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【短歌】今宵の刺し傷は

 私だけのものは今宵の刺し傷
 誰にも取らせないは打つ脈

つくづく、自分には何もない。
嫌気が差すこの言葉が日常化して、
差す嫌気すら無くなる夜でした。

決まってそんな時に、
誰も近くにはおりません。

布団にくるまって
しめしめ泣くのも虚しく、
心が確実に乾きに乾いていくのを
ただじっと静かに感じていると、
ふと、自分が世界に存在していない、
というより、世界の中で蛇足、
余分に溢れたもののように感じます。

刺してみました。
私の外で、行き場を失った血も溢れました。
こんな私にも
痛みがありました。
流れる血と
ほんの少しの生きる願望が
芽生えるのを感じます。

真っ白い月明かりに照らされて
血濡れた私は
初めて悲しくて泣きました。

溢れる涙がありました。
私は潤った生物だったんだと、
無機物ではなかったのだと、
初めて知れた夜

やはり、
誰も近くに人はおりませんでした。
それでも脈はずちずち打つのですね。

おやすみなさい。

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