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Nov. 2022② Wish You Were Here

最近よくTwitter上のスペースでとある人のライブ演奏を聴いている。

僕は未だにその人の素性を詳しくは知らないんだけど、とんでもない経歴の音楽家だということはわかる。にもかかわらず僕らの地平まで降りてきてくれているのを感じる。音楽もお話も、語りかけてくれているように思う。権威や肩書きに一切頼らず、自分の音楽を聴いてほしい、というような純粋な想いを感じる。それを元にしたコミュニケーションを求めてくれているので、いちリスナーとして心地良く身を委ねることができる。

その方が主催するブルースライブを見に行って、大ベテランのミュージシャンたちによる極上の演奏に酔いしれて、いつもスペースを聴いていたその人にご挨拶をした。本当に気さくな方だった。握手した時の大きくて暖かい手がとても印象的だった。こんな若造がブルースを聴きに来たってことを心から喜んでくれた(そのことを数日後のスペースでも改めて話してくれていた)。

帰りしな、ずっと生きててほしいなと、月並みだけどなかなか言葉にして思い浮かべることがないことを想った。彼の体調が思わしくないことを知っていたからではあるけれど、それより何より、僕の父よりも年上の、人生の大ベテランにあたる人が、ブルースのライブを見て涙ぐんでいるのを見て、あんなにピュアに音楽を愛している人なんだから、もっともっと生きていてほしいと思った。何も彼の演奏に魅了されているからというだけではない。ライブに行って、彼の姿を見て、胸を打たれたからだ。



僕の心はいつからか少しずつ、こういうピュアさを取り戻しつつあるような気がする。

数カ月前までの自分は、自ら望んで制限をかけることもあったけど、決して望んでいない制限を課されてもいた。まぁ仕事だな。それは仕事のことです。それから解放されて、特に自分を縛るものがない状態を今は維持していて、なおかつシェアハウスでの交流を通して、少しずつ素直な自分を解放していっている。だからか、小学生の頃のようなピュアさを取り戻しつつある。誰にも否定されないし強制されることもない、今の環境のおかげだ。

そして、素直に、こう思うことが増えた。

この人にはいなくなってほしくないな、と。

どうしていても構わないから、生きていてほしいと。

それはやっぱり、何らかの面で僕が救われているからなんだろう。その人がいることによって。たとえその人が、自分のそばにいなかったとしても。

本当は、そう思えるようなたくさんの人によって、今も僕は生かされている。

今まであった、いろんな出会いと別れの中で、きっとたくさん傷つけたんだろうなと、そこにばかりフォーカスしてしまっていたけど、だんだんもう過去のことはどうでも良くなってきている。そればっかりを気に病むことはないのでは、と。

それよりも、今もなお会うことが・話すことができる人を大事にしていけたらそれでいいのでは。

他人の過去も、もうどうでもいい。

目の前にいるその人が全て。



でも、人はみんないつか死ぬということも知っている。

僕だってもう、祖母を亡くしている。今でも時々思い出す。それと、たとえば、バイク事故で亡くなった学生時代のバイトの先輩とか。まだ回数は少ないとはいえ、人の死に何度か直面してきた。

生きててほしいと願うほど、いつかその時が来たときに、心の底から悲しむんだろう。喪失感も、きっと大きなものになる。

感情を鋭敏に働かせて生きれば生きるほど、喜びや幸せを大きく感じれば感じるほど、それを失ったときの悲しみもきっと深い。

だから、ある意味自分の感情を麻痺させながら生きることを選ぶときもある。その方が、生活に支障をきたさずに済むから。少なくとも僕らが生きる日本の社会では、まだまだ、自分の生活や内面にどんなことがあろうとも、体が動く限りは働くものだということになっていると思う。なかなか休めない。それなのに、日々のいろいろなことに激しく一喜一憂していたら、身がもたない。それはわかる。

それなのに、もっと自分の気持ちに素直でいたいと思うようになってきた。

自分の気持ちに正直でいたい、と。

多分、もう、自分の望むものを手放したくないんだろう。

素直に伝えることなくやり過ごして気づいたら指の隙間からこぼれ落ちていってしまったものも、間違ったコミュニケーションで傷つけてしまったことも、たくさんある。もう、そうはしたくない。仕事や疲労のせいにして大切な人に当たり散らしてしまうような人にも、欠けている自尊心のせいで他人の優しさを無碍にしてしまうような人にも、無邪気な言葉で無神経に傷つけるような人にも、もうなりたくない。

もう、誰にも離れていってほしくない。

叶えるのが難しいと分かっていても、そう思うようになった。



僕もそれなりの悲しみを経験してしまったけど、そしてこれからもそれは避けられないんだろうけど、そうしてますます傷だらけになりながらこれからも生きていくんだろう。

若造の分際で僭越ながら、ブルースって、こういうことなんだなと。

人生がブルースだなんてもう、勘弁してくれと思っていたけど、少しそれを、受け入れつつある。



敬愛するその音楽家がスペースでよく演奏してくれる、僕も大好きな曲。

もうここにはいない人を想う曲には、無条件に惹かれているかもしれない。喪失の歌。

(ピンク・フロイドが、というよりは、シド・バレットとデイヴ・ギルモアが大好き。ロジャー・ウォーターズは偏屈すぎてあまり好きではない…けどあの壮大なコンセプトを音楽アルバムという形で設計した人という意味ではやっぱり偉大だよな)

Pink Floyd - Wish You Were Here


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