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あなたはブンちゃんの恋、を想う② 〜結末から考えてみる〜

子供の頃の記憶は、日を追うごとに朧げになっていくはずなのに、痛み、悲しみ、寂しさはその輪郭をぼんやりさせながらもどんどん膨らんで、今の自分を圧迫している気がする。

ブンちゃんもそうやって苦しかったのかなと考えると、いたたまれず不安な気持ちになったりする。


以下、『あなたはブンちゃんの恋/宮崎夏次系』のネタバレを多分に含みます。

ブンちゃんと母親の関係は、わかりやすいほどに歪だ。

名前の画数が悪いから改名しなきゃとか、お遊戯会でお星様の役ができなかったから衣装を用意してもらえない、とか。
妹のコンちゃんは生理痛で痛み止めを飲むことができるのに、ブンちゃんはだめで。
何かしらの理由でつねられて、部屋に閉じ込められていたのだろう。

母はどうしてそんなにも、自分の子供を苦しめるのだろうか。

幸せになって欲しいから?
心配だから?

でも…。

根拠のない心配や不安で、人は人を認めず否定し続け、思い通りに支配しようとするし、
否定され続けると人は、何が正しくて、自分はなんなのか、だんだん分からなくなってしまうのではないかと思う。

そんなブンちゃんの中に確固としてあるのが、「三船さんが好きだ」ということ。
三船さんのこと以外は大事ではないと考えるほどに強烈な感情が、ブンちゃんを成り立たせている。あまりにも献身的で、あまりにも危険で。強靭なようで脆く儚いこの感情は、ブンちゃんを幸せにもしたし、不幸にもしてきた。

シモジの命日に三船さんと会えることは、ブンちゃんにとって最高に幸せだったけれど。
時を重ねていくほどに、叶わない恋の苦しさに耐えかねてしまう。



ところで私は、三船さんへの恋心が成就した未来を想像してみたりした。
二人は実は両思いで、晴れて恋人同士になり、共に時間を過ごすのである。


以下、想像。
三船さんは根明なので交友関係もひろく、ブンちゃんがいない時間も楽しめるタイプだろう。
対してブンちゃんは、三船さんを諦めようとするくらいには自分の気持ちに対する見返りがほしいタイプだし、記憶喪失になってシモジを依存対象にした時には、「シモジはモテていたのか、あなたはどれくらいシモジのことが好きだったのか」と三船さんに問い詰めるほどの嫉妬心も持ち合わせている。
どんな未来が待っているかは想像するに易く、恐らく、三船さんへの独占欲がどんどん膨張していってしまうのではないだろうか。
大好きな三船さんが、自分のことを大好きだと言ってくれる世界線だとしても、ブンちゃんはやっぱり苦しいままなのだ。

これが二人が恋仲になるバッドエンドの一つだとして、それではハッピーエンドはどんなものかも想像してみた。

恐らくハッピーエンドを迎えるためには、ブンちゃんは考え方を変えなければならないように思う。
三船さんを諦めるためにひときしり苦しみ、車に轢かれそうになる三船さんを助けるために道路に飛び出し、シモジの呪いを解き放って、たくさんの人を傷つけて、救って、「三船さんのことを好きでいられること、それだけで心は安らかなんだ」という境地に辿り着く他ないのではないだろうか。

見返りを求めない無償の愛など理想論だと、愚かな私は思う。でも、トラウマになるほどの痛みをもって得る「たったこれだけあれば安心、うれしい、幸せ」という感情ほど、満ち足りたものはないだろう。
その気持ちがあれば、独占欲や嫉妬心は全く生まれないとまでは言わずとも、狂ったような激烈な感情は身を潜めてくれる気がする。



本作品は、記憶喪失になって大好きな三船さんのことも忘れたブンちゃんが、三船さんのことを思い出すところで終わる。

その先、三船さんと女友達を続けようが、はたまた恋仲(略奪愛⁉︎)になろうが…そんなことはどうでもいいくらいに「三船さんのことが好き」だということに気付き、認め、むしろその感情がなかったことの方が怖いくらいに感じることを、幸せという以外になんと言ったらいいのだろうか。

詩人 相田みつを氏は
「しあわせはいつもじぶんのこころがきめる」という言葉を残している。


ブンちゃんは苦しみもがいて、自分の幸せを自分で決めることができたのだから、この結末は、最高のハッピーエンドなのではないかと思う。


続く。

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