【全文無料公開】全員必読!ケンブリッジ・アナリティカ元幹部による『告発』(Kindle限定・5/21まで)
このたび、ハーパーコリンズ・ジャパンはケンブリッジ・アナリティカ元幹部ブリタニー・カイザー[著]『告発 フェイスブックを揺るがした巨大スキャンダル』をKindle限定で全文無料公開することにしました。(5/21までの期間限定)
フェイスブックの個人情報流出――日本でも何度か目にしたこのニュース。
イギリスの選挙コンサルティング会社ケンブリッジ・アナリティカが5000万人以上の個人情報を不正利用し、2016年のアメリカ大統領選挙でドナルド・トランプを支援していたことが発覚し、世界中が衝撃を受けました。
本書著者はそのケンブリッジ・アナリティカで元幹部をつとめたブリタニー・カイザー氏。Netflixのオリジナル・ドキュメンタリー「グレート・ハック:SNS史上最悪のスキャンダル」にも登場し話題になりました。
日本では昨年12月に刊行したばかりですが、stayhome期間中に少しでも多くの人に手に取って頂きたく、このたび無料公開に踏み切りました。
個人情報の利用がこんなにも人々の意思決定に影響を及ぼしていたのかと愕然とする内容です。
以下試し読みを掲載しますので、気になった方、この機会にぜひKindleよりダウンロードください。5月21までの期間限定です。
告発 フェイスブックを揺るがした巨大スキャンダル
ブリタニー・カイザー[著]
染田屋茂 道本美穂 小谷力 小金輝彦[訳]
(以下、本分より抜粋)
弁護士にはさまれて後部座席に座った私は、これから起こるであろうことを考えずにはいられなかった。今や悪名高い政治コンサルティング会社〈ケンブリッジ・アナリティカ(CA)〉で私が果たした役割について、連邦検察官に証言をしに向かっているのだ。(……)データを使ってよりよい社会をつくりたい、経済的に苦しい両親を助けたいと願いつつ、いつの間にか自分の政治的な価値観、個人的な価値観にそむくことになった経緯を話さなければならない。世間知らずで野心的だった私が、自分でも驚くほど迷わず歴史の負の側面に身を投じてしまった経緯を話すのだ。
かれこれ3年半ほど前、私はCAの親会社である〈SCL〉グループに、正確にはその人道支援部門である〈SCLソーシャル〉に入社した。SCLグループの最高経営責任者(CEO)アレクサンダー・ニックスのもとで、さまざまなプロジェクトを担当した。
(……)、働くうちにこの会社の活動の全体像が見えてきた。できるだけ多くの米国民のデータを手に入れること、そのデータを利用して米国人の投票行動に影響を与えること。それがすべてだった。フェイスブックの杜撰(ずさん)なプライバシー方針と連邦政府の個人データの管理不足の結果、CAのさまざまな活動が可能になる仕組みもわかってきた。そして何よりも、ドナルド・トランプの大統領当選を助けるために、CAがそうしたデータのもつ力をどんなふうに活用してきたかも理解していた。
(中略)
アレクサンダーは、自分自身、自分の会社、それに自分が取引に成功した人々や団体に夢中になっていた。それは彼の目を見れば明らかだった。自分は本当に忙しくて将来に希望をもっている、と彼は語った。だからSCLグループは米国の仕事だけを行う新会社を設立しなければならなかったのだという。
新会社の名前は「ケンブリッジ・アナリティカ(CA)」といった。
アレクサンダーによれば、創業してまだ1年足らずだが、世界じゅうが注目しているという。CAは革命を起こそうとしていた。
アレクサンダーの頭にある革命、それはビッグデータとその分析にかかわるものだった。
デジタル時代においてデータは「新たな石油」であり、データの収集は「軍拡競争」だ、と彼は言った。CAが集めた米国の一般人のデータ量は、規模から見ても範囲から見ても前例のないものだった。彼が知る限り、これまで誰もそこまで膨大なデータを集めたことはない。同社の巨大なデータベースには、米国の18歳以上の国民全員について2000から5000の個人データ(個人情報の断斤)が蓄積されていた。およそ約2億4000万人分の情報である。
アレクサンダーはそこでいったん言葉を切った。その数字を私たちにきちんと理解させるかのように、チェスターの友人と私をじっと見た。
とはいえ、ビッグデータをもっているだけでは答えは出ない、とアレクサンダーは続けた。ビッグデータで何をすべきかを見抜くことが重要だという。つまり、これまでよりも科学的で正確な方法を使って、「民主党支持者」「環境保護主義者」「楽天家」「活動家」などの分類に人々を当てはめるのだ。CAの親会社であるSCLグループは、何年ものあいだ、高度な行動心理学の手法を駆使して人々の性格的な特性を突き止め、分類する作業を行ってきた。何もしなければ単に米国民に関する膨大な情報でしかなかったものを、宝の山に変える力を手に入れていた。
アレクサンダーによれば、同社は多数のデータサイエンティストや心理学者を雇っている。彼らのおかげで、「どんな人にメッセージを送りたいか?」「どんなメッセージを送るべきか?」「具体的にどこでその人物に接触できるか?」を正確に把握する方法が明らかになったという。アレクサンダーは特に、世界でも指折りの有能なデータサイエンティストを雇っていた。彼らは、「マイクロターゲティング」という手法を使って、ありとあらゆる伝達手段(音声やソーシャルメディア)によって、どこ(携帯電話やコンピュータやタブレットやテレビ)にいる個人にもスポットを当てることができる。その結果、CAは抽出した個人の考え方や投票行動を変えさせることができるようになった。顧客からの委託費を使って、特定の個人にひときわ有効なメッセージを送りつけて、測定可能な結果を出したという。
「このやり方で、CAはアメリカの選挙に勝ってみせますよ」とアレクサンダーは言った。
(中略)
最初にアレックス・テイラー博士と会ったときに、C Aを支えるデータ分析について教えてもらえなければ、私はアレクサンダーをうならせる売り込みはできなかっただろう。テイラーの解説はかなり専門的で、分析プロセスの根本に触れるものではあったが、CAの「秘密のソース」とは、ただひとつの秘密を指すのではなく、ライバルの先を行く複数の要素であることを教えてくれた。アレクサンダーがよく言っているように、秘密のソースはいくつかの材料を使ったレシピのようなもので、材料は「ケーキ」の中に混ぜ込まれているのだ。
おそらくCAがほかのどの通信会社とも異なる最も大きな点は、そのデータベースの大きさにあった。テイラーによると、データベースはきわめて巨大で、前例がないほどの奥行きと幅を誇り、日々大きくなっている。それが実現できたのは、すべての米国民の個人情報を買い上げた、あるいはそういう情報を使用する許可をとったからだった。CAは〈エクスペリアン〉から〈アクシオム〉や〈インフォグループ〉まで、可能な限りの業者からデータを買い入れた。そうして手に入れたデータには、米国民ひとりひとりの懐具合や、どこで買い物をしていくら払ったか、どこで休暇を過ごしたか、何を読んでいるかといった情報が入っている。
こうしたデータを政治的な情報(公的にアクセス可能な投票傾向)に照らし合わせ、さらにそれらのすべてをフェイスブックのデータ(どんなトピックに「いいね!」しているか)と照合する。フェイスブックからだけでもユーザーに関する570の個別データポイントがあり、それらをすべて組み合わせれば、18歳以上の米国民およそ2億4000万人のひとりひとりに関して5000のデータポイントが得られることになる。
だが、テイラーの説明によると、このデータベースの特別な利点は、フェイスブックを利用してメッセージを送れることにあった。データ集積の対象にした多くの人物にその後も接触するために、フェイスブックのプラットフォームを使うのだ。
テイラーが話してくれたことで、SCLグループにいるあいだに経験したふたつの出来事の意味が明確になった。そのひとつは入社直後の出来事だ。2014年12月のある日、シニア・データサイエンティストのスーラジ・ゴサイが私を彼のコンピュータのところへ呼んだ。彼は博士号をもっている研究員と社内の心理学者と一緒に座っていた。
この3人は「セックス・コンパス」──おかしな名前だが──と呼ばれる性格診断法を開発したという。表向きは、ベッドでの好きな体位といった性的嗜好を探る質問によって、その人の「性的性格」を診断することが目的だった。だが、この調査は、ユーザーの単なる楽しみを目的にしたものではない。自分についての人々の回答からデータポイントを収集する手段であり、彼らの「性的性格」の判定だけでなく、SCLがユーザーと彼らの「友達」すべてのデータを気づかれずに集めるための新たな手法なのだ。そのうえ、人格と行動に関する有用なデータポイントもたっぷり提供してくれることになる。
同じことが私のデスクに回ってきた別の調査にもあてはまる。それは「ミュージカル・セイウチ」と呼ばれ、漫画っぽく描かれた小さなセイウチが、その人の「本当の音楽的アイデンティティ」を判定するという名目で、一見罪のない一連の質問をする。これも、データポイントと性格に関する情報を収集するためのものだった。
オンラインの調査はほかにもあった。テイラーの説明によれば、どれもが、フェイスブックがユーザーに関してすでにもっている570のデータポイントだけでなく、その友達ひとりひとりについて570のデータポイントを手に入れることができる手段だという。たとえば、フェイスブックと接続して「キャンディークラッシュ」などのゲームをプレーするために、その第三者アプリの利用規約に「イエス」とクリックしたとしよう。それだけで、自分のデータだけでなくすべての友達のデータを、アプリ開発者と、その開発者が情報を共有しようとする誰かに、無料で提供することになるのだ。フェイスブックはこのような第三者によるアクセスを、「友達API〔Application Program Interface の略語で、あるコンピュータプログラムの機能や管理するデータなどを、外部のほかのプログラムから呼び出して利用するための手順やデータ形式などを定めた規約〕」として知られる仕組みを介して許可している。これは、今やどの国のデータ保護法にも違反する悪名高いデータポータルである。知的能力のある人物に代わってほかの人物が同意することを合法とするような法的枠組みは米国をはじめとしてどの国でも存在しない。「友達API」の使用は拡大し、フェイスブックの大きな収入源になったことは容易に想像できるだろう。そして、CAを含む4万を超えるアプリ開発業者が、この抜け穴を利用して、なんの疑いももたないフェイスブックのユーザーのデータを収集したのである。
CAは常にデータを収集し、更新して、人々が何に関心をもっているかを完全に把握していた。米国民が、フェイスブックや第三者アプリにとどまらず、どんなサイトであっても、電子「クッキー」へのアクセスを「イエス」とクリックしたり、「利用規約」に「同意する」をクリックしたりするたびに提供しているデータを、毎日買い入れては自社のデータセットを補充していた。
CAはまた、この最新のデータをエクスペリアンのような会社から購入していた。そういう会社は、表向きはクレジットカードやローンを使うための個人の信用度を提供するためとしながら、その情報を売って利益を上げるために、人々のデジタルライフの隅から隅まで、あらゆる移動や買い物を追跡してありとあらゆる情報を収集する。〈アクシオム〉、〈マゼラン〉、〈ラベルズ&リスツ(別名L2)〉などのデータ販売業者も同じだ。ユーザーはデータ収集に同意するのに長たらしい規約と条件に目を通す必要がなくチェック欄に記入するだけですむので、これらの会社にとって、データの収集はさらに容易になる。いずれにせよ、ユーザーはそこをクリックせざるを得ない。そうしなければ、利用したいゲーム、プラットフォーム、またはサービスに進めないからだ。
アレックス・テイラーからデータに関して学んだことのなかで最も衝撃的だったのは、それがすべてどこから来ているのかという点だった。これは読者には明かしたくはないのだが、本書を買うことで(電子書籍やオーディオブックをダウンロードした場合には、読んだり聴いたりすることで)、広告主があなたのデジタルライフを支配するためにすでに世界じゅうで売買されている、あなた自身の重要なデータセットを生み出してしまったことになるのだ。
この本をオンラインで購入した場合には、検索データ、購買履歴、購買に至るまでの各ウェブページの閲覧時間が、使用したプラットフォームと、あなたが自分のパソコンに保存することを許可し、オンラインデータを収集させている追跡装置であるトラッキングクッキーに記録されることになる。
クッキーといえば、ウェブページが「クッキーを許可しますか?」と訊いてくるとき、それは実際には何を求めているのかと考えたことはあるだろうか? これは社会的には許容されているある種のスパイウェアなのだが、あなたは日常的にそれを許可してしまっている。親しみやすい響きの言葉にくるんで、疑いをもたない人々や消費者を引っかける手の込んだ策略なのである。
クッキーは、あなたがコンピュータや携帯電話で行うすべてを文字どおり監視している。〈モジラズ〉のライトビーム(元コリュージョン)、〈クリッツ〉のゴーステリー、電子フロンティア財団のプライバシーバッジャーなどのブラウザーのアドオンを使って、いったい何社があなたのオンライン活動を監視しているか、確認してみるといい。50社以上見つかるだろう。私も、いったいどのくらいの数の会社に監視されているのかを調べようとライトビームを使ってみたが、たった1分間にふたつのウェブニュースを見ただけなのに、それによって自分のデータを174もの第三者サイトにつなぐことを許可していた。これらのサイトは、〈ロケットフューエル〉や〈ロテーム〉のようなさらに大きな「ビッグデータ収集会社」にデータを売り、そこであなたのデータは彼らの広告事業を動かす燃料になる。その過程においてあなたのデータに触れたすべての人が利益を上げるのだ。
あなたが本書をアマゾンのキンドルやiPad、グーグルブックスや〈バーンズ・アンド・ノーブル〉のヌークで読んでいるとすれば、あなたが1ページ読むのにどれくらい時間がかかるか、どこで読むのを中断して休憩したか、どこの部分にブックマークやマーカーを入れたかなどの正確なデータセットが生み出される。最初にあなたが本書を見つけるために使った実際の検索用語と組み合わせれば、その情報はデバイスの所有者に対し、新しい製品をあなたに売りつけるために必要なデータを提供することになる。小売業者にとっては、あなたが興味をもつかもしれないというわずかな手がかりでも得られれば、優位に立つのに十分だ。そうしたことすべてが、本人にそのことを知らせたり、そのプロセスに対して本来の意味での「同意」を与えたりすることなく行われている。
あなたが本書を実店舗で購入し、スマートフォンのGPS追跡機能がオンになっていると仮定すれば──グーグルマップを使えば〈ナインス・デシマル〉のような会社に売られる貴重な位置データが生まれる──その書店までの全行程をスマートフォンが記録し、店に着いてからどれだけの時間を過ごし、この本を選ぶまでにどの商品をどれだけ長く見つめたかなどが追跡される。本を購入する際、クレジットカードかデビットカードを使えば、購買履歴に記録される。それから先は、銀行やクレジットカード会社がその情報をビッグデータ収集会社や類似業者に売り、次にそれらを買った業者ができるだけ速やかにそのデータを販売する。
さらにあなたが自宅で本書を読んでいて、ロボット掃除機をもっているとすれば、そのロボットがあなたが座って読んでいる椅子かソファーの位置を記録している。アレクサ、シリ、コルタナ、そのほかの音声起動「アシスタント」が近くにあれば、本書の内容にあなたが声を出して笑ったり泣いたりするのを記録する。あなたはさらに、読書しながらどれくらいのコーヒーとミルクを消費するかを記録するスマート冷蔵庫かコーヒーメーカーを使っているかもしれない。
そうしたデータセットはすべて「行動データ」として知られ、データ収集会社は、そのデータを使用して信じられないほど正確で有用な人物像をつくりあげることができる。そうなれば、企業はあなたの日常の行動に合わせて製品を調整し、政治家は行動データを使ってあなたの胸に響くメッセージを適切なタイミングで送ることができる。子供たちを学校に送り出す、まさにそのタイミングで教育に関する宣伝がラジオから流れてくる。けっして考えすぎではない。すべて仕組まれているのだ。
また、理解しておくべき重要なことは、企業があなたに関するデータを購入するコストは、彼らが広告主にあなたのデータを売る際の価格と比べるとはるかに低いという点だ。あなたのデータは、誰でもどこからでも、あなたをターゲットにしたデジタル広告を発信することを可能にする。商業的だろうが政治的だろうが、誠実なものだろうが悪意のあるものだろうが好意的なものだろうが、その目的にかかわらず、適切なプラットフォームで適切なメッセージを、適切なタイミングで発信できるのである。
そういう事態に、いったいどう対抗できるのだろう? すべてが電子的になったのは、それが便利だからだ。一方、その便利さの代償は計り知れない。あなたは最も重要な資産の一部を無料で提供しているのだ。それによって他者が利益を手にしている。あなた自身が、手放していることにさえ気づいていないものを元にして、ほかの誰かが何兆ドルも稼いでいるのだ。あなたのデータはとてつもなく貴重である。CAはそのことを、あなたやほとんどのクライアント以上によくわかっていた。
CAに何ができるかをアレックス・テイラーが教えてくれたことで、この会社はビッグデータの販売業者からデータを買うだけでなく、クライアントの独自データ、つまり、クライアント各社がつくりだした一般市場では購入できないデータへのアクセス権ももっているのがわかった。クライアントとの取り決め次第で、そのデータの所有権はクライアント側に残る場合もあれば、CAの知的財産の一部となる場合もある。後者の場合、CAは彼らの独自データの使用、販売、あるいは自社モデルに合うように加工して保持することもできた。
ただし、これは米国だけの特例で、英国、ドイツ、フランスなどのデータ保護法ではこんな自由は認められていない。そのため、米国はCAにとっては非常に肥沃な土地といえ、アレクサンダーが米国のデータ市場こそまさに「西部開拓時代だ」と言った理由はそこにある。
CAがデータを更新、つまり手元に保有するデータベースを新しいデータポイントに更新する際には、クライアントや業者と一連の契約を結んだ。その契約の内容次第で、データセットに数百万ドルのコストがかかる場合もあれば、無料の場合もある。これは、CAが自社のデータをほかの会社の独自データと共有する契約を結ぶことがあるためだ。その場合、金銭のやりとりは必要ない。たとえば、非営利団体が資金提供者を探すために使う、インフォグループのデータ共有の「共同組合」がそれに当たる。ある非営利団体がインフォグループと資金提供者や寄付金額のリストを共有すると、その見返りに、ほかの資金提供者に関する同様のデータ、彼らの習慣、年度ごとの寄付金額、さらに慈善事業に関する主な傾向などの情報を受け取れる。
CAは、そうしたさまざまな情報源から収集した大規模なデータベースをもとに、ライバルと差別化をはかる。アレクサンダーがたとえたように、「ケーキ」の生地を混ぜるようになったのだ。私たちが保有するデータセットは重要な土台だが、「サイコグラフィックス」と呼ばれる手法を使うことで仕事は正確で効果的なものになる。
「サイコグラフィックス」という用語は、そもそも組織内の性格採点法を膨大なデータベースに適用するプロセスを説明するために使われたものだ。個人の複雑な性格を理解するために分析ツールを使用し、次に心理学者がそれらの個人を行動へと駆り立てる要因を想定する。それから、クリエイティブチームが 「行動マイクロマーケティング」と呼ぶプロセスを使って、性格タイプ別に合わせた特定のメッセージを作成するのである。
「行動マイクロマーケティング」とはCAが商標登録している用語だが、これを使えば、共通する性格と共通する問題意識をもつ個人に的を絞って、望みどおりの結果を得られるまで微調整と改良を加えたメッセージを何度も送ることができる。選挙の場合には、人々に呼びかけて、献金し、候補者と選挙戦の争点について学び、実際に投票所へ出かけ、自陣の候補者へ投票することを求める。同様に、これは憂慮すべきことだが、一部の人々が投票所へ足を運ぶのを「阻む」目的の選挙運動もある。
テイラーがそのプロセスを細かく説明してくれたところによれば、CAは、第三者のアプリ開発業者の協力を得てつくりあげた「セックス・コンパス」や「ミュージカル・セイウチ」のような性格診断から収集したフェイスブックのユーザーのデータを、エクスペリアンのような外部業者からのデータと照らし合わせていた。それから、何百万もの個人に、彼らに関する数千ものデータポイントから算出される「ビッグファイブ理論(OCEANとも呼ばれる)」で数値化した。
この「OCEANモデル」は行動心理学と社会心理学から生まれたもので、CAではこれを人々の性格の構成を決めるために使っていた。個人の性格を調べてデータポイントに照らし合わせることで、その人がそれぞれ、どの程度に「開放的」(open)、「誠実」(conscientious)、「外向的」(extroverted)、「協調的」(agreeable)、「神経質」(neurotic)なのかを特定することができる。これらのさまざまな性格タイプをモデル化すれば、ひとりひとりをすでに独自のデータベース内にある個人データと照合することでグループ分けできる。こうしてCAは、データポイントを所有している何百万人ものうち、誰が「開放的」「誠実」「外向的」「協調的」「神経質」なのか、あるいはそれらをいくつか組み合わせた性格であるのかを判別できた。
OCEANによって、CAは以下のような5段階のアプローチも可能にした。
第一に、情報を把握している人々を、ほかのどんな通信会社より高度に、微妙に異なるグループに分けることができる(たしかに、他社でも性別や人種など人口統計的な基本属性だけに限らないグループ分けが可能だが、支持政党や優先課題といったより踏み込んだ事柄に関しては、だいたいが大雑把な世論調査によっておおよその立ち位置を探るぐらいだった)。OCEANモデルは繊細かつ複雑で、人々を各カテゴリーの連続体として把握できた。主に「開放的」で「協調的」な人もいれば、「神経質」でありながら「外向的」な人もいる。「誠実」かつ「開放的」な人もいる。その結果、全部で32の主要グループが存在した。「開放的」スコアは、その人が新しい経験を楽しむのか、あるいはより慣習を尊重して依存する傾向があるのかを示す。「誠実」スコアは、衝動的に動くよりは計画性を好むかどうかを、「外向的」スコアは、その人がほかの人とかかわり、コミュニティの一員になることを好む度合いを、「協調的」スコアは、自分よりほかの人のニーズを優先するかどうかを、「神経質」スコアは、恐怖にかられて意思決定をする傾向を示している。
CAでは、人々が分類されたさまざまなサブカテゴリーに、彼らが──たとえば、フェイスブックの「いいね!」によって──関心を示しているテーマを加え、さらに細かく分類した。たとえば、ふたりの女性を、34歳の白人で〈メーシーズ〉で買い物をするというだけで同じ人間と見るのは単純すぎる。CAのデータサイエンティストはむしろ、サイコグラフィックスのプロファイリングを行い、彼女たちのライフスタイルデータから投票記録やフェイスブックの「いいね!」、信用偏差値(クレジットスコア)に至るまでのすべてを加えて、それぞれの女性をまったく異なる人とみなすことができる。似たように見える人でも同じとは限らない。したがって、彼らに一斉にメッセージを発信するべきではないのだ。これは自明のことのように思え、CAが登場した頃にはすでに広告業界においては浸透していた考え方なのだが、ほとんどの政治コンサルタントはそのやり方にも、それが可能であることにも気づいていなかった。彼らにすれば、初めて知ることであり、勝利への道になりうるものだった。
第二に、CAは政治の分野でも商業分野でも、ほかでは得られない正確な予測アルゴリズムをクライアントに提供した。アレックス・テイラー博士、ジャック・ジレット博士をはじめとするCAのデータサイエンティストは、常に新しいアルゴリズムを実行し、単なるサイコグラフィックスコアよりはるかに多くのものを生み出していた。彼らは米国民すべてのスコアを作成し、たとえば、それぞれが投票する可能性、特定の政党に所属する可能性、あるいはどの歯磨きを好むかといったことを0から100パーセントの範囲で予測した。あなたが赤と青のどちらのボタンをクリックすれば主義主張のために寄付したいと思う可能性が高いか、銃をもつ権利よりも環境政策についての話を聞きたいと思う可能性がどれほど高いかを知っていたのだ。CAのデジタル戦略担当者とデータサイエンティストは、予測スコアを使って人々をグループに分類してから、長い時間をかけて「モデル」あるいは「オーディエンス」と呼ばれるそれらのユーザーグループのテストを繰り返し、これらのスコアに95パーセントの信頼性を与えられるほど正確なものへと改良した。
第三に、CAはこれらのアルゴリズムから学んだことを転換し、ツイッター、フェイスブック、パンドラ(音楽ストリーミング)、ユーチューブなどのプラットフォームを使って、ターゲットにしたい人々が最も対話型(インタラクテイブ)の時間を使っているのはどこかを見つけようとした。それぞれに届くのに最適な場所はどこか? 実際の郵便受けに物理的に届く、「かたつむり」郵便によるダイレクトメールのほうがいい場合もあるだろう。あるいは、テレビ広告がいい場合もあるし、グーグル検索の最上位に出てくれるサイトのほうがいいかもしれない。CAはグーグルからキーワードのリストを買い、ユーザーがブラウザーや検索エンジンにそれらの単語を入れたとたんに彼らに接触できるようにした。ユーザーはキーワードを入力するたびにCAが特別に彼らのためにデザインしたマテリアル(広告、記事など)に出会うことになる。
このプロセスの第四のステップでは、CAの「ケーキ・レシピ」にもうひとつ材料が加えられ、ライバルや世界じゅうのどんな政治コンサルティング会社もはるかに凌駕(りょうが)できるようになった。ターゲット層に確実に届けて、CAが独自に使用するため特別にデザインしたクライアント対応ツールを用いて、そのコンタクトの有効性を試す方法を見つけたのである。戸別訪問や電話勧誘を担当する選挙運動員用に開発されたソフトウェアプログラムは「リポン」と呼ばれ、それを使えば、ターゲットの自宅を訪ねたり電話をかけたりする際に彼らのデータに直接アクセスすることができる。データの視覚化ツールも、ターゲットがドアを開けたり電話をとったりする前に戦略を決めるのに役立った。
そして、選挙キャンペーンが私たちの社内チームが作成したコンテンツにもとづいて企画され、最後の第五のステップ「マイクロターゲティング戦略」によって、ビデオ、音声、印刷広告などあらゆるものが、特定されたターゲットに届くようになった。コンテンツを何回も繰り返し精密にしていく自動システムを使って、最終的にそのコンテンツが個々のユーザーに「ぴたりとはまる」ようになった要因は何であるかを読み取ることができる。同一人物に対して、同じ広告の20から30ものバリエーションをそれぞれ30回、異なる時間に送信し、ソーシャルメディアの異なるフィードにも掲載して、ようやくクリックされることもある。そうして得た情報によって、常に新しいコンテンツを制作しているクリエイティブ部門は、次にCAが何かを発信するときに、相手にどうすれば届くかを知っていくのだ。
CAが選挙運動「司令室」に設置した、さらに洗練されたデータダッシュボード(データの管理画面)は、プロジェクトおよびキャンペーンマネジャーにリアルタイムで測定基準を提供し、特定のコンテンツに関する最新の効果測定と、経費1ドルあたりのリアクションおよびクリック回数の動向を知らせることができる。目の前で、何がうまくいっていて何がうまくいっていないか、期待する投資収益が得られているかどうか、改善するための戦略調整をどのようにすべきかなどがひと目で見られる。このようなツールによって、データダッシュボードを見ている人は、CAが進めているさまざまな「選挙キャンペーン内キャンペーン」を最大1万までモニターすることが可能になる。
CAが実践したことはきちんとした証拠にもとづいている。何をして、誰に届け、代表的なサンプルの科学的な調査により、ターゲットの何パーセントが的を絞ったメッセージを受け取った結果として行動を起こしたかなどを、クライアントにはっきりと示すことができた。
それは画期的なことだった。
(つづきは本文で)
2020.05.15 RK
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