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ミケランジェロの回顧 ~フィレンツェ革命編~第三話


〇バルトロメアの実家

ベッドの中のシモーネにしがみつき、泣き叫ぶバルトロメア。髪が乱れている。
バルトロメア  「いやあああ!シモーネ!シモーネ!!」
バルトロメアの父「落ち着きなさい!バルトロメア!」(声のみ)

バルトロメアの背にしがみついて涙を流すチェッカ。

部屋の外で様子を眺めるミケランジェロ。後方にロドヴィコと、ロドヴィコを支えるシジスモンド。皆蒼い顔をし、心配そうな様子。頬に汗。
ミケランジェロ「……」

椅子に座り、前かがみで震えるロドヴィコ。
ロドヴィコ「……たのむ」

ロドヴィコ「あの子を…連れて行かないでくれ…ブオナロート…!」

ロドヴィコを見るミケランジェロとシジスモンド。

手を組み、涙を流し、上向きながら叫ぶ。
ロドヴィコ「主よ、どうかあの子の代わりに、この老いぼれを…!」

離れたところに呆然と立ち、自分を見つめるリオナルドに気づくミケランジェロ。

リオナルド「…おじさん、シモーネ死んじゃうの?父さんみたいに」
ミケランジェロ 「……」

リオナルド「僕、いい子になる。何でも言うこと聞くから…だから、だから」震えながら。

リオナルド「シモーネを助けて…!」涙を流す。アップ。

リオナルドを抱きしめるミケランジェロ。
ミケランジェロ 「…大丈夫だ。シモーネはきっと助かる」

N ―——シモーネは助からなかった…。

〇ブオナローティ家
T 1か月後

上向き加減で口を半開きにし、椅子に座っているロドヴィコ。

ひざ掛けを持ちながらシジスモンドがロドヴィコに近寄る。
シジスモンド「父さん、寒くない?」

ぽかんとしながら話すロドヴィコ。
ロドヴィコ 「シジスモンド、ブオナロートは一体どうしとるんだ?ミケランジェロの手伝いでもしとるのか?」

蒼い顔でロドヴィコを見るシジスモンド。頬に汗。
ロドヴィコ 「子供たちまでおらんではないか。あの女、また子供を連れて、実家に帰っとるのか?全くどいつもこいつも」     

離れたところでテーブルに肘をつきながら、不安な顔でロドヴィコを見るジョヴァン。テーブルの上にワインのジョッキとコップがある。

シジスモンド「…父さん、そう。ブオナロート兄さんは、ミケランジェロ兄さんのところだ。じき帰って来る」微笑みながら。

シジスモンド「もうすぐ子供たちも戻って来るよ」
ロドヴィコ 「そうか!」嬉しそうに叫ぶ。

ロドヴィコ 「シモーネも戻るんじゃろ?あのチビの顔を見るのが、一番楽しみだ…」

ジョヴァン「……」コップを片手に、うつむいて考え込む。

微笑むロドヴィコから離れ、唇を嚙みながら腕で目を覆い、声を殺して泣くシジスモンド。

〇フィレンツェ政庁(現在のヴェッキオ宮殿)
T 1529年4月
統領の政務室
机に向かい座っている統領と、向かい側にいるミケランジェロとバティスタ。
机を握りこぶしでドンと叩くミケランジェロの手。
ミケランジェロ「統領殿ゴンファロニエーレ、一体どうなっているんだ!?」

詰め寄るように怒鳴るミケランジェロと、座りながら困った様子の統領。
ミケランジェロ「俺が留守の間、頼んでいたサン・ミニアートの工事が全然進んでないじゃないか!?」

T フィレンツェ共和国統領ゴンファロニエーレニコロ・カッポーニ
ミケランジェロ「何のために視察と称して、俺をフェッラーラに行かせた!?」
カッポーニ「お、落ち着いて」

カッポーニ「正直、財政も人手も不足していて、大規模な要塞を造ることまで回らないんだ」

蒼ざめ、カッポーニを見下ろすミケランジェロ。
ミケランジェロ「…この街フィレンツェをローマのようにしたいのか?」

カッポーニ「…!」唇を噛みしめ頬に汗。

詰め寄って怒鳴るミケランジェロを、押さえるバティスタ。
ミケランジェロ「病人や捨て子養育院の子供まで、殺されたんだぞ!!」
バティスタ「ミケランジェロ!」
ガタンと立ち会がる統領。

バティスタ「お許しください!彼はその…次々身内を亡くされてて」
カッポーニ「そんなことは絶対にさせん!」

カッポーニ「させんためにも、教皇様と話し合いが必要なんだ!」

驚いた表情でカッポーニを見るミケランジェロとバティスタ。
カッポーニ「…内密なことだが…教皇様と交渉中だ」

震えながら話すカッポーニ。
カッポーニ「復権した教皇様は…必ずフィレンツェに攻めてくる。対抗するには他国の援助がないと無理だが、今それをしてくれる国はどこにもない」

カッポーニ「…要塞を造る余裕も、この国にはない!だから絶対に敵軍を来させてはならないんだ!」
ミケランジェロ「……」

N ――その後カッポーニは、教皇との密談が発覚。「メディチ家をフィレンツェに復権させようとした」とされ、失脚する。
 机に両手をつき、うなだれるカッポーニ。

立ち去るカッポーニのイメージ。
N 当時のフィレンツェ国民は、メディチ家の権力の一切を、受け入れられなかったのである。

ざわざわ話す、不安げなフィレンツェの兵士や市民たちのイメージ(シルエット、または表情無し)。
N 6月29日 教皇と皇帝との間で「バルセロナ条約」が結ばれ、公式に和解が成立――
「教皇様と皇帝が、手を結んだというのは本当か!?」
「ローマを壊滅させた、あの皇帝と組んだのか⁉」
「フィレンツェはどうなる⁉皇帝軍と教皇軍が襲ってくるのか⁉」

〇ミケランジェロの家
両腕の肘をつき、うつむき考え込むミケランジェロ。
(回想)
苛立ちながらミケランジェロに話す新統領や閣僚たちのイメージ(シルエット、または表情無し)
「司令官が教皇側と内通してるだと!?」
「そんな噂があることくらいわかっている。でも証拠はないんだ!」
「皆、不安だからそんなデマが出てるだけだ。いいか、余計なことを言いふらすなよ!」
「今は内輪もめしてる場合じゃない。少しは協調性を持ってくれ!!」
(回想終わり)

不安そうな表情で話すピロート。
ピロート「…ベンヴェヌートの奴、ローマに戻っちゃいました」

振り向き、やつれた顔でピロートを見るミケランジェロ。
ミケランジェロ「……」

ピロート「どうも…教皇様からの強い命令があったようです」
ミケランジェロM「…みんな逃げていく。当たり前だ」

行進する騎馬兵、歩兵たちのイメージ。
ミケランジェロM「皇帝軍と教皇軍が、この国フィレンツェを襲撃してくるんだ」

(時間経過)
自室にこもり、顔を両手で覆うミケランジェロ。
ミケランジェロM「この小さな国フィレンツェに勝ち目などない」

手から顔を離し、蒼い顔で視線を一方に向ける。その先に短剣がある。

震えながら、テーブルに置かれた短剣の柄に触れるミケランジェロの手。

苦笑するミケランジェロのアップ。頬に汗。
ミケランジェロM「——弟も甥も救えなかった俺が、この国を救えるわけがないじゃないか」

(時間経過)
アントニオの部屋に駆け込むミケランジェロ。
ミケランジェロ「アントニオ!」

ミケランジェロの勢いに、驚くアントニオ。
ミケランジェロ「今すぐここを発つ!必要なものだけ用意しろ!」

アントニオ「お、俺もですか?どこへ…」
ミケランジェロ「べ…フェッラーラだっ!」

アントニオ「また視察ですか?」
ミケランジェロ 「そ、そうだ」
ミケランジェロM「とにかくベネチアまで行かなければ…」

アントニオ「じゃ俺、母さんに知らせて来…」
ミケランジェロ 「ダメだ!!」

ミケランジェロ 「知らせるのは、後で手紙でいいだろ!急ぐんだ!!」震え、アントニオを睨みながら怒鳴る。
ミケランジェロM「もし今、逃げることが政府の連中の耳に入ったら…!」

アントニオ「……」怯え、不安な表情。

表情を和ませるミケランジェロ。

ミケランジェロ「…フランスへ行かないか、アントニオ」

アントニオ「えっ!?」表情がぱっと輝く。

ミケランジェロ「お前、行きたがっていただろ」

〇 城壁の門 夕暮れ
人の行列。フィレンツェから出国する人々。馬を連れている人もいる。
その先に数名の門番。
ミケランジェロと小さな荷物を背負ったピロートとアントニオがいる。皆、マントを着、帽子を被っている。
ピロート「…ここが一番、見張りが少ないはずなんですが…」

後方からどけ、どけ!の声。驚きながら振り返る人々。

避ける人ごみの中を、荷馬車がガラガラ通り過ぎる。
どさくさで馬車を追いかけながら脱出する、身なりの粗末な男たち。

門番「おい!こらっ!」
御者「いつも通ってんだろ!こっちは急ぐんだよ!」

ミケランジェロ「…何とか紛れ込んで、抜け出そう」

ミケランジェロ「走り出すかもしれん。いいか、しっかりついて来るんだぞ!」振り向き様。頬に汗。
アントニオ「は、はい!」

門番1「そこの3人!どこへ行く!?」
ぎくりとするミケランジェロ。

震えながらマントの下の、腰の短剣に手を伸ばすミケランジェロの手。

ミケランジェロ「お、俺たちは…」ドキンドキンと高まる鼓動。

門番2「おや?あなたはミケランジェロ・ブオナローティ殿ではありませんか?」

蒼ざめるアントニオとピロート。

汗をかきながら、門番を睨むミケランジェロ。

マントの下の、震えながら短剣を鞘から抜きかけるミケランジェロの手。

門番2「…お通ししろ。この方はミケランジェロ・ブオナローティ殿だ」
門番1「えっ!?あの『ダヴィデ像』の!?」
ミケランジェロ「!?」

硬直するミケランジェロ。剣を持つ右手を、マントの下に隠している。

門番2「そうだ。それに今は九人会ノーヴェのメンバーだぞ」
門番1「し、失礼しました!」

門番2「お役目、ご苦労様です!」敬礼して微笑む。

ミケランジェロ「あ、ああ。ありがとう」ホッとし、微笑。

汗をかきながらホッとするアントニオとピロート。

ミケランジェロを先頭に、アントニオとピロートが早足で去っていく後ろ姿。
N 1529年9月21日 ミケランジェロ・ブオナローティは、弟子のアントニオ・ミーニと、金細工師のピロートを伴い、フィレンツェから逃亡——。


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