願望
あそこに行けば、願望を叶えてもらえるらしい。
みんながこぞって出かけた先は、街外れの白い建物。
何かの研究所だと言われている。
そこに行った人々は晴れやかな笑顔で、
願望が叶ったことを報告する。
噂が噂を呼ぶ。
街の人々は幸せいっぱいといった風に笑う。
涙や苦しみ、侮蔑や憎しみさえも消えてしまった。
それはみんなの願望通りかもしれない。
だけど、些かつまらない。
僕は好奇心と反抗心から、その建物に向かう。
歓迎されて入れば、そこには死体が積みあがっていた。
みんな願望が叶った街の人達だった。
いや、願望叶わず殺され、何かに人生さえも奪われた可哀想な人達。
「願望が叶う、とは上手い噂を流しましたね」
研究者に言うと、彼はにやりと笑う。
「ええ。彼らの願望は叶いませんでしたが、おかげで我々の願望は叶いました」
「というと?」
僕の問いに彼は満足そうに歯を見せる。
「多くの実験体を手に入れることができたのです」
僕は納得し、微笑んだ。
仕掛けた爆弾は、あと三分でこの研究所を吹き飛ばすだろう。
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