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【ゲーム感想】FORTUNE ARTERIAL (2008)

はじめに

 『FORTUNE ARTERIAL』は、オーガストが2008年に発売したPC用アダルトゲーム(所謂ギャルゲー/エロゲと呼ばれる)。2010年、『FORTUNE ARTERIAL 赤い約束』の題でTVアニメ版が放映された。

・総合公式サイト(R-18)

 『穢翼のユースティア』に情緒を破壊されるほど感銘を受けた(感想はこちら)ので、ほかのオーガスト作品もプレイしてみよう企画第1弾。
 2008年発売のノベルゲーとなると、さすがに隔世の感があるが(主に画面解像度で)、当時のシステムでバックログにジャンプ機能まで備えているのは、かなり先進的だったのでは。オーガストの仕事の丁寧さが伺える。

総評 (※ネタバレ無)

 キャラ萌えゲーとしては、100点満点中120点。『ユースティア』も魅力的なキャラばかりだったとはいえ、ヒロインとのイチャラブ度の高さではこちらに軍配が上がる。個別ルートの甘々っぷりは、もはや目に毒レベル。男性陣も、主人公は切れ者で行動が早いし、伊織と征一郎のコンビは、主役を食う勢いでひたすらカッコ良かった。本作未プレイの諸兄のうち、第一印象で少しでも気になるキャラがいれば、迷わずプレイをお勧めします。純愛ものにしてはHシーン濃い目ですぜ、旦那ァ。
 それ以外の長所を挙げると、テキストが軽すぎず重すぎずの丁度いい塩梅であり、かつテンポ良く進むからストレスフリー。恋愛要素を除いても、キャラの背景や設定に引き込まれ、読み物として楽しめる作品に仕上がっている。さらに、本作では凝った演出が際立つ。立ち絵や小物に多彩なエフェクトを組み合わせる手法は、視覚的に凄く面白かった。
 逆に短所として、べっかんこう先生の絵は可愛らしいが、一部のCGでパースの違和感が気になった。自分は絵に関して素人だから、想像で補えば問題ないけれど。

 音楽について、『ユースティア』ほどの衝撃はなくとも、日常を彩るカラフルポップな曲は『フォアテリ』ならではの強み。監督生室のテーマ「時空 ときの人」、ギャグシーンで流れる「駄天使」、ホラー映画さながらの「panic」がお気に入り。
 歌ものも良曲揃いで、「赤い約束」(歌唱:Lia)は本作を象徴する名曲。ゲーム内の演出に合わせた2分超の長尺イントロを聴くと、否が応でもワクワクする。

 以下、各章感想はネタバレ全開なのでご注意ください。






各章感想 (※ネタバレ有)

0. 共通ルート

 両親の仕事の都合で各地を転々とする生活に嫌気が差し、全寮制の名門校「修智館学院 しゅうちかんがくいん」へ転入した主人公(支倉 はせくら 孝平 こうへい)。転入初日からハプニングはあったものの、概ね順調な新生活を送っていた。……とまあ、ここまではごく普通の学園ものだが、本作におけるファンタジー要素として吸血鬼の存在がある。ホラー映画脳からすると、弱点なしの吸血鬼ってかなり怖いんですけど。
 ある日、偶然にも生徒会長とその妹である副会長の正体が吸血鬼であると知ってしまい、生徒会に入って秘密を守るか、転入後の記憶を消去させられるかの二択を迫られる。ここの問答で主人公の性格が掴めてきて、期待値が高まった。最終的に孝平は生徒会に入り、初仕事として体育祭実行委員長の大役に任命される。その後、なんやかんやあって体育祭は大成功。めでたしめでたし。……あれ?もう終わり?慣れない仕事に戸惑ったり失敗することもなく、流れるようにあっさり終わった。
 ただ、シナリオが退屈だったかというとそうでもなく、この時点でキャラクター全般への印象はすこぶる良い。というのも、『フォアテリ』の登場人物は見ていて気持ちの良いタイプが多い。孝平は勉強も運動も抜群に優れているわけではないが、誠実で人当たりが良く、協調性に長けた判断ができる。いわゆる俺TUEEE系主人公と違って嫌味がない。メインヒロインの瑛里華にしても、「学院の全生徒が充実した生活を送れるようにしたい」と粉骨砕身の精神で生徒会の仕事に励む努力家である。シリアス系でない日常描写メインの作品において、ストレス要因の少なさは非常にありがたい。シナリオの起伏はギャグでカバーしているので、特に不満もなかった。

1. 悠木 ゆうき かなで

 寮長兼、風紀委員長。孝平の幼馴染でもあり、妹の陽菜を溺愛している。こういう元気っ娘ヒロインは、経験上それほど好きにならない予感がしていたけれども……。今回は例外中の例外で、かなでさん超好きっす。一見すると幼女/小動物系なのに、さりげなく気配り上手だったり、お姉ちゃんらしい面倒見の良さだったり、そういうギャップが非常に魅力的。仕草のひとつひとつが愛らしくて、胸が締め付けられる。主人公への「こーへー」呼びが可愛らしすぎません?Hシーンのシチュエーションも少々マニアックで、個人的にツボだった(そういえば、自分は裸エプロンに執着していた時期があったな、という古い記憶も呼び起こされた)。
 シナリオに関しては、正直「超感動した!」みたいなものはなく、妹とのちょっとしたすれ違いと、学生らしいエピソードでコンパクトにまとめられていた。共通ルートに続いて問題解決のプロセスがサクサク進むので、欲を言えばもう一波乱あっても良かったと思う。

2. 悠木ゆうき 陽菜はるな

 超王道の幼馴染系ヒロイン。ギャルゲーに必ず一人いるタイプとはいえ、安心感がある。姉を上回る気遣い上手で、ヨメちからの高さぶっちぎり。しかもCV.鷹月さくらって、幼馴染の究極完全態じゃないですか。個人的には、別名義での『車〇の国』『マ〇ラヴ』ヒロインの印象が強い。そして特に重要なところが、本性がエロエロであるという点。清純派と見せかけて、とんでもねぇ殺し文句をバンバン放ってくるもんだから恐ろしい……。
 こちらも話の規模で言うと平々凡々だが、孝平の存在を起点とした姉妹間の問題解決の流れが美しいと感じられる良シナリオ。主人公が出しゃばりすぎず、あくまで当人同士で話し合うべきとしてサポートに徹する姿勢は、非常に好感が持てる。そういえば、本作のメインキャラは兄弟姉妹関係が多いと気づく。千堂、東儀、悠木の三組で、それぞれ関係性が異なる点が面白い。わけても、悠木姉妹のようなお互いを尊重する関係が大好物。おまけシナリオは早々にオチが読めたけど、存分にムホホwできたから良し。

3. 東儀とうぎ しろ

 孝平と同じ生徒会の役員で、本作唯一の後輩ヒロイン。兄の征一郎から過保護な扱いを受けており、本人も兄によく懐いている。一切の邪念なく接してくるし、教えられたことを素直に信じ込むものだから、征一郎の心配する気持ちがよくわかる。心の汚れた自分にとって、この純真さは眩しすぎる……!
 シナリオは面白かったし、何よりも感心するところが多かった。ギャルゲー名物、旧家のしきたり問題をこういう切り口で提起するとは。伝統の重要性に正面から向き合う流れは新鮮。本章における征一郎は、単なる恋愛の障害役ではなく、陰の主人公と捉えてよいだろう。先祖代々守り抜いてきた東儀家の「しきたり」=征一郎の信念 と、白の幸福を願う兄としての想いの狭間で苦悩することになる。この心情が丁寧に描かれていたからこそ、シナリオに深みが感じられたし、征一郎に感情移入しまくりな自分は、「早く白と仲直りしてほしい」という悶々とした気持ちを抱えるはめになった。すべてが丸く収まったわけではないエンディングには賛否両論あるだろうが、自分は彼の決断を支持したい。

4. 紅瀬くぜ 桐葉きりは

 孝平のクラスメイト。他人を寄せ付けない孤高のクールビューティー。素行にかなり問題があり、ついたあだ名は「遅刻魔」「フリーズドライ」だが、本人はさして気にしていない様子。というわけで、念願のクール系ヒロイン!!『フォアテリ』をはじめたきっかけは彼女である、と言っても過言ではないくらいのベタベタな一目惚れ。艷やかな黒髪ロングに切れ長の釣り目、抜群のスタイル。求める要素が余すところなく詰め込まれたキャラ造形の素晴らしさに、ただただ拝むことしかできなかった……ありがとう、べっかんこう先生。そして、クール系の魅力は主人公との距離感にあり、とは自論だが、桐葉もまた絶妙だった。つかず離れずのプロの間合い、照れ隠しのつっけんどんな態度――どれをとっても最高ですね。メールでの「あいたい」シーンは、恋愛映画かよ、とツッコミつつ悶絶。末永くイチャついてくれ。そういえば、猫耳メイド姿の桐葉とのHシーンが発生しないという、深刻なバグに遭遇しました。これってメーカーに問い合わせた方がよろしいでしょうか?
 一方、シナリオ面ではこれといった見どころがなく、消化不良気味なのが大きなマイナス。「主」の小物っぷりが如何ともしがたい。言動が完全に、おもちゃを奪われて駄々をこねる子供のそれなんだよなあ。終わりのない鬼ごっこに重大な秘密が隠されていると思いきや、ただ構ってほしかっただけって……。決着シーンも唐突で拍子抜け。まあ、桐葉や瑛里華はTrueルートの前置きとして、スッキリ解決させるのが難しいと察せられるけど。「主」をきちんと説得するか、二人で力を合わせて勝利の無難なオチでも良かったのに。

5. 千堂せんどう 瑛里華えりか

 TVアニメ版のOPで裸リボンを見せつけてくる人。生徒会副会長。持ち前の行動力と判断力の高さで、生徒からの人望も厚い。本作のメインヒロインにして、その正体は吸血鬼。人外ヒロインに特別思い入れがない自分でも、吸血鬼にはロマンを感じる。吸血行為がエロいから(直球)。それを除いても瑛里華はメインの風格があった。息のあったバカップルほど、見ていて微笑ましいものはない。勝ち気な性格+寂しがり屋の黄金コンボも強い。
 個別ルートの半数以上が吸血鬼と無関係な本作において、珍しくメインに絡むシナリオ。吸血鬼の本能への葛藤が描かれている。展開は意外性に乏しいが、良くも悪くも瑛里華の我の強さがドラマを引き立てていたし、普通に面白かった。オチに関して、結局は伽耶の思惑通りという見方もできるが、個人的には大いにアリ。それどころか、Trueルートよりこっちの方が断然好き(理由は後述)。好きな子に吸血されたい願望、フェチの中では割とメジャーだと思うけど……そうでもない?

6. 千堂 瑛里華(True)

 桐葉の「主」こと千堂せんどう 伽耶かやのビジュアル初公開。和服ロリババアとは、またけったいなキャラを出しよってからに。ええ、好きか嫌いかでいえば当然好きですとも。プレイしながら「なんで伽耶様攻略できないの?」と常々考えていた。Trueは個別に比べて、瑛里華とのイチャイチャが薄いところが不満に拍車をかける。そりゃあまあ、ドが付くシリアス展開続きで雰囲気ぶち壊しかねないことは理解できる。なればこそ、和解した伽耶様から迷惑を掛けたお詫びとして××(規制)してもらうとか、あるいは、孝平を篭絡する為に極上の快楽を与えてやろうぞ、なんてシチュも夢が広がりんぐ。悲しいことに、全部自分の妄想で終わっちゃったけどね……。
 気を取り直して、お待ちかねの真相解明編。個別ルートでぼかされていた部分は明らかになるのか!?とワクワクしていたら、予想をはるかに上回る情報量でぶん殴られた。本筋に全く関係ないと思ってた悠木姉妹まで絡んできたのはさすがにビビる。というか、True全般に対してだけど、その情報は個別ルートに入れても良かったんじゃね?と思うところが結構多い。個別の若干の物足りなさとTrueの詰め込みすぎ感で、もう少しバランス取ったら更に洗練されていたと思う。とはいえ、Trueの展開自体は超面白かった。設定がしっかり練られていたし、エロゲということを半ば忘れるくらい、のめり込んで読み進めた。ただ、プレイ中は怒涛の展開に気を取られていたのもあるが、終わってみるとどうにもスッキリしない。これは好みが分かれるだろうが、問題解決は伽耶との和解に留めてほしかったと強く思う。瑛里華の人間化が都合良すぎるというか、それまでの吸血鬼としての苦悩が軽く流されてしまったように感じられて残念。おまけに、貧乏くじを代々引き続けてきた東儀家には救済無しと来たら、落としどころに不満は残る。

おわりに

 シナリオ間の格差は惜しまれるが、予想の数倍は楽しめたので大満足。正直、キャラ萌えゲーでここまで作り込んでいるとは思っていなかった。オーガストのシナリオ班は信頼できる、と確信が得られたのが大きな収穫。そして、何と言ってもキャラ造形の素晴らしさ。『ユースティア』に続いてまたしても、全ヒロイン好きになってしまった。オーガストこわい。桐葉という至高の存在を生み出していただき、感謝の念に堪えません。
 ところで、本作には開発中止となった幻の家庭用移植版(機種はPS3)が存在する。当時、移植に伴い追加ヒロインも発表されていた。名は「東儀とうぎ 観夜みや」。この子がまた、いかにもな清楚お嬢様系で、めっちゃ好みのタイプなんですよ。今年で15周年ですし、『フォアテリ』リメイクとかで実装されませんかね。伽耶様のヒロイン昇格も何卒……!!


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