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ミケランジェロの回顧 ~フィレンツェ革命編~第一話【創作大賞2024 応募作品】

【あらすじ】
1527-1529年のフィレンツェ共和国。
1527年5月「ローマ劫掠」の事件を機に、フィレンツェでは実質的支配者、メディチ家出身の教皇の権力が衰退したため、暴動が起き、メディチ家が追放される。ミケランジェロは世話になった教皇やメディチ家を裏切る形で新政府側に付く。
ローマ劫掠を経験した友人セバスティアーノからの手紙で、ミケランジェロは皇帝軍によって多くの殺戮が行われ壊滅状態になったローマの現状を知る。
そんな最中、弟のブオナロートと甥を相次いで失う。
そして、フィレンツェ政府打倒のため、結託した教皇と皇帝の軍が攻めて来ることを、恐れたミケランジェロが取った行動とは…。

【補足】
〔主な登場人物(1527年現在)〕
ミケランジェロ・ブオナローティ(52歳)……フィレンツェ共和国の彫刻家、画家、建築家。名声を得、メディチ家出身の教皇から、数々の作品依頼を受けている。
フィレンツェの実質的支配者のメディチ家がパトロンになっているが、民主主義、共和制を支持している。
女性には興味がなくて、男性に恋したこともある。頑固な性格だが、弟子など目下で慕って来る者には優しい。
5人兄弟の次男。

ブオナロート・ブオナローティ(50歳)……ミケランジェロのすぐ下の弟。一番仲が良い。羊毛商を営み、プリオーレ職(短期間の議員)の経験あり。
妻子がいて、温厚で人当たりが良い性格だが、未だにミケランジェロの金銭援助に頼っている弟たちの一人。

(ジョバンニ・)バティスタ・デラ・パッラ(47歳)……ミケランジェロの友人で、反メディチ派を支持する共和主義者。
職業は美術品の仲買人で、フランス王に職人を派遣するエージェントもしている。

アントニオ・ミーニ(19歳)……ミケランジェロの弟子。少し美青年。実力は伴わないが、フランスに渡って王様がパトロンになってくれることが夢。

セバスティアーノ・ルチアーニ(43歳)……ベネチア出身の画家で4年前修道士になった。人当たりが良く優しい性格で、パトロンの教皇からも慕われている。
小柄な丸顔で美男ではない。板絵やキャンパスに描く肖像画が得意で、フレスコ画など創作を伴う大きな仕事は苦手。故ラファエロ・サンツィオのライバル。
ミケランジェロを崇拝し、慕っている。
のちのセバスティアーノ・デル・ピオンボ。

ベンヴェヌート・チェッリーニ(26歳)……フィレンツェ出身の金細工師、彫刻家。職人として腕も良く、同郷なので教皇からも気に入られていて、Sacco di Roma①サッコ・ディ・ローマの際は砲兵として活躍。
しかし荒っぽい性格で、傷害沙汰で郷里のフィレンツェを追われていた。
大柄の筋肉質だが、意外にも笛の演奏の教育を幼少期に父親から受け、演奏家でもある。
ミケランジェロの崇拝者。好色でバイセクシャル。

ピロート(37歳)……本名ジョバンニ・ディ・バルダッサーレ。ミケランジェロの友人で、金細工師。ミケランジェロに依頼され、作品を制作したこともある。ベンヴェヌートとも友人。

(表記注)
T……テロップ
M……モノローグ
N……ナレーション

【本編】

N   ――1527年5月6日 ローマ教皇と対立していた神聖ローマ帝国の皇帝による軍が、ローマ市内に侵攻し、一夜にして陥落する。
   大勢の皇帝軍の兵士たちのイメージ。

N   この時、給金も貰えず、飢餓状態にまで陥っていた皇帝軍の兵士たちが、無防備な市民や聖職者に襲いかかり、殺傷、破壊、略奪、強姦の限りを尽くす。
   流血と、剣を振り上げる兵士、マントをかぶり逃げ惑う人々、子どもを抱えひざまずく母親のイメージ。

N   そして、メディチ家出身のローマ教皇は、聖天使サンタンジェロ城に監禁されることとなった。
   頭を垂れ、座り込む教皇のシルエット。

N   ――のちに「Sacco di Romaサッコ・ディ・ローマ(ローマ劫掠)」と名付けられた事件である。
   火災、落書きされた宗教画、壊された彫刻、破られた多くの書物のイメージ。

〇フィレンツェの街並み
T  フィレンツェ共和国 首都フィレンツェ
〇ミケランジェロの工房
仕掛の彫刻が数個並べられている。
ミケランジェロの風貌は短髪黒髪に顔に少しの皴。髭は無し。当時の標準服で、黒長袖、膝までのチュニックを着、ベルトを締めている。アントニオ・ミーニ。帽子をかぶり、肩までの髪(ベタ無し)。少し美青年。腿までのチュニックで、ウエストをベルトで締めている。
 
震える手でビラを持ち、目を見開いて読むミケランジェロ。頬に一筋の汗。
傍で立ちすくむアントニオ。
アントニオ  「ローマで大変なことに…」
      「教皇様やセバスティアーノさんは無事でしょうか?」

アントニオ   「…この前のダヴィデの被害どころじゃなくなりますね…」
ミケランジェロ「……」不安な表情。
N    ――これより少し遡る4月下旬、事実上メディチ家の支配下にあったフィレンツェで、反メディチ派の暴動が勃発し――

N    鎮圧されたが、市庁舎の窓から投げられた長椅子が、入口正面に置かれていたミケランジェロの「ダヴィデ像」の腕に当たり、破損する。③
   左腕が折れたダヴィデ像と四方に散る腕のイメージ。

〇路上
人々がデモ行進し、叫んでいる。
市民   「メディチ家を追い出せ!」
    「フィレンツェから出てけ!」

デモの声を聞きながら、蒼い顔のミケランジェロ
ミケランジェロ 「……」

〇ミケランジェロの自宅 
居間
テーブルに向かいミケランジェロとブオナロートが並んで座り、反対側にバティスタと20代の(反メディチ)市民2人が座っている。ブオナロートは穏やかな風貌に耳までの髪。皆、服の形は前述のミケランジェロに準ずる。バディスタは淵のついた帽子をかぶっている。
バティスタ 「——あなた方にも是非、我々に協力していただきたいのです」

ミケランジェロ「……」
ブオナロート 「…わたしと兄はメディチ家に、ずっと世話になっていて。それを裏切るのは…」

バティスタ「おっしゃることはわかります、しかしそれとこれとは別だ」

酒を飲んでバカ騒ぎするメディチ家の放蕩息子2人と、教育係の枢機卿のシルエットのイメージと、熱心に話す姿の市民1。
市民1  「メディチ家の横暴ぶりは目に余るものでした――」
    「メディチ家出身の教皇様を盾に、議会を無視した傲慢の数々——」
    「戦争によるツケ、理不尽な納税」

祈る教皇、武装兵のシルエットのイメージと、激しく話す市民2。
市民2  「教皇様が、捕らえられた今こそ、我が国フィレンツェ本来の姿民主主義に戻すチャンスです!」
    「そのためなら我々は、いかなる犠牲を伴っても戦います!」

ミケランジェロ「……」目を見開いてゴクっと唾をのむ。頬に汗。

ちらっとヴオナロートを見るバティスタ。
バティスタ 「あとここだけの話、フィリッポ・ストロッツィ殿にもご協力いただけることになりました」
ブオナロート「……!」
  
(回想)
机をドンと握りこぶしでたたく市民の手。
市民「あなた様もこれまで色々、メディチ家に異議を唱えて来たでしょう!」

フィリッポ④「わ、わかった」手のひらを前にし、戸惑う。

フィリッポ 「あのせがれどもには、確かに私も見かねていた…」
高慢そうに笑うメディチ家当主の息子アレッサンドロと、イッポリート⑤(表情なし)のイメージ。

フィリッポ 「だが知っての通り私の妻はメディチ家の人間だし、教皇様には恩義もあるし、あいつらも親族だ」頬に汗。
      「どうかまだ、内密に…あと、殺したりしないでくれよ!」
(回想終わり)

バティスタ 「…ですからあなた方も、個人的な恩義より、国の行く末を優先してもらえませんか」

      
(時間経過)
ミケランジェロの家の前のギベリーナ通りを歩く人の姿。 夕刻の情景。
〇居間
向かい合って座るミケランジェロとブオナロート。
ブオナロート 「…どうする?」
ミケランジェロ「……」

ミケランジェロ「…お前はストロッツイ家で働いてたし、世話になったよな」
ブオナロート 「昔のことだ。彼らの目的は兄貴だよ。その話をしたのも、きっと俺を説得役にしようとして…」

ミケランジェロ「お前だって行政高官プリオーレ職まで務めたことあるから、呼ばれたんだよ。どうしたい?」

ブオナロート 「…お、俺は兄貴に従うよ。プリオーレになれたのも、前の教皇様から爵位をもらえたのも、全部兄貴のおかげだし」頬に一筋の汗。

「ハーッ」とため息をついてのけ反るミケランジェロ。
ブオナロート 「ごめん、こんなことしか言えない頼りない弟で」

ブオナロート 「……兄さんは今、教皇様からメディチ家礼拝堂や、図書館建築の大きな仕事を受けてて。…当然、給料もたくさん貰ってるんだよね」
ラウレンツィアーナ(サン・ロレンツォ)図書館のドアのスケッチ(ミケランジェロ作)と、メディチ家礼拝堂に置く、仕掛の彫刻のイメージ。

ブオナロート 「あと、墓碑の訴訟のことも、教皇様が兄さん側に付いてくれて、保留にしてもらってるんだろ」⑥
故教皇の墓碑に祀られるミケランジェロ作「モーゼ」のイメージ。

ミケランジェロ「ああ。だがローマがあんなことになった以上、どれも、どうなるかわからんよ」立ち上がりながら言う。

ブオナロート 「…じゃやっぱり、この国の行先が優先?バティスタたちに協力するの?」笑顔で前のめり。

ミケランジェロ「何でそう思う?」

ブオナロート 「さっき会ったあの2人見て…。昔の兄貴を思い出したからさ」
熱心に話す2人の市民の姿の回想。

ミケランジェロ「俺?全然違うだろ」
ヴオナロート 「立場は違うけど…」

ブオナロート 「必死で、命がけで取り組んでる姿が」
紅潮して微笑むブオナロートを、口をへの字にして見るミケランジェロ。

ブオナロート 「俺にはとても真似できないよ。彼らと同じくらいの年に、兄さんはあの巨人のダヴィデを完成させたろ。そのあとは身体や目を悪くするまで、ローマで天井画を描いたっていうし、危険な大理石の発掘に何年もかけたり」
ローマのシスティーナ礼拝堂天井画と、ダヴィデのイメージ。

目が合う2人。
ブオナロート 「共感しないか?彼らと」

ミケランジェロ 「…別に。考えもしなかったよ」目をそらせる様。

ミケランジェロ「お前だってもっと自信を持て。お前の経歴はお前の実力なんだよ。俺の弟だってことも含めて」
       「それにお前だけ結婚して、子供も3人いるんだし」
目をそらして話すミケランジェロと、紅潮して聞くブオナロート。

ブオナロート 「…ありがとう」微笑。

(時間経過)
グラスのワインを口にするミケランジェロに話すブオナロート。
ブオナロート 「ところでごめん…せっかく融資してくれたのに、店を閉めることになって」
ミケランジェロ「ああ、その話もあったな。前に話したが、これからは俺名義の農場の経営をたのんだぞ」
N  当然のように、次々と金銭的援助を求めて来る父や弟たちに、ミケランジェロは不平を言いながらも応じていた――

(ここからコメディタッチ)
ブオナロート 「あ、あとさ、そろそろ父さんに会いに来てやってよ」
       「この前カネのことで大ゲンカして…それ以来兄貴は、セッティニアーノうちに来てくれないじゃないか」

(回想)
ロドヴィコ(父) 「お前オレの年金資金を、勝手に自分名義に変えただろッ!💢」
ミケランジェロ 「はぁ!?💢」
(回想終わり)

口をへの字にふてくされるミケランジェロ。

ブオナロート「その前は、兄貴に家追い出されたって、外で騒ぎまくったよね…兄貴が怒るのムリないけどさ」((´Д`)ハァ…)

ミケランジェロ「別に。仕事が忙しくて、セッティニアーノに行くヒマがないだけだっ」

ヴオナロート「来てくれよ~、80過ぎのボケたガンコ親父、オレや弟たちだけじゃ手に負えないんだよ~」(ノД`)シクシク
ミケランジェロ「うっせーな!用が済んだらとっとと帰れ!」
(コメディ終り)

〇ミケランジェロの工房 数日後
鑿と金づちで仕掛の彫刻に向かうミケランジェロ。傍でアントニオは別の大理石を荒堀している様子。

バティスタ登場。胴にだけ防具を付けている。息せき切る様子。
バティスタ 「ミケランジェロ!」

バティスタ 「メディチ家が追放されます!」
驚く表情のミケランジェロとアントニオ。

バティスタ 「ストロッツィ家の手で、これから護送されます」
      「わたしはこれから警備の手伝いに行きますが…」

ミケランジェロ「…俺も行く」

〇メディチ邸
路上で数人の槍を持った兵士。その後ろにたくさんの人が見ている中、
邸宅の出入口から女性や子どもが出て来て、馬車に乗せられる様子。

その中に母親らしき女性に腕を抱えられ、ムスっとした表情のアレッサンドロの姿。少し癖毛の黒短髪。

ミケランジェロが兵士やバティスタと並び、群衆の手前にいる。それに気づくアレッサンドロ。

アレッサンドロ 「ミケランジェロ…」怒ってにらみつける。

アレッサンドロ 「おまえ!俺たちにさんざん世話になっておきながら…!!」怒鳴って腕を振り解き、ミケランジェロに向かっていく。
兵士      「おい、こら!」

兵士とバティスタに腕を抑えられ、引きずられるように後ずさりするアレッサンドロ。鋭い目つき。
アレッサンドロ 「…っ!」
兵士       「こっちへ来るんだ!」

 辛そうな表情のミケランジェロのアップ。頬に汗。
N     ――反メディチ派の運動はやがて革命と称されるようになり
ミケランジェロはそれに協力していくことになる。

フィレンツェ メディチ邸

〇金細工師ピロートの工房
エプロンを付けて作業しているピロート。
T 1527年 秋 金細工師ピロートの工房
ひょっこりベンヴェヌートがやって来た。当時の庶民の服装。薄汚れたチュニック姿で、ショルダーバッグを下げている。

ベンヴェヌート「よお、久しぶりだな!ピロート」
 
ピロート 「ベンヴェヌート!」

ピロート 「お前、ローマにいたんじゃ…生きてたのか!」驚いて駆け寄る。
ベンヴェヌート「あたりめーよ!俺は生きてピンピンしてるどころか、ローマ劫掠サッコ・ディ・ローマの時は、大活躍したんだぞ!」笑いながら踏ん反り返る。


Copilotより 16世紀フィレンツェの金細工師工房のイメージ


〇ミケランジェロの工房
彫刻の作業をしているミケランジェロとアントニオ(エプロン姿)のもとに、ピロートとベンヴェヌートがやってきた。

(コメディタッチ)
ベンヴェヌート 「ミケランジェロ先生!お懐かしい~!」と、涙目で喜ぶ。

口をへの字のミケランジェロと、ぽかんとした顔のアントニオ。
ミケランジェロ 「…?」

(ここからコメディ)
頭を掻くミケランジェロと、眉をしかめるベンヴェヌート。
ミケランジェロ 「えっと…誰だっけ?」
ベンヴェヌート 「そんな、ひどいなあ、先生、俺のこと忘れちまうなんて!」

ベンヴェヌート 「俺の友だちで、歌手だったルイージ・プルチのこと覚えてます?」
口を大きく開けて歌っている美青年のルイージのイメージ。~♪の表記。
ベンヴェヌート 「先生、あいつの追っかけしてて、俺たち3人でよく歌を聴きに行ったじゃないすか!」

目を点にして驚き微笑むアントニオと、赤面するミケランジェロ。
アントニオM 「えっ!?先生がそんな趣味?知らなかった…」
ミケランジェロ「……」

ベンヴェヌート 「…でもあいつ、去年落馬して…そのケガがもとで死んじまいやがった…」目に涙を浮かべて。

ベンヴェヌート 「バカな女に引っ掛かりやがって…オレが忠告したのに…!死んだのはあの女のせいだっ!」腕を目に当てううっと泣く。
ピロート    「……」苦笑。頬に一筋の汗。
ミケランジェロ 「……」呆れ顔。

ミケランジェロ 「で?今日は何の用だ?」ムスっとして。
ベンヴェヌート 「そうそう、俺、ローマから戻ったばかりで…」泣き笑い。
(コメディ終了)

ミケランジェロM「ローマ!?」

ショルダーバッグから封書を取り出すベンヴェヌート。
ベンヴェヌート 「修道士フラセバスティアーノから、手紙を預かったんっすよ」

ミケランジェロ 「!!」
アントニオ   「!!」

ミケランジェロ 「セバスティアーノと会ったのか!?彼は無事なのか?」
ベンヴェヌート 「ええ。サンタンジェロ城で俺は砲兵務めてて。多くの市民が避難して来て、その中にいたんっすが…。」

(ベンヴェヌートの回想)
〇サンタンジェロ城内部 
教皇の間で、緊張気味で直立し、対面する様子の胴衣姿のベンヴェヌート。
多数の兵士や聖職者の中にセバスティアーノの姿。
ベンヴェヌート 「俺、教皇様から腕を買われて、度々召されたんっす。そのお目通りの時、見た顔だったから」

階段に座り込むセバスティアーノに話しかけるベンヴェヌートのイメージ。
ベンヴェヌート 「声かけて色々話したら、俺の尊敬するミケランジェロ先生の親友っていうじゃないですか!」
(回想終わり)

ベンヴェヌート 「今のローマから郵送したって、届くかどうかわからんし、検閲も心配だ。だから信頼する俺にって託されたんっすよ」

ミケランジェロ 「・・・・・」受け取った手紙を眺める。

ピロート    「お前、ローマで大活躍したんだろ。その調子でフィレンツェも頼んだぞ」
ベンヴェヌート 「おうっ!任せとけ!故郷フィレンツェのためなら何でもやってやる!」(胸をたたきながら)

(コメディタッチ)
踏ん反り返って大声のベンヴェヌートと、目を点にしてぽかんとするミケランジェロ、アントニオ、ピロート
ベンヴェヌート 「何しろローマを攻めて来た、皇帝軍の総司令官ブルボンを、銃で打ち取ったのは、俺様なんだからな!!」⑦
3人    「・・・・・・」

呆れ顔のミケランジェロとアントニオ。冷や汗をかいて苦笑するピロート。
ミケランジェロM「ウソ言え」
アントニオM  「ウソ言え」
ピロートM   「また言ってる」

〇路上(時間経過)
ミケランジェロの工房からの帰り道。一人歩くベンヴェヌート。
ほほ笑むアントニオの顔を思い浮かべる赤ら顔のベンヴェヌート。
ベンヴェヌートM 「…あいつ、かわいかったな(オレ好み♥)」

ムスっとした顔のミケランジェロのイメージをバックに頭を掻くベンヴェヌート。
ベンヴェヌートM 「モデルになってくれって言いたかったけど…ミケランジェロの愛弟子に、手出すわけには、いかねーか…」

鼻歌を歌いながら飛び跳ねて歩くベンヴェヌートの後ろ姿。
ベンヴェヌートM 「娼館にでも行くかっ!」♫
(コメディタッチ終了)

〇ミケランジェロの工房
机に向かって座り、手紙を読むミケランジェロ。

(手紙文面からのイメージ)
辛辣な表情で、羽で手紙を書くセバスティアーノ。
セバスティアーノN 「―——親愛なるミケランジェロ先生…」

セバスティアーノN 「―——あの日、敵軍の攻撃を搔い潜り、2人の弟子の命だけは守ることが出来ました」
〇ローマ 1527年5月
路上。並んで走るセバスティアーノと、修道士の弟子(20歳)、子どもの弟子(10歳)。

セバスティアーノN 「わたしが今、生きていられるのは、あの時教皇様がサンタンジェロ城の門を開けてくださり、そして我々の身代金まで工面くださいましたこと…深く感謝しています」⑧
サンタンジェロ城の入口内部。門から流れ込む群衆の中、子どもの弟子を抱え、将棋倒しになるセバスティアーノ。

セバスティアーノN 「―——しかし、ローマが陥落され、皇帝軍はローマ中の聖堂、教会、聖具、聖遺物を破壊、強奪しただけではなく…」⑨
品々を袋に詰めるランツクネヒトと、のイメージ頭を押さえる人々に剣で襲いかかろうとするランツクネヒトのシルエット。

セバスティアーノN 「病院や捨て子養育院にまで押し入り、身代金が払えないからと、患者や子どもたちまで手にかけたといいます……」⑩

〇荒らされた教会の中
セバスティアーノN 「そしてわたしは教会や修道院にいた仲間、自宅に戻っていた弟子の多くを失いました」
シーツに包まれた遺体にひれ伏して号泣する修道士の弟子。呆然と立ちすくむセバスティアーノ。

床には物が散乱し、宗教画には無数の傷。
目を見開き、蒼白で震えるセバスティアーノのアップ。
セバスティアーノN 「ローマここは地獄と成り果ててしまった…先生、人はこんなにも残酷になれるものなのでしょうか…?」

〇ミケランジェロの工房(時間遡る)
ミケランジェロとアントニオに向かって話すベンヴェヌート。
ベンヴェヌート  「…小僧の弟子が、どうしても家に戻って確かめるって言うから」

〇ローマ 1527年5月(ベンヴェヌートの話からのイメージ)
ベンヴェヌートN 「敵軍がウヨウヨいる中に、修道士と子どもだけで向かうなんざ、命がいくつあったって足りねえ…」
路上を歩く一同。10歳の弟子の後ろに、セバスティアーノとベンヴェヌートと仲間2人。ベンヴェヌートたちは剣と銃を腰に付けている。
皆布を顔に巻いたり、鼻と口を押さえたりしている。

辺りは瓦礫。煙がくすぶり、埋もれた数々の死体。
向こうで火を焚き、槍を持ちながら話すスペイン兵たち
スペイン兵    「さっさと死体を焼いちまおうぜ!さもないと疫病でこっちがやられちまう!」

セバスティアーノN 「——弟子の家に向かっている間、どうか何もないでくれ・・・・・・・…そんなことばかり考えるしか、ありませんでした」

〇弟子の自宅前
瓦礫を前に立ちすくむ一同。
瓦礫の中に女性のうつ伏せになった遺体。その下に子どもの手が見える。

口に手を当て、目を見開く弟子のアップ。

手を伸ばし、泣き顔で駆け込もうとする弟子と、慌ててその後ろから抱きしめようとするセバスティアーノ。

号泣する弟子を抱きしめ、唇を噛む様子のセバスティアーノ。

神妙な顔のベンヴェヌートと、涙を拭う仲間。

セバスティアーノN 「―——こんな無力なわたしに出来たことは」

〇荒地
スコップで土を掘っているベンヴェヌートたちの様子を見守るセバスティアーノの後ろ姿。
泣く弟子の肩に手を置いている。

セバスティアーノN 「せめて敵軍に火葬されないよう、この子の家族のご遺体を、共同墓地に埋葬してもらうことでした」

(時間経過 セバスティアーノの手紙からのイメージ)
涙を流しながら眠る弟子を、見守るセバスティアーノ。
セバスティアーノN 「―——もっと早く、教皇様に逆らってでも、皆を連れローマから脱出しようとすれば出来たのか」

イーゼルに向かい、忙しそうに描いているセバスティアーノのイメージ(回想)。
セバスティアーノN 「せめて一日早く、避難していれば…急に入った仕事なんか放り出し、この子の家族を連れ、逃げていたら…」

セバスティアーノN  「…そんなふうに、悔やんでばかりいます」手で顔を覆う。
(手紙からのイメージ終了)

ベンヴェヌート 「…結局小僧の姉貴の遺体だけが見つからなかった。見つけるまで何処へも行かねえって聞かなかったが…壊滅状態でペストまで襲ってきたローマに、ガキが1人で生きていけるわけねえ」

ペルージャ 1527年夏(ベンヴェヌートの回想) 
乗馬しているベンヴェヌート。
その傍に向かって立つセバスティアーノ。小さな荷袋を持ち、弟子の手を引いている。
ベンヴェヌートN 「…教皇様からお許しが出て、2人はペルージャまで、俺たちの隊と同行したんっすよ」

ベンヴェヌート  「…じゃ、ベネチアまでの道中気を付けてな。手紙は必ず届ける」
セバスティアーノ 「君には世話になった。本当に感謝する」
うつむく悲しそうな表情の弟子。

去っていくセバスティアーノに向かって叫ぶ。
ベンヴェヌート  「また会おうぜ!修道士フラセバスティアーノ!」

振り向き様、苦笑するセバスティアーノ。
(回想終わり)

(手紙からのイメージ)
セバスティアーノN 「先生…わたしは」

とぼとぼ歩くセバスティアーノと弟子の後ろ姿。
セバスティアーノN 「あの日・・・以前のわたしには、もう戻れないような気がします…」
(手紙からのイメージ終了)

〇ミケランジェロの工房 夕暮れ
神妙な顔で、うつむくミケランジェロ。

涙ぐむアントニオ。

N ―——皇帝軍に占領され、無政府状態になったローマでは
 その後も度々兵士による強奪などの犯罪行為が繰り返され、
 1528年2月 ようやく皇帝軍は完全撤退した。 

(続く)


【補足】
(注)
①|Sacco di Roma(ローマ劫掠)…1527年5月6日神聖ローマ帝国の皇帝軍が、ローマの街を襲撃。無防備な一般市民や聖職者に対し殺戮、暴行、強奪、そして聖堂や教会に備えられていた聖具、聖遺物、芸術作品などの破壊や強奪などの犯罪行為を行った事件。
皇帝軍は主にスペイン兵、ドイツの傭兵ランツクネヒトで構成されていたが、イタリア兵もいた。

②Castel S. Angelo(サンタンジェロ城)…和名は聖天使城。元はハドリアヌス帝時代からの廟だったが、イタリア戦争時代は要塞、教皇の避難場所になった。Sacco di Romaの時は教皇や聖職者の他、兵士や一般市民合わせ約3,000人が逃げ込んだ。

③のちにミケランジェロの元弟子、G・ヴァザーリなどの手で修復される。

④フィリッポ・ストロッツィ(38歳)……銀行家兼商人。フィレンツェでメディチ家に次ぐ有力者。革命勃発前、教皇に仕えてもいた。

⑤アレッサンドロ・ディ・メディチ(17歳)……フィレンツェ一の有力者、メディチ家の放蕩息子。素行が悪く、市民から評判が悪い。故メディチ家当主の庶子ということになっているが、実はローマ教皇の庶子。
 イッポリート・ディ・メディチ……メディチ家の庶子。アレッサンドロの親戚。のちに枢機卿となる。

⑥ミケランジェロはローマで故ユリウス2世教皇の墓碑の制作依頼を受けていたが、完成できず遺族から5年程前より訴訟を起こされていた。

⑦シャルル・ド・ブルボン…皇帝軍を率いた長。ローマに突撃の際、流れ弾に当たり戦死する。ベンヴェヌートは「チェッリーニ自伝」の中で、ブルボンを撃ったのは自分だと述べている。

⑧ローマ教皇クレメンス7世は、食料も尽き包囲戦に耐えられず、6月5日皇帝軍の降伏協定に合意。多額の支払いの他、皇帝軍のすべての行為を放免するという項目も含まれていた。
教皇は早急に一時金を工面するため、財宝庫にあった貴金属類をベンヴェヌートに鋳造させた(チェッリーニ自伝より)。

⑨『ローマ劫掠 1527年、聖都の悲劇』A.シャステル著 越川倫明他訳 (p.142) ランツクネヒトが書き残した記録による。
シャステルはランツクネヒトはすべてルター派だったと述べているが(p.49)、ChatGPTによると、この時のランツクネヒトたちの信仰は、出身地含め様々であり、この記録がルター派による犯罪行為の証拠にはならないと述べた。

⑩『教皇たちのローマ』石鍋真澄著(p.118)、『ローマ ある都市の伝記』C. ヒバード著 横山徳爾訳(p.229)による。
『ローマ教皇史』ルートヴィヒ・フォン・パストール(Ludwig von Pastor)著(1886-1907)から抜粋されているようだが、スペイン兵、ランツクネヒトのどちらによる犯行かは明記されていない。

("Sacco di Roma"に関する参考文献)

『教皇たちのローマ』 石鍋真澄著 平凡社(2020年)
                
『ローマ劫掠 1527年聖都の悲劇』 アンドレ・シャステル著 越川倫明他訳  筑摩書房(2006年)

『ローマ ある都市の伝記』 クリストファー・ヒバート著 横山徳爾訳  朝日新聞社(1991年)

『ルネサンスの歴史(下)反宗教改革のイタリア』 I.モンタネッリ/R.ジェルヴァーゾ著 藤沢道郎訳 中公文庫(2016年) 

『イタリア史 Ⅸ (第18~20巻)』 フランチェスコ・グイッチャルディーニ著 川本英明訳  太陽出版(2007年)

『チェッリーニ自伝(上)』 ベンヴェヌート・チェッリーニ著 古賀弘人訳  岩波書店(1993年)



#創作大賞2024   #漫画原作部門 #メディチ家


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