽島さん。」
急に話しかけられて驚いたのが
身体をビクッとさせ、こちらを向いた
「な、なに?え、えっと、羽場くん?」
「侑斗でいいよ、これからよろしくね
俺、結構ガンガン話しかけていくから。」
羽島は動揺しながらも、小さな声で
よろしく・・と言って前を向き直した

地味な子だなあ。そう思った
高校生にもなったのに
髪の毛を明るくすることもなく
化粧も派手ではない。
制服はスカートを折ったり
可愛いカーディガンを着る女子も多い中、
基本のままだ。
でも、髪の毛は風に揺れると静かになびき
眼鏡の奥の瞳は凛と透き通っていて綺麗だった

「ゆうとォ〜、帰りカラオケ行かない??」

春妃はロッカーに寄りかかりながら
話しかけてくる。
入学して半年も経つと友達も増え
葉山は、よく遊ぶ友達の1人だ。
羽島の幼馴染らしいが、
タイプが全然違う。
春妃は、明るい茶髪で巻いているのか
髪は動くたびに肩の上でふわふわと揺れる
目はぱっちり二重で目の上が常に
キラキラとしている。
俺だけではなく、男女共に友達が多く
どこでも生きていけるタイプ、だと思う。

「いいよ、他誰か誘ってんの?」
「私と凛と侑斗だけだから、
侑斗誰か適当に男子誘っといて〜よろ〜!」
そう言い残して春妃はクラスから
トコトコと早足で出ていく。
おいおい・・
相変わらず人任せなやつだな・・
春妃の行動にはいつも振り回される。
まあ、なんか適当に誘うか
春妃が来るなら男子は誰でも来るしな。
と思いながらふと気がつく
そういえば、今日は羽島がくるのか、珍しいな
羽島はバイトをしているので、
なかなか一緒に出かけることはない
どんな歌、歌うんだろ。
そんなことを気にしながら
友達を誘いに教室を出た。


「でさあ、きよくんったら
まーたゲームすんの!ありえなくない???」
春妃はぶうぶう言いながら
彼氏の愚痴を都へ話している。
授業が終わり今日のメンバーが
1つのクラスへと集まってくる間には
いつも春妃が羽島へと近況報告会をするのだ。
「いつもそうじゃん、もう別れたら??」
羽島はケータイをいじりながら
はいはい。と適当に返事をしていた。
「ね〜え〜!!ちゃんと聞いてるのォ??!」
凛ってばあ〜!と言いながら
春妃は足をバタバタさせている。
いっつも同じような相談ばっかりしてんなあ、と
たまに、俺にも来る流れ弾に適当な相槌を打つ
女子ってこんなもんか??とも思うが
もう高校生だし、こう言う相談が増えるのも
当たり前なのだろう。
彼女かあ・・。
居たら楽しいだろうなあ。と感じる時はあるが
絶対に欲しい訳では無い
今は今で楽しいので、これで充分だ。
やがて、他のクラスから南川泰吏がやってきた
南川はサッカー部に入っていて
俺の幼なじみだ。
こいつも、男女問わず人気があり
誰とでも仲良くできるタイプなので、
こういう遊びにはよく誘う。
「あ!南川くんだ〜、おはよ〜」
「おはよう〜っていうかもう
放課後だけどな・・。ていうか、
また彼氏に弄ばれてんの?飽きねえなあ。」
呆れたように笑いながら俺の隣に座る
春妃は、違うもん〜!!!もぉ〜!!!!
と頬を膨らませている。
「はいはい、また後で話は聞いてあげる。
南川君も来たし、そろそろ行く?」
羽島はそう言って席を立った。
「カラオケの前にさ〜、MION寄らない??
今日は、凛もいるし、
お昼ご飯食べてプリとか撮ろうよ〜!」
MIONというのは、この学校の近くにある
大型のショッピングセンターだ。
この辺には高校が多いこともあり
放課後にもなると沢山の学生で溢れている。
フードコートや服屋、映画館などもあるので、
高校生は重宝するのだろう。
そして、もう春妃の自由さには慣れているので、
はいはい。と生返事をしながら教室を出る

教室を出ると窓から入る風が
少し熱を帯びていて
もうすぐ夏が来ることを感じさせる。

あっという間に6月か・・。
そんなことを思いながら
学校を出た。

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