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愛は終わるのだ。


「俺とお前のことを言われたんだ、悔しいだろ!だから表に出ろって言ってやったのに、アイツは出てこなかった!逃げたんだぜ!」

高揚した声が電話の向こうで聞こえる。
話を聞けば、対相手が目の前にでもいるかのような話ぶりだが、ローカルなゲームのチャット欄での出来事だとわかった(彼の恋愛観が他のユーザーに刺さったらしい)。

「きっとね、あなたの事が羨ましいんだよ、相手のコンプレックスが出たんじゃないかな
恋愛は、その人の物差しで計ってしまうとこあるもんね、
ただ喧嘩は心配になるからやめてね。」

「俺は静かに過ごしたいだけなのに、いつだって相手が火種を持ち込むんだ!」

そして彼はそう言うと怒りが再燃したようで、始めの会話に戻った。

思春期の男子の会話ではないのだ、これは成人を2週して更に数年すぎた
"いい歳をした大人"の話である。

定期的に彼は暴言が酷く攻撃的になる事がある。
その時の彼は正直めんどうで手に負えない。
自分を正当化することで忙しく、どれだけ自分はストレスを溜めているか、
どれだけ真剣に生きて働いているか、
誰も分かってくれない、となる。
私もそう言った部分を持ち合わせているので、真摯に向き合ってきたが、それらが年々酷くなってきた。
若かりし幼き頃に傷付いた痛みを、今になって解消しようとしている。
それは、癒され心が穏やかになるのであれば支えたいと思うだろうが、
人を殺さんばかりの勢いある言葉使いを何度と聞かされる私は辟易していた。

もう、私が持たないな…

そう思うことが増えてきた。
事実、私は彼とやり取りを終えた後は必ず体調を崩し処方された精神安定剤を口に含む日々だった。

明くる日、また同じような会話となった。
私は彼を肯定しつつも、自ら関わりに(チャットの書き込みをいちいちしないよう)やんわりと促したつもりだったがこれが逆効果となり彼の逆鱗に触れた。
もはや、徒労だけが目の前に覆いかぶさってきた。

「お前は俺の味方じゃないね、もういいよ、忘れて、さよなら。」

言葉を変えこのような事は再三あったが、私には神の御言葉のように天から雲の隙間を抜けて私の目の前で1本の光の筋がキラキラと煌めいて見えた。

その力で私は早々に彼の連絡を着信拒否にする事が出来た。

怒鳴り散らす彼の言葉は、受け取り先が不明となり寒々とした路地裏のアスファルトに"ぽとりぽとり"と落ちていくのだろう。
もしくは、ブーメランのように彼の胸に"ぐさりぐさり"と突き刺すのかも知れない。


こうして、
愛は終わるのだ。

案外に呆気なく、呆けてしまうほどに。

#短編小説
#サントワマミー
#忌野清志郎



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