小説 これは私の夢のはなし
🐑#003 桜のひと
わたしはまた夢の中にいた。
この夢にはある男の人がいつも出てくる。
わたしは桜の人と呼んでいる。
またこの夢か。夢の中で呟く。
沢山の桜が植えてある場所だ。
ここは何処なのかは知らない。
季節は初夏を迎える頃だろう。
桜の葉が風に揺れて青々としている。
ざわざわとやわらかい風が木々を揺らす。
その人は桜の木の下にいつもいる。
歳は20代半ばぐらい。髪はオールバックで整えられいる。丸めがねをかけていて顔は一重で鼻が高い綺麗な顔立ちだ。グリニッシュイエローの長袖のYシャツを着て袖をまくっている。サスペンダー付の灰色のズボンを履いている。靴は黒い革靴。育ちが良さそうなひとだ。
多分、大正、昭和初期の人なのかもしれない。
その人は誰かを探している。
ぶつぶつと何かを言っていた。
「出ておいで。怒らないよ。」小声で言う。
「困らさないでおくれ。一緒に帰ろう。」
「もう寂しい思いはさせないよ。」続けて言う。
わたしはずっとその姿を見つめていた。
気が付くとわたしの傍らに女の人が立っていた。
彼女の歳は二十歳前ぐらい、髪は肩ぐらいで、目は二重でぱっちりしている。鼻は小さく、唇はふっくらとした感じだ。白色の品の良いワンピースを着ている。一言で言えば可憐な感じの人だ。
わたしは彼女に「あの人があなたを探してるよ。行かなくていいの?」と問いかけた。
彼女は口を少し開きかけて首を横にゆっくりと振った。
彼女の目は悲しいそうな詫びしそうな、それでいて何処か刹那的なものを感じた。
「あのひとが許せないのよ。」
消えそうな声が聞こえた。横を向くと彼女の姿は無かった。
桜の木々の木漏れ日が一層悲しくなった。
わたしは桜の木で彼女を探し続ける桜のひとを見つめていた。
夢から覚めた。寂しい気持ちだけが胸に残る。
桜のひとは夢の中で彼女を探している。
またあの桜の木の下で、彼女を探し続ける。
🌸これはわたしのゆめのはなし🌸
お読み頂き有り難うございます😃
大変嬉しく思います。
どなたかの目にとまれば幸いでございます😊
また夢のはなしでお会いできればと思います。