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【ゲーム感想】穢翼のユースティア (2011)

はじめに

 『穢翼のユースティア』は、オーガストが2011年に発売したPC用アダルトゲーム(所謂ギャルゲー/エロゲと呼ばれる)である。2023年現在、R-18描写がカットされたPS Vita版、PS4版、Nintendo Switch版も発売されている。本稿で扱うのは、最初に発売されたPC版である。

・PC新装版公式サイト (R-18)
・Switch/PS4版公式サイト (全年齢)

 十数年前のゲームについて今更語るのは気が引けるが、自分はつい先日このゲームをプレイしてエンディングに辿り着き、その時に込み上げたクソデカ感情をどこかに吐き出さねば気が済まなくなったので、こうして2年間放置していたnoteに書き連ねた次第。ちなみにこれが初投稿です。

 前もって自分のエロゲ遍歴を提示すると、90年代~00年代の有名作品は幾つかプレイ済みで、2011年以降ほぼ何も知らんという、広く浅く且つ長期ブランク有りの初級者。おまけに好きなジャンルに相当な偏りがあり、『さよならを教えて』『終ノ空』『キラ☆キラ』がフェイバリット。近年クリアしたのは『MUSICUS!』『ChronoBox』の2作だけ。こんなんですけど明るいゲームも嫌いじゃないです。オーガスト作品は本作が初プレイ。

 前置きが長くなったのであらすじと総評へ。まだネタバレは書きません。

作品概要

 『穢翼のユースティア』は、ジャンルとしてはダークファンタジーに分類される。
 この世界の住人が暮らす浮遊都市《ノーヴァス・アイテル》で、突如として大規模な崩落が起こり、人々の生活を一変させてしまう。地盤沈下によって生まれた区域は《牢獄》と呼ばれ、被災者は文字通りそこに閉じ込められ、治安の悪化と貧困に苦しみ、不治の病と噂される《羽化病》に怯えながら生きてきた。物語は、崩落から十数年後、元暗殺者の主人公・カイムと、凄惨な殺人現場で唯一生き残った少女・ティアが出会ったことで動き出す。

総評 (※ネタバレ無)

 開幕時点でだいぶ暗いっすね、という第一印象。しかし、クリア後に振り返ると寧ろ、よくもまあこれだけヘヴィな題材を立派なエンタメに昇華したものだと感心した。ストーリー展開は紛れもなくシリアスだが、この手のジャンルにしては珍しく、不快に感じる描写が極端に少ない(凌○シーンもなくてほっとした)。制作者の絶妙なバランス感覚には舌を巻く。
 主人公たちは幾度となく不条理に巻き込まれ、心身ともに深く傷つくが、それでも前へ進み続ける。「自分の生まれた意味は何なのか」が本作のテーマであり、どのヒロインにおいても問題の根底がこれに共通しているからこそ、賛否両論はあれど本作が傑作足り得るのだと主張したい。個人的な評価は、オールタイムベストエロゲの中で五指に入ると断言します。

 また、シナリオ構成の工夫と丁寧な伏線回収のおかげで、読み進める際のモチベーションを維持できた点も非常に好印象。本作では、章ごとに異なるヒロインがクローズアップされる。選択肢によってヒロインと結ばれるか否かに別れ、結ばれる方を選ぶとヒロインの個別ルートに入り、エンディングを迎える。つまり、物語のすべての真相を知る為には、メインルートから外れることなく最終章のティアルートへ辿り着かねばならない。
 詳細は各章の感想にて後述するが、徐々に明かされる謎と、他のヒロインとの関係性が思わぬ所で影響を及ぼす仕掛けにおいて、これほど高クオリティなシナリオはそうそうお目にかかれないであろうレベル

 本作の最大の長所とは、と問われれば、それは音楽と即答する。オーガスト作品で多くの楽曲を手掛けてきたスミイ酸氏による、調和の取れた劇伴が物語を彩る。
 タイトル画面で耳にする、美しいハープの調べが印象的な「One of Episodes」に端を発し、どれも流麗な曲ばかりだが、《牢獄》では荒んだイメージが強く、対して《下層》《上層》では格調高い曲がメインと、場面による曲調の違いがはっきりしているところが面白い。自分は、わけても「Blind Alley」が一番のお気に入り。寂寥感漂う日常BGMは心安らぐ。
 それにしても、サントラCD5枚組で捨て曲なしとは恐れ入った。エロゲとしてはオールタイムベストで五指に入ると前述したが、音楽に関しては過去最高作と言える。

 それでは以下、個別ルート感想へ移ります。ここからネタバレ全開なのでご注意ください。




各章感想 (※ネタバレ有)

1. フィオネ

 特筆すべき点はそれほどないが、前章のプロローグに続き、世界設定を理解する上で必要な情報がよくまとまっている。おまけに、こういった都市伝説ホラーの雰囲気は大好物なので、《黒羽》追走劇と併せて楽しめた。
 フィオネは役人然とした堅物の女隊長。お約束だなーと思いつつ、デレた後の破壊力はやはり凄まじい。

 大きな不満もなく読み進めていたが、終盤でやや引っかかる部分があった。自身が正義と信じていたものに裏切られ、失意の中にあるフィオネを立ち直らせるシーン。個別ルートへ分岐する場合は、《防疫局》を辞任することで身を引き、その後はカイムが恋人として支えていく、で概ね既定路線だが、メインルートではカイムが一芝居打って挑発し、奮い立たせるという流れ。いや、問題は何も解決していないのだが……。せめて、プロローグ時のように剣を交えて説得する、とかだったら熱い展開に持っていけた気がするけれど。

2. エリス

 化け物騒動に奔走していた前章とは打って変わって、組織間の抗争が生々しく描かれる任侠もの。ジークの漢気溢れる姿に惚れ惚れ。
 それはさておき、本章で注目すべきはエリスの特殊なヒロイン像だろう。依存型且つ多重人格という、面倒くさい要素欲張りセット。ただしこれが意外性の演出のみに留まらず、エリスの過去や彼女の望むものと複雑に絡み合い、心の闇の深さが切実に伝わってくる。こういうキャラクター造形は新鮮で面白い。ここまで重症だったら、個別ルートの共依存も一つの正解ではないかと思えた。しかし、メインルートでは対照的に、エリスを再び突き放すという悪手としか思えない手段を選んでしまう。詰まる所、カイムはエリスに「自由であれ」という理想を一方的に押し付けるだけで、彼女の苦しみを真に理解しようとしていなかったのではないか。結果的にエリスは吹っ切れたようなそぶりを見せるが、根本的な解決ではないので、違和感は拭えない。

 ここまでの章を踏まえて本作への評価は、「キャラやストーリー展開は非常に魅力的だが、オチが弱い」という印象。もちろん、掌返しする前のフラグですね。

3. 聖女イレーヌ

 舞台は《牢獄》から《聖イレーヌ教会》へ。都市の重大な秘密が明らかとなり、本作のターニングポイントともいえる章。聖女初登場の時点である程度の察しが付いていたこともあり、ネタばらし自体はさして驚きを感じなかった。本章では、残酷な真実を知ってもなお、毅然とした態度で信仰の為に生きる聖女の描写が白眉の出来である。
 第29代聖女イレーヌことコレットは、幼少の頃に教会に拾われ、以降は敬虔な信徒としての人生を送ってきた。しかし、ほかの聖職者のように教会の教えを妄信するわけでもなく、己を導く天使の声こそが絶対の正義という信仰を持つ。世間知らずゆえの未熟な部分も多いが、ある種の悟りを開いた状態であり、慧眼さは目を見張るものがある。その証拠に、カイム自身すら気づいていなかった心の弱さを看破し、「先代の聖女や《牢獄》の環境に責任を押し付けることで、あなたは救われていたのではないですか?」と告げる。聖女様、レスバが強すぎます。余談だが、自分は全ヒロインの中でコレットが一番好きである。芯の強いヒロインは見ていて気持ちが良いし、ラヴィとの姉妹のような関係性が尊い。外見もストライク。蔑むような眼で煽られてぇ~~~!!Hシーンの淫靡さではエリスに軍配が上がるけど、背徳感で言えばやっぱりコレットが最高っす。

 閑話休題。その他重要なシーンといえば、やはりヴィノレタのところは外せない。日常が崩壊する絶望とやるせなさが詰まった、本作屈指の鬱シーン。上げてから落とす流れが完璧だった。

4. リシア

 陰謀渦巻く政治の世界。シナリオ的には本作の最高潮。というか、展開に隙がなさ過ぎて、最終章よりもリシアルートの方が収まりが良いまである。
 前章のテーマであった「何を信じるか」が引き継がれ、今度はカイムがリシアに対して「真実は自分の目で見極めろ」と説く。また、コレットとリシアには共通点があり、どちらも人々から崇められ、外界から隔絶された環境で過ごしてきた境遇がそれに当たる。一方で、片や揺るぎない信念を持ち、片や他人の意見に流されてばかりという、精神面の対比が非常に面白い。何も知らない少女であったリシアが王の責務と向き合い、目覚ましく成長する姿には、ヒロインへの愛情というより父性が芽生えてくる。ヴァリアス説得シーンでは、勇壮なBGMも相まって嗚咽するほど泣いた。立派になったな、我が娘よ……。カイムの大立ち回りも実に主人公らしく、アツいシーン目白押しの王道展開に大満足。

 カイムとアイムの問題まで解決したし、これまでの章と比べて遥かに綺麗なオチだったし、これでハッピーエンドだな!……と言いたい所だが、そうは問屋が卸さない。

5. ティア

 究極の決断を迫られる最終章。言ってしまえばセカイ系のテンプレ通りの展開。救うのはヒロインか世界か。世間の評判によると、本章はどちらかと言えば批判的な意見が多かったように見受けられる。確かに、この終わり方はティアのファンには辛かろう。それでも自分は、物語を綺麗に締めくくってくれたことを称賛したい。
 
そもそも本作におけるティアの立ち位置って、最初から最後までずっと不憫なんですよね。プロローグで死んでるし、最終章は悲鳴上げるばかりだし。途中の章においても、各章のメインヒロインを阻害しないよう、ヒロインらしいイベントは一切発生せず、作中の表現通り「小動物」として扱われてきた。それでも『穢翼のユースティア』がティアの為の物語として揺るぎないのは、これまでのストーリーが全て最終章へ繋がっているから。自分が序盤の章を「オチが弱い」と評した理由は明快で、これまでのカイムはヒロインが抱える問題に対し、耳障りの良い正論を並べるだけで、そこに信条がないと感じていた。しかし、最終章ではその点に直接言及し、カイムが何に基づいて行動すべきかわからなくなり、思い悩むシーンが存在する。これには思わず唸った。シナリオ上の欠点とも言える強引な展開を、こうして最後の課題に持ってくるとは。要するに自分は最初から掌の上で転がされていたという訳か。オーガスト、恐ろしい子……!
 もう一つ面白いと思ったのは、ティアの「カイムさんは、わたしが苦しい思いをして浮かせている街で、誰か知らない女性と仲良く暮らすんだ」という本音。自分含め、この言葉にドキッとしたプレイヤーは多いだろう。ティア以外のルートでは、まさにこの言葉通りの展開になる可能性がある訳で、メタ的な非難とも取れる。
 ティアがあのような決断へ至った流れも、それほど不自然とは思えない。ティアにとってカイムは恩人であり、すべてを犠牲にしてまで助けてほしいとは思っていなかっただろう。ただし、APPENDIXの「楽園幻想」は死体蹴りも良いところで、オーガストが鬼畜であるという意見には同意。

 一方で、最終章にも不満は存在する。ルキウスやコレットが目的の為なら手段を選ばずと言わんばかりに、信念の塊として描かれていたのに対し、フィオネやジークは始終その場の状況に翻弄されていただけで、とりわけジークはエリスの章で見せた漢気はどこ行ったん?と落胆した。カイムやルキウスと交渉するでもなくいきなり実力行使って、《不蝕金鎖》の頭が聞いて呆れるぜ……。不憫と言えばシスティナもそう。純粋な悪役でもないのに、あの最期はいくらなんでも酷い。序盤の章プレイ中は「システィナも攻略できるのかな」と期待していたこともあり、感情が死にかけた。リシアの章で幻想は打ち砕かれたとはいえ、好きなキャラには違いない。せめて、もっとルキウスとイチャつかんかーい!!

おわりに

 長々と書いたが要約すると、「『穢翼のユースティア』、めちゃくちゃ面白かった……」。これに尽きる。テキストの読みやすさもさることながら、キャラクターの心理描写が丁寧で、主人公以外の視点を描いたAnother Viewも功を奏したかと。サブキャラに至るまで全員何かしらの魅力を感じられたのはデカい。
 そして本作を通して改めて、シナリオの場面にマッチした劇伴は最強の武器になると実感した。良質なテキストと音楽でぶん殴られたらイチコロよ。「ここでこの曲が聴きたかった!大正解!」が何度でも味わえる幸せ。

 自分でもここまでハマるとは思ってなかっただけに、嬉しい誤算。ほかのオーガスト作品への興味も湧いてきたが、次にプレイするのは何が良いだろう。いっそのこと、TVアニメ版『夜明け前より瑠璃色な』を観て、伝説を自分の目で確かめるのもアリかもしれない。


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